物理系魔法少女、真の魔法少女になった

 「ふん。速度に対応できなければ意味ないんだよ」


 『何が起こった?』

 『速く殴った』

 『説明が簡潔すぎる!』


 『それ以外に言いようがないよね』

 『ただ速く殴っただけで倒れるのか⋯⋯えっぐ』

 『まじで兵器やん』


 エルダーワーウルフにゆっくりと近づくと、魔法が飛んで来るので空に向かって蹴り上げた。


 もう満身創痍、さっさとトドメを刺す。


 「⋯⋯」


 「じゃあな」


 だが、めんどくさい事に他の魔物が俺を攻撃して来る。


 さっさと終わらせたいのに。


 術士が己の心臓である魔石を無理くり取り出していた。


 ああ、最悪だ。


 こんな魔石を生贄にする魔法を魔物が使う光景、前にも見た。


 止めるのも間に合わない。


 俺の推測通り、他の魔物の魔石が全て、エルダーワーウルフに吸収させる。


 儀式魔法なのだろうか?


 「力が、みなぎって来る」


 「そうか」


 「仲間の命を吸収したこの俺様に、お前はどこまでやれるかな?」


 理解が速いな。


 「俺様は負けない。俺様を信じて、命を捧げてくれた仲間の為に」


 「そうか」


 黒い毛並みになって、少しだけ身体も大きくなった。


 これはもうエルダーを超えているだろう。なので分からん。


 狼男と言っておく。


 「アンデッドじゃないだろうな?」


 「手始めに⋯⋯ただのパンチだ!」


 速いっ!


 「らっ!」


 相手のパンチに合わせるが、互いにダメージは無さそうだな。


 しかし、怪しげに奴の口角が上がる。


 「この程度のパンチで互角か⋯⋯俺様は勝ちを確信した!」


 「はぁ?」


 『何言ってんのこいつ?』

 『分かんね』

 『マジカルパンチでどうせ沈むやろ』


 再び攻撃が重なる、そう思った瞬間に俺の腹には拳がねじ込まれていた。


 吹き飛ぶ。


 「ゲホゲホ。いってぇなあ!」


 「今のは認識できまい。貴様の拳が全く通じない。だが俺様の攻撃は通じる。これが格上の力だ!」


 「お前⋯⋯物理攻撃耐性とか手に入れたのか? まじでアンデッド系じゃないだろうな」


 ポーションを取りに行くか?


 吹き飛ばされたせいでかなりの距離が空いたが、ポーションを試すチャンスだ。


 「何を考えている?」


 『え、速くね?』

 『大丈夫なん?』

 『ガンバ!』


 ダメだ。攻撃が回避できない。


 俺の反応がワンテンポ遅れている。


 しかも相手は全然本気を出している感じがしない。


 「クッソが。だからどうした。攻撃が当たらない訳じゃないんだ」


 再び相手の拳が腹に食い込む。


 逆流して来る物を全て抑え込み、拳を固める。


 「らっ!」


 俺の突き出す拳は相手の顔面に命中した⋯⋯だが、痛みを感じた様子は皆無だ。


 「通じんぞ!」


 「ちょま」


 足を掴まれて、タオルのように振り回されて地面にぶつけられる。


 手を頭の下に入れて僅かでも衝撃を減らす。


 脳が揺らされる。


 「いつまで、持ってんだ!」


 「中々のパワーだな」


 「マジカルパワーじゃ!」


 無理やり脱出したが、これじゃポーションを回収する事も難しいな。


 はぁ。血が流れて来た。


 俺の足りない頭で考えて、攻略の糸口を見つけないといけない。


 このままじゃジリ貧、俺が負ける。


 「愉快愉快。だが終わらせよう。仲間を弔わなくてはならない」


 相手が青龍刀を握った。


 力の差は歴然だから、もう決着を付けようってか?


 「武器を使うのは俺も一緒だよ」


 ステッキを取り出す。


 だけどどうする?


 なんの武器の心得もないこの俺が、見るからに経験者風の奴と戦えるのか?


 「つくづく、魔法が使えたらって思っちゃうぜ」


 なんで変身前の俺は使えて、魔法少女になったら使えないんだよ。


 「さらばだ」


 「逆転の方法は⋯⋯」


 ⋯⋯しかたない。アカツキちゃんの新機能をお披露目しよう。


 まずはバットで地面を殴る。


 「煙幕か! 苦し紛れな」


 「どうだろうな。新生アカツキちゃんに勝てるか?」


 「⋯⋯は?」


 今の俺はなるべく細くして、身長は小五の女子平均くらいだろう。これが最低身長だ。


 『え、小さくなったぞ?』

 『なにこれ?』

 『幻術? それとも変化?』


 『こんな見るからに弱体化のスキルある?』

 『可愛い⋯⋯ロリコンじゃないからな?』

 『これが合法ロリか』


 唖然とする狼男は、我を取り戻したのか高笑いを上げる。


 まるでバカにしているようだ。


 「くだらないな。さぁ、さらばだ!」


 「アンデッドじゃない可能性も少しはあるかもしれない」


 その可能性に掛けて、ぶん殴る!


 青龍刀を避けて、相手の顔面にバットをフルスイング。


 「ぐふっ」


 「さすがに回転を乗せたら防御力を貫くか」


 だけど長く持つかは分からんな。


 「何が⋯⋯起こった?」


 「ほら来なよ。チビに負けると仲間に顔向けできないぜ?」


 「安い挑発を」


 確かに相手は速いよ。ギリギリ見えない程度だ。


 だがお前がさっき言った事だ。


 予備動作を見て攻撃を予測して躱す。


 何回も攻撃を受けたら、嫌でも覚えるし見えるようになる。


 そしてこいつは慣れている。


 こいつは大人とかそこら辺の奴らと戦ってきた、あるいは人間との戦闘経験はないだろう。


 今の俺はチビ、小学生と同等だ。


 こんなちっこいの相手と戦った事はなく、動きも大人用。


 その慣れは動きに鈍さを生み出す。さらに動きが見える。


 「小さい的に当てる為に狙いを定める⋯⋯だから動きが少し遅くなる。遅くなるから見える、見えるから避けられる」


 カメラを気にしなければ⋯⋯いや、そもそも戦闘中に身体を変える考えは一度もしなかった。


 しかし、戦いの中で先入観は時に隙を生み敗北に繋がる。模擬戦で経験した。


 「新しいのを恐れず試す、それが時に利益と繋がる」


 「ぐっ」


 「一発じゃ倒れないなら、何発でも殴る。⋯⋯そしてハンマーを使えば、一撃の火力も上がる!」


 「がはっ」


 何よりも、身長が低いからこそ細かい動きができる。


 低いの利点を活かし、変わらぬ身体能力で短所を埋める。


 小さい分、一歩は小さくなる。だからその分速く動かす。


 「これが真の魔法『少女』だ!」


 『真の魔法少女は魔法を使わないらしい』

 『使わないんじゃない。使えないんだ』

 『子供は火を使ったら危ないだろ? 魔法も同じだ』


 『真の魔法(物理)少女』

 『喋れるし知性全然あるし、アンデッド感は無いな』

 『でもアカツキちゃんアンデッド大好きだからな』


 『ネクロマンサーにリッチ、あれ骨じゃない?』

 『じゃあアンデッドじゃないのかな? 博士いない?』

 『もしも魔物の識別名が無いならイレギュラーの一種やなw』

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