物理系魔法少女、これがアカツキクオリティ

 少しだけ身体を動かす。曇りの内に大地に身体を馴染ませておきたい。


 「レベルアップした?」


 「うん」


 「そっか。なんか前よりも速くなってる」


 ふむ。


 俺自身もそんな感じはしている。


 そうこうしているしている内に、雲がどんどんと離れて行き、太陽の明かりを⋯⋯。


 「おいおい」


 「待って、これは僕も初めてだよ」


 「嫌な感じがビンビンするぜ」


 雲が消えて現れたのは大地を照らす太陽?


 否。


 大地を照らすのは見る者を虜にしてしまうような、とても美しい月光である。


 「月⋯⋯それに夜空か?」


 「このダンジョンで外と時間がズレるのは、ありえない」


 「ありえないはありえない」


 なぜなら、ダンジョンにはそのような現象に名前を付けているからだ。


 イレギュラー。


 『動画ばえ!!』

 『拡散しろ! ルミナスさんやアカツキちゃんの為に拡散しろ!』

 『夜、あー(察し)』


 『とりあえずアカツキ戦犯』

 『否定できねぇ』

 『アカツキをゲートに運べ』


 『イレギュラーを解決するにはアカツキを外に出すしかない』

 『おめぇらひでぇな。本人も否定しなさそうだけど』

 『ウケる』


 さーて、俺と夜が合わさると頭に出て来るのはアンデッドだろう。


 ゾンビか、スケルトンか?


 どっちだよ。


 「アカツキさんっ!」


 「⋯⋯ありゃあなんだ?」


 ルミナスさんが叫び指を向けた先には、大きな骨がクロスボウを持って、のっそりのっそり歩いていた。


 赤き眼光をこちらに向け、跳躍する。


 「しぃ!」


 俺は駆け出した。


 放たれた高速の矢を蹴り砕く。


 「あの距離でここまで正確にルミナスさんを撃って来るのか」


 「ミュータントスケルトン! 本当に今は夜だって言うのか!」


 「夜限定なの?」


 「夜、そして満月、さらに晴れ、この三種の条件が揃った上でのレアな魔物だよ」


 「へぇ」


 魔物本体は別にイレギュラー生物って訳じゃないのか。


 「ポーションはある?」


 「弾丸でダメージは与えられるよ」


 「再生及び復活は?」


 「あれはアーチャー、だから問題ないと思う」


 防御力は⋯⋯関係ないか。


 推奨レベルは合ってるんだ。相手がいくら硬かろうと、それを上回る攻撃力でぶっ叩く。


 「行くぜ!」


 『まじでアンデッドかよ』

 『しかもレア魔物と来たw』

 『やっぱりアカツキだな』


 『これがアカツキクオリティ』

 『今回はあっさり終わる?』

 『そうだと良いね〜(フラグであれ)』


 矢はできるだけ砕きながら接近した。


 「まずは一発目だ!」


 殴りは腹に綺麗に的中した。しかし、砕くには至らなかった。


 少しだけヒビは入った。何回か殴れば倒せるだろう。


 「ジャラララ!」


 「うわっ!」


 めっちゃ高く飛ぶやん!


 クロスボウを月に向けてエネルギーが先端に溜まり、それを俺に向けて来る。


 とても綺麗で、月と同じ色をした光が俺に降り注がれ⋯⋯なかった。


 一筋の閃光が相手のクロスボウを弾いて、射撃を遮断した。


 「おっら!」


 俺も全力で跳躍した⋯⋯だけど相手の脚力は異次元だった。


 何かしらの強化スキルないと、俺以上に高くは跳べない。


 「あ、これって隙だらけの身体を晒しただけ?」


 相手は器用に空中で回転して、蹴りを入れて来た。


 防御姿勢は取ったが、それでも加速して落下する。


 背中に走る衝撃。


 「次はさせない!」


 ルミナスさんの射撃がミュータントスケルトンの肩に命中して、少し離れた場所に着地した。


 「だあ!」


 俺も埋まっていた地面から飛び出た。


 肩をゴキゴキ鳴らす。


 「これはロリ化しても意味ないな」


 ぶっちゃけあれは対人戦向けって感じだし。


 あんな大きな奴には意味は無いだろう。


 「あーだるい」


 俺はバットを握る。やっぱり、俺はこうだろ。


 ミュータントスケルトンに向かって走る。真正面から矢が飛ばされる。


 「しゃらくせぇ!」


 クロスボウの矢なんて、片手で振るうバットで余裕じゃ!


 ジャンプして、強くバットを握る。


 「ほら、防いでみな!」


 横ステップで躱され、反撃の矢が飛んで来る。


 弾丸がその矢を砕いた。


 あ、ターゲット変わった。


 「逃げんなよ!」


 バットを投擲した。足に命中して、バランスを崩す。


 「そらっ!」


 回し蹴りを顔面に決めた。バットを回収する。


 「ジャラララ!」


 「今度は高速ダッシュか?」


 「狙いが、定まらない」


 高速で走りながら、複数の光の矢が俺に向かって飛んで来る。


 それを躱して攻撃チャンスを見計らう。


 「⋯⋯めんどくさい!」


 地面に向かって強く振り下ろす。


 銃声と何かが弾かる音が鼓膜を揺らした。


 クロスボウに弾丸を当てたのだろう。音がなりやすい場所を正確に撃ったんだ。


 流石はルミナスさんだ。


 「後は俺の番だ!」


 音の場所をしっかりと把握して、俺はその場に移動した。


 バットを軽く投げて牽制し、拳を固める。


 「必殺マジカルシリーズ、本気殴りマジカルパンチ


 土煙が晴れ、身体の中心が無くなった大きなスケルトン。上半身が俺に向かって倒れる。


 「かなりの大物が引っかかったな」


 大きな骨、それと魔石。最後にクロスボウがドロップした。


 ルミナスさんと山分けするか。


 彼女の元に行くと、ホクホク顔である。


 「イレギュラー、コラボがトレンド入りしたらしいよ」


 「ふむ」


 「反応薄いね! バズったんだよ! 喜ぼうよ!」


 「お、おう! ちょー嬉しいー!」


 「分かってねぇ!」


 クロスボウはルミナスさんが、その他は俺が貰えた。


 本来の目的を達成する気分になれるはずも無く、俺達のライブは終了した。


 「イレギュラーはまだ終わってないっぽいけど、俺達には関係ないな」


 未だに続く夜を背に、俺達は帰還する。


 「ありがと、最高のライブだったよ」


 「こっちもありがとう。魔法返しが無くてちょっと残念だね」


 「それは次の機会に絶対に見せてね」


 矢は避けたり攻撃できる余裕はあったが、掴む余裕はなかった。


 魔法を使わないアンデッドは倒すのは簡単だな。


 「あ、なんかフラグ立った気がする」


 それに応えたように砂嵐が現れる。


 雲一つ無い夜空に。


 「ごめん、ライブ始めて良い?」


 「目を輝かせて⋯⋯お願い」


 さーて、次はどいつだ?

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