物理系魔法少女、幻の精霊と出会った

 紗奈ちゃんが重苦しい顔をしながら朝食を食べている。


 何かあったのだろうか?


 聞いていいのか分からないので、俺は何も聞かないでおく。


 下手に聞いて余計に機嫌を損ねたくない。


 変に聞いて関係を壊してしまった事が昔にあるのだ。


 「それじゃ、行くか」


 「うん。今日はどうするの?」


 「あーどうしようね。考えるわ」


 ギルドに入って、どこに行こうかと考えているとアオイさんからメッセージが来た。


 諦められないのか、また精霊の森に行くらしい。


 魔法の強化は諦めて、レベルアップを目指す手もあると思うが、早めようと考えると推奨レベルが上のダンジョンに行く必要がある。


 それは危険だし、紗奈ちゃんが良い思いをしない。


 受付に向かう。


 「それで、今日はどこに行くの?」


 「昨日と同じ、精霊の森」


 「ふーん。じゃあーまーたパーティですかー」


 「ごめんなさい」


 誠心誠意謝る。


 一人は危険だからパーティを組んで欲しい、だけどパーティを組むと拗ねる紗奈ちゃん。そこがまた可愛いのである。


 「はぁ。まぁ良いけどさ。三連休どこのタイミングて使おうかなぁ」


 紗奈ちゃんがそんな事を呟きながらステータスカードを渡してくれる。


 紗奈ちゃんは出張を二日くらいで終われせており、その対価として三連休を自由なタイミングで貰えるらしい。


 不思議な職場環境なのだが、深くは聞いてない。興味もない。


 「北海道でしょ?」


 「⋯⋯そのつもり。でも、私達観光に興味無いじゃん? だから食事メインで考えているんだけど⋯⋯」


 「色々と考えてくれてありがとう。いずれ行こうね」


 「絶対だからね」


 約束してから、俺はダンジョンに入った。


 アオイさん達と合流して、泉の場所まで向かった。


 だが、前回と違って精霊が来てくれる事はなかった。


 「お使いに出てるのかな?」


 「それはないと思うわ」


 ミズノのボケにツッコミを入れるがアオイさんは真剣だ。


 こんなダンジョンでどっかに出かけるような場所はないだろう。


 「でも、どこかに行っている可能性はあるわ」


 「純粋に出てこないだけなのでは?」


 「水の中に魔力を込めても全く、なんの反応も示さないわ。これは何かあるのよ」


 「そんなもんですか」


 それから三人で別れて探す事になった。


 俺のレベルが3だとは伝えているが、加護があるから大丈夫だと言われた。


 加護スキルについては詳しく聞いてないが、二人は天使であり、俺は神である。


 この違いは正直分からない。


 どの天使の加護かも聞いている訳では無いので、調べようもないけど。


 時々薄らと輝く、森の中を歩いているが精霊に会える気が全くしない。


 それどころか、見渡す限り、木のオンパレードだ。


 「え、やっぱり普通に居留守しているだけじゃないの?」


 そんな事を思いながら、進んでいるけど方向感覚が狂いそうになる。


 前を歩いているのに右に向かって歩いている、そんな歪みに歪んで疑問にも思わない。


 不思議な感覚がどんどんと俺の中を侵食して行く。


 「これはあれか? 酔ったか? そんな訳ないだろ」


 地面に頭を打ち付けて、狂いそうな感覚を取り戻そうとする。


 何回も何回も。


 「なんだ、まじで気持ち悪い⋯⋯」


 視界が歪み始めた。


 「そんなに頭を打ち付けて、バカじゃないの?」


 「紗奈⋯⋯ちゃん?」


 どうしてここに居るんだ?


 黒髪をなびかせて俺の横にふわりと立つのは、朝見た紗奈ちゃんである。


 「てか、さっきの女の子達誰よ〜」


 「ッ!」


 俺は紗奈ちゃんに向かって拳を突き出した。


 何かを殴った感覚が拳に感じて、それを突き飛ばした。


 何本かの木をへし折って、ソイツは止まった。


 「い、痛い⋯⋯まーじで殴って来るやん」


 「誰だお前?」


 紗奈ちゃんを装っていた幻が、違う女の姿になる。精霊か?


 気持ち悪いのが無くなった。


 「幻術か? なんでこんなマネをする?」


 「愛する人を容赦なく殴るその精神を知りたいね〜」


 「紗奈ちゃんは口よりも先に冷気を出すんだよ! 凍らせて尋問するんだよ。どうやってその見た目を実現したか知らんがな、騙されると思うなよ!」


 「主はそれで良いんか?」


 おい、なんだその心の底から憐れむような表情は!


 冷静な頭で考えれば、声も少し変だった気がする。違う、きっと違うぞ。


 「あと、普段の紗奈ちゃんの目はもっと柔らかいんだよ! 優しい眼差しをするんだよ! 見た目だけパクるなら、もっと上手くやれ!」


 「うわ! 幻の精霊たるわらわがいきなりぶん殴る最低クソクソDV男に説教された! お手本見せろじゃ!」


 俺が紗奈ちゃんの姿をすると、ドン引きされる。


 「え、キモ」


 アカツキちゃんに戻り、近づいた。


 拳を固めて、相手の顔面に向かって突き出す。


 「ちょっと! 本気で殴るなよ! 痛いんじゃ! 死ぬわ! まじでどーして殴れるんじゃ」


 「躱すなよ! 森が壊れるだろ!」


 「わらわは全く悪くないじゃろ! 痛いんだから避けるんじゃ!」


 それは確かにそうかもしれん。


 つーか、そもそも最初から幻術なんて俺にかけなければこうなっては無い。


 とりあえず、もう一発殴らないと気が済まない。


 紗奈ちゃんを侮辱したんだからな。


 ⋯⋯ん?


 「おい、今男って⋯⋯」


 「おん。わらわは主が神宮寺星夜と知っておるぞ? フルネームが無駄にかっこいい割に顔は平均以下じゃったなぁ! ムダ毛処理くらいせい! あ、わらわ達が正しいからの?」


 あ、それは結構気にしている。


 やっぱりするべきだよなぁ。髭とかも剃りたい。


 「道具とか買いに行こうかな? 紗奈ちゃんにどう言うかだよなぁ」


 買い物とか一緒にするしさ。


 「いや、そうじゃない!」


 もっと重要な事があるだろ!


 「なんで知ってんだ!」


 「秘密じゃ。秘密の方は人間は興味を持つらしいからの。それで主よ、わらわと契約しないか?」


 「断る! 普通に、断る!」


 「なぜじゃ!」

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