特別編
◆支部長の生まれ◆
天使とは、世界を管理して均衡を保つ為に存在している機械だ。
生物と言うにはあまりにも無機質であり、個々の感情や性格は存在していない。
それを生き物とは呼べないだろう。
ただ、機械も生物も時が経てば錆びて腐り去る。
当然、天使にも同じ事が言える。
古くなれば捨てて新しいのを作れば良い。それで問題ない。
我は天使として天界で生成された。番号なんてくだらないモノも存在しない。識別名も何も無い。
与えられた役目をただやるだけの機械だ。
我に与えられたのは一つの世界のバランス管理である。
世界のバランスを崩す存在を発見して、討伐班に報告する。
速やかにその原因を排除して崩壊を防ぎ、世界のバランスを保つ。
それだけの存在である。
でも、我は違った。言わば不良品だったのだ。
討伐の時に出た天使の数が減っていたら、身体の中にぽっかりと穴が空く。
身体は無傷だ。中身にも傷はない。なのに、穴が空いたように虚しい。
時々考える。なぜ自分はこんな事をしているのかと。
誰かに質問するのは自分の役目じゃない。だから質問しない。
しかし、時が経てば経つ程にその穴は広がり続ける。
世界を色々と俯瞰しながら観察した。そして理解した。
自分には心があるのだと。心とはなんだ。
天使は死んでも、数が減っても、何体でも作られる。なのに減る度に悲しくなる。
不思議なモノだ。心とは。
時が経ち、仲間が古びて処分されて再利用される。当然それに疑問は出ない。
それも役目の一つだから。
でも自分は違った。それが無性にイライラするのだ。
どうしてこんなあっさり処分されないといけないのか。それが初めて感じる怒りだった。
好奇心が生まれた。色々と知りたいと。
疑問が生まれた。どうして天使は存在するかと。
生まれた感情は広がって様々な感情を生み出し、ついには天使に自分の不具合がバレた。
当然、速やかに処分される運命だった。
だから、適当な世界に逃げた。
我は生きたい。生きて、色んな世界を見たい。
水の存在するマグマの惑星に降り立った。時が経てばそれらは大地を作り生物を作り出した。
我はそれを観察した。
天界から離れた事により自分の身体は徐々に保てなくなっていた。
ただ虚しく一人で世界の流れを見て、時には知恵を与え、時には討伐隊の天使を倒した。天使に強さのばらつきは基本無く、感情を手にした自分は己の力を鍛えていた。
そして人が生まれた。彼らは面白かった。
文化を作り、社会を作った。感情が沢山あったんだ。
だから自分も人間のフリをして社会に参加した。最初の彼らの寿命は酷く短かった。移り変わりが天使よりも激しい。
だけど、そこに尊さを感じた。
ああ、楽しい。楽しいなぁ。そう感じてた。
いつしか悪魔が世界には生まれていた。
悪魔はバランスを崩す存在だと言われていたが、そうでは無いと知った。この子達面白いんだよ。
人間は賢かった。
火を見つけ、鉄を打ち、武器を作った。だけど戦争が起こった。
人の『欲望』が尊い命を奪ってしまう。とても悲しくなった。
自分は戦争を止める程の力が残ってないと悟っていた。だから手を出さなかった。
長くこの世界を観る為に。
悪魔は魔界を作り、引きこもった。
また孤独になった。
戦争が終わったらテクノロジーが発展した。電気からさらなる発展が起こったのだ。
もうすぐで身体が朽ちる、そんな時期だった。この世界にバグが発生した。
本来起こらないはずの運命をこの世界は呼び寄せた。
ダンジョンだ。
この世界は滅びへと向かい始めた⋯⋯そう思った。
ダンジョンと共に管理者がこの世に現れた。違う世界から存在していた彼らの中には自分よりも年老いた存在がいた。
バグは天使の目に付くだろう。そしたらここを滅ぼしに来る。
この世界全体がバグなのだ。
最初のバグは悪魔が生まれた事だろう。天使が世界を滅ぼそうとしたら彼らは抵抗する。
天使はこの世界に詳しくない。だから詳しい駒を使う。
弱くて使いやすい駒をバグに介入して利用する。
この身がもうすぐ朽ちる、あと数刻で。
タイミングが良かった。
生きる力を望み、生存意欲の強い人間を見つけたのだ。
契約した。
自分はその子の肉体を借り、彼女には力を与えた。
それが良い感じにマッチして、自分は肉体を保つ事に成功した。
『生の使徒』の役目を手に入れた。もう孤独じゃない。
仲間が居る。
天使からこの尊い世界を守る。
『生』を操れる力を手に入れた、半人半堕天使のこの我の長きに渡り手にした叡智と仲間達と共に。
変化や進化を良しとせず、停滞や均衡を望んでいる訳でもなく、それを保とうとする機械共から。
「我、最古の堕天使なり」
自分には感情が存在する。何かを考える力がある。
生きたい、進みたい、様々な欲望が渦巻いている。
それはとても尊いのだ。
今の自分は個であり軍だ。
簡単には死なないし殺されない。
「天使が手を引くまで、この天魔大戦は終わらない。守ってみせるさ」
その決意を旨に、自分は焼肉屋に入った。
◆紗奈の過去◆
「指定校推薦は貰えるだろうし、バイトしてお金稼がないと」
金欠な学生である私は何か良いバイトはないかと考えていると、テレビのCMで探索者の話が出て来た。
初期投資が厳しいけど、上手く行けば凄い稼ぎになるんじゃないか?
「私これでも運動得意だし、行くか」
初めてのダンジョンは緊張する。ステータスカードを見る。
ネーム:神楽紗奈 レベル1
体力:E 筋力:E
防御:E 敏捷:E
器用:A 技能:A
知力:A 魔力:A
スキル:【氷の使徒】《神の加護:ハーデス》『限界突破』『火炎弱』『寒冷無効』
「お、なんか凄い気がする。神の加護?」
よく分からないから放置で良いかな?
氷の魔法を自由自在に操れた。本当にイメージ通りに動くのだ。
それに違和感も何も感じない。
これは凄いのでは無いだろうか?
他のダンジョンにも足早に行っては魔法を使っていた。
正直、敵はいないって思ったね。
一ヶ月以内にレベル3になった。この時から感情の起伏が大き過ぎると、勝手に冷気が出るようになってしまった。
大学のオープンキャンパスに来ている。友達はみんな、この大学に興味はなかった。
探索者も大学見学もぼっちである。寂しい。
「えっと、あったがそっちでこっちがあっちで⋯⋯ダメだ頭がこんがらってきた」
適当に歩いていたら、よく分からないところにやって来てしまった。
どうしよう。不安が押し寄せてくる。
落ち着かないと、冷気が⋯⋯。
「大丈夫ですか?」
「え?」
大学の先輩に会い、受付まで案内してくれた。
心寂しかった。それを見抜いてか、沢山話してくれた。
大学の事を面白おかしく話してくれた。
気を使ってくれた事がとにかく嬉しかった。
レベル四になった。力の制御がさらにできなくなった。それでも沢山のお金は稼げるようになった。
大学に入り、案内してくれた人を探した。
彼は何も覚えてはいなかったけど、同じサークルに入ったり講義受けたりした。
そしたら自然に話せると思ったから。
結果? なんの進展もなく、友達もできずにぼっちライフを謳歌してます。無駄にナンバされたり告白されたりして、同性から嫌われた。
ずっと一人だったからか、彼から話しかけてくれた。ようやく再会したと言えるだろう。
そこから輪に入れてもらって、友達も増えた。
大学に馴染めたのも彼のおかげだろう。
色んな場所に行った⋯⋯友達グループと。まじで、『二人で行きませんか?』と言ったら、『皆も誘う! 大勢の方が楽しいしさ!』って返される。
しかも自分の感情を誤魔化すとか、ラブコメ要素じゃなくて純粋にそう思って発言しているから、タチが悪い。
何回怒りのボルテージが上がった事か⋯⋯。その度に己の冷気が冷やしてくれたさ⋯⋯周りを。
それでも良かったのかもしれない。
寂しい思いをしなくなったのは、彼が取り持ってくれたからだ。
探索者で気まぐれにパーティを組んだ事もある。そして仲間が死んでしまった時もある。
その度に彼が慰めてくれた。優しく会話してくれて、傍に寄り添ってくれた。
ただ、星夜さんが社会人になってから一度も連絡が取らなくなった。
家にも行った。二十四時間張り付いた事もある。
なのに会えなかった。警察も何回か呼ばれた。
不安になった。大学の時は毎日のように会話したのに、いきなり音信不通なんだから。
どうしてメッセージを返してくれないの? なんで連絡くれないの?
彼女でもできたのかなぁ。私があんなにアプローチしてもなびかなかったのに?
手料理も何回もした、家にも遊びに行った、それも二人きりでだ!
ふざけてる。イライラする。なんでさ。
そこである答えに至ったのだ。彼の部屋にあった同人誌に良く映っていた女性の見た目と私はかけ離れている、と。
絶望した。
ずっと片想いを持って、告白したら逃げられてなぁなぁにされて、音信不通のままで結局答えは得られなかった。
その恨みを魔物にぶつけた。少しだけスッキリしたけど、それでも拭えない不安があった。
「次会ったら、ずっと私だけを見てくれるようにしよう。どこにも行かない、消えないようにしよう。星夜さん、私以外の女とあんまり会話してないし、良いよね?」
彼が欲しいと言うのならなんでも与えよう⋯⋯だけど絶対に離さない。
でもどこにいるか分からない。
その時の私は再び友達を失っていた。笑えなくなっていたらしい。
支部長と出会ったのは、魔物を氷で狩っていた時だ。
レベル五になり完全に制御できなくなった力をどうにかするために、ダンジョンに籠っていた。
「寒いね〜」
「近づくと危ないですよ。凍ってしまいます」
「大丈夫大丈夫! それに良い子を連れて来たよ」
そこで私は魔法の制御を教えてくれる先生と出会った。
世界について、使徒について教えて貰った。
そこから私の人生は加速したと思う。
強敵を倒して、死にかけて、それでも彼と再会するために奮起した。
使徒としてではなく、紗奈としてこの世界を守りたいと思ったから。
いつしか、レベル9って言う所まで到達していた。
支部長も先生も倒せてしまう程の力を手に入れた。だけど心の不安は拭えなかった。
ずっと健在だ。
私を友達だと言ってくれる人達は増えたけど、どうしても彼の存在が頭から離れなかった。
あの人のタイプに合わせた見た目になった。オシャレにも気を使っている。
それでもやっぱり会えない。
私の氷が私の心を凍らせてくれたら、どれ程楽な事か。支部長が許さないだろうけど。
今の私は空間そのものや相手の内なるモノすら凍らせる程になっている。
力を手に入れても手に入らないモノはあるけど。
仲間と居る事に安心感を覚える事はなかったけど、不思議と寂しくはなかった。
祝杯の時に私にだけ酒が用意されたなかったのは、正直今でもムカついている。何がいけないのか?
私の仲間は使徒以外にも複数人居た。全員が探索者を引退して各々の道に進んでいる。
私達女性陣の使徒は支部長のギルドで働いている。この辺を離れたくなかったのが正直なところだ。
◆星夜再会時点のステータス◆
ネーム:神楽紗奈 レベル9
体力:A 筋力:A
防御:B 敏捷:A
器用:S 技能:S
知力:S 魔力:SSS(エラー)
スキル:【氷の使徒】《神の加護:ハーデス》《氷精霊契約者》『限界突破』『神獣契約:青龍』『自己修繕.10』『魔力超再生.10』『魔法攻撃力上昇.10』『魔法制御超向上.10』『魔力精密感知.10』『熱源精密感知.10』『敵意精密感知.10』『火炎弱』『寒冷無効』『
きっと星夜さんと会える、そう思って。
【あとがき】
12時くらいと20時くらいに投稿致します。お休みいただき、感謝しております
8月18日、『自己修繕.10』を追加しました。忘れておりました。申し訳ございません
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