物理系魔法少女、人気受付嬢の先生と出会った
明日は紗奈ちゃんが休みなので当然俺も休みである。
「もういくつかの物件は決めてるんだよね。後は下見して、星夜さんが気に入ったのにしよ」
「俺の?」
「うん。この中の物は全部、私が気に入った物だから」
とてもスピーディに決まりそうだ。
情報は手に入るけど、やっぱり生身で見ないと気に入るかは分からない。
どれもギルドからは近いし、駅も近かったりと、本当に良い物件だ。
「⋯⋯この条件だと、家賃もっと高い気がするけど?」
「とある方のありがたいお助けのおかげで、これくらいで良いんだよ」
深く聞いた方が良いのだろう⋯⋯けど、紗奈ちゃんだから大丈夫だろう。
でもちょっと怖いから、隣で同じように書類を眺めている秘書さんに聞いておこう。
翌日、準備をしてから俺と紗奈ちゃんは下見に向かう。
どれも近いのですぐに終わるだろう。
「行ってらっしゃい〜」
「「行ってきまーす」」
はて?
いつから俺の家に三人分の住人が居るのだろうか?
まぁ深い事を考えてしまったら頭がパンクするぐらいに増えてしまうので、考えないけど。
天使についても悪魔についても、明日のダンジョンで問い質す予定だ。
一つの意見だけでは偏りもあるだろうし、アオイさん達にも聞いておこう。
最終的には⋯⋯紗奈ちゃんに聞く事になるだろう。
やっぱり情報を沢山得るなら、『天使は世界の敵』と言った彼女の情報が必要になる。
今は引越し先を選ぶのに集中しよう。変な考えをしていると紗奈ちゃんに勘違いされる。
家賃に似合わない良すぎる将来の家候補を渡り歩いた。
今の家と比べたらどれも素晴らしい、としか言いようも無かった。
正直どれか一つに決める事が難しい。
「どれが良かった?」
「どれも良かったとしか言いようがないな。ここに住むって考えると、想像は広がる。ただその分現実感が抜ける」
安定しているとは言えない俺の収入で大丈夫なのか?
「いずれは戸建てを買うけど、今はこれにしようか」
「え?」
サラッととんでも発言が聞こえた気がするけど、気のせいかな?
多分、気のせいだろう。
そして選ばれたのは、そこそこ新し目に建てられたマンションである。
「ここって支部長のマンションなんだよね」
「へーそうなんだ。不動産持ってるのに支部長してんのか⋯⋯」
「まぁ、色々な事情があってね」
帰りに公園に寄る。
そこに来ているクレープ屋があった。
紗奈ちゃんが俺の袖を引っ張って、クレープ屋の車を指さす。
「あれ、食べたい」
「良いんじゃないか? 奢らせてもらいますよ。色々としてもらっちゃってるし。小さい恩返しから」
「ありがと。遠慮しないからな〜」
「どうぞ、お手柔らかに」
ガッツリ一番高いクレープを頼まれた。俺はそこまで好きじゃないので頼まなかった。
ただ、何も注文しないのは良くないと思ったのでおまけであったかき氷を頼んだ。
紗奈ちゃんはパクパクと食べる。俺はかき込む。
「ごちそうさま」
「頭キーンってならない?」
可愛らしく再現する紗奈ちゃん。子供っぽくて可愛い。
「大丈夫。あんまり冷たいもの一気に食ってもそうならないんだよね。ただ、舌が冷えると段々と味を感じなくなるから⋯⋯」
「味ある内に食べるって訳ね」
「そそ」
かき氷のゴミを捨て、再び紗奈ちゃんの隣に座る。
夏休みだからか、公園には遊ぶ親子連れの子供が多かった。
楽しそうにはしゃいでいる。あ、コケた。
「星夜さん」
「ん?」
「ひ、一口、どうですか?」
時々見る、決意を固めた戦士の目をした紗奈ちゃんが自分のクレープを差し出して来る。
「かき氷全部食べちゃったよ?!」
一口交換なんて、できない。
だから貰うわけにはいかないだろう。なので断ろうとしたら、紗奈ちゃんが首を横に振る。
「一口、食べて欲しいの。できれば唾液を残して」
「ちょっとよく分から⋯⋯なくもない」
なくもないが実行はしたくない。
紗奈ちゃんは諦めなさそうなので、俺は軽く一口貰う事にした。
最近は大丈夫だと思うが、初めての事だ。
念の為、大きく息を吸って肺に空気を溜める。
「いただきます⋯⋯」
小さく言葉を漏らす。
「どうぞ⋯⋯アーンです」
一口、パクリと食べた。
「間接っ!」
刹那、紗奈ちゃんの顔がりんごのように赤く染まって、俺はカチコチに凍らされた。
空気が一切入って来ない。うん。俺の判断は正しかった。
少しだけ外が見れる。あ、子供達が見てくる。
やめて、見ないであげて。
「あわわ。ごめん⋯⋯」
紗奈ちゃんが氷を消そうとした瞬間、誰かの手が氷に触れる。
刹那、氷が消滅した。
「久しい魔力を感じたと思ったら、やっぱり紗奈か⋯⋯何してるんだ?」
「ゆ、ユリアさん!」
紗奈ちゃんがすごく驚いている。
俺も驚いた。腰まで伸びる長髪のストレート。
黒髪で身体はスラッとしている。
別に睨んでいる訳では無いのだろうけど、こちらを見てくる時の目つきは少しだけ、睨んでいるように感じてしまう。
喋り方は立ち振る舞いが、俺にクールキャラを連想させる。
そんな女性から感じる声音は見た目とは別物で、とても優しくてふわりとしたモノだった。
「えっと、どちら様で?」
「えっとね。私が魔法を制御できなかった時に魔法の扱いを教えてくれた先生なんだよ」
「そうなんだ。初めまして、神宮寺星夜です」
「そうか君が⋯⋯堅苦しいのは良いよ。こちらにもタメ語で話してくれたまえ。ユリアと言う。紗奈は弟子のようなモノだから、優しくしてやってくれ」
「もちろんです」
まっすぐ言われたので、俺もまっすぐ言い返す。
まるでご家族に挨拶している気分になるが、違う。
紗奈ちゃんの俺達の会話にあたふたしており、それもまた可愛いのである。
からかいたくなる。
「美味しそうだね。一口貰えないか?」
「どうぞ」
「ありがとう」
「あ! ちょっと待って!」
紗奈ちゃんが一面を一通り食べてから、渡した。
その謎行動に俺もユリアさんもクエスチョンマークを頭に浮かべる。
髪をかきあげて、一口ユリアさんはクレープを頬張った。
「それじゃ、デートの邪魔をして悪かったね」
「支部長に用事ですか?」
「ああ。呼ばれているんだよ。君もだろ?」
「はい」
なんともカッコイイ格好をしているユリアさんだった。⋯⋯長袖のコートって暑くないのか?
全身黒色だったし。
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