物理系魔法少女、躱されるのなら躱せぬ速度で殴れば良かろう

 目的の魔物を倒す前にリュックの中が満タンになりそうだな。


 ジャラジャラしている。


 「サポーターも雇おうかな?」


 『動きに付いてこれんだろ』

 『普通の移動でも走ってるからね、この少女』

 『通り魔の暴走トラックよ』


 そんな事を考えながら探索していると、ようやくそれっぽいのを見つけた。


 筋骨隆々の狼男、その周囲にも人狼らしき存在がいる。


 あれで間違いないだろう。


 リュックを離れた場所に置いて、向かう。


 カメラも大丈夫だよね?


 「そんじゃ、行きますか」


 ステッキの存在を完全に忘れている俺は堂々と正面に姿を現す。


 静かに臨戦態勢に入る人狼達は、エルダーワーウルフの咆哮と共にこちらに向かって駆ける。


 同時に俺も走った。


 スピードは完全に俺の方が上である。


 「スピードがあるなら、速さも活かせ」


 スピードを殺さない回し蹴りを頭にぶち混むと、凹んだ。


 そのまま飛び散る肉片。


 『やっぱ重機やん。重機や』

 『工事現場に一人は欲しいな』

 『一つのミスで全てが崩壊しそうな地雷でもある』


 攻撃は腕で防ぎつつ、カウンターで倒す。


 顔の攻撃は避けるけど。


 「ふんっ!」


 金的を狙って蹴り上げたら、身体全体が空中に舞い上がった。


 地面に落ちると、魔石に姿を変える。


 いまさらだが、魔石以外のドロップアイテムが欲しい。


 『タマヒュンした』

 『男は近づくなよ?』

 『アカツキちゃんが笑顔で暴れてるよ』


 アンデッドも殴れば倒れるけど、それは弱い奴だけだった。


 ある程度の強さがあると、パンチを耐えたり、復活したりする。


 今はポーションがあるので、もうアンデッドは問題ないけどな。


 「うわ」


 脇に腕を通されて捕まった。


 カメラは⋯⋯きちんと斜め上を飛んで綺麗に撮影してくれている。


 「グルルル」


 「え? 笑ってるの?」


 目の前にいる人狼が笑っている気がした。そんなに仲間を倒した奴をボコれるのが嬉しい?


 狙いは腹であった。


 「よっ」


 下半身に力を入れて、身体を上にあげる。


 この身体、見た目と違い筋力はバカみたいにあるし、身体も凄く柔らかいのだ。


 人狼のパンチは捕まえていた人狼に当たる。


 『バカじゃん』

 『身体柔らかいな』

 『おい待て。この上から撮影で、上にしりを上げてるのに、パンツが見えん』


 『マジだ! ふざけんな! 重力仕事しろ!』

 『細く綺麗な太もも⋯⋯』

 『こんなとこでサービスするから変態が増殖するんだぞ』


 解放されたので、陥没する拳を顔面にお見舞して倒しておく。


 それでもまだ数はいるな。


 それと魔法だ。形のない魔法は掴めないから不便だ。


 「ステッキ使うか?」


 服の内側にステッキがあるので、取り出して使うかも考えた。


 でも、訓練施設を利用したので、ギリギリまで拳でやろう。


 「待て。ここは俺様がやる」


 エルダーワーウルフが直々に対戦してくれるようだ。


 「喋れんのか」


 「まぁな。俺様は頭が良いんだ」


 「うわ、悪そう」


 手に持っているのは青龍刀か。


 「どうする? 俺に剣が通じるか試すか?」


 防御評価はBだ。止めてくれ。


 剣は砕けたりするけど、実際かなり怖いんだよ。


 だって斬れるんだよ? ちょー怖いよ。


 『カッケー』

 『お、イキリか?』

 『筋肉で捕まえるか、パンチで砕くか』


 「くだらん挑発だ。俺様を舐めるなよ」


 「ふーん」


 剣を使わずに拳で語り合おうぜ。怖いし。


 「だが面白い。乗ってやる」


 青龍刀を鞘にしまい、地面に突き刺した。


 低姿勢で迫って来た。


 「なら、踵落としじゃ」


 「お前の攻撃は単純なんだよ」


 俊敏な動きで攻撃を避けて、縫うように滑らかに殴りが飛んで来る。


 歯を食いしばり、デコで受ける。頭突きじゃ。


 「ほう。防御面はそう硬くは無いな」


 「どうだろうな」


 俺の額から微かに血が流れる、エルダーワーウルフの殴った右手は骨までボロボロだ。


 防御だけならBだが、攻撃に回れば筋力Sが入る。


 「面白い。お前の疾風の如き攻撃、どこまで避けれるか試してみようぞ!」


 「お前さ、そんな風に喋って恥ずかしくないの? それともそーゆーキャラ?」


 てかさ、お前も『自己再生』持ってんの?


 骨がボロボロだった右手で拳を固めるんじゃないよ。


 俺も額の傷は治ってるけど。


 「じゃあ、躱してみな!」


 俺の攻撃。


 単純らしいので、パンチからのキックを瞬時に切り替えてやった。


 フェイントだよ。


 「いや、さっきよりもパンチが緩やかだし、足も次の攻撃がわかりやすい。そんなフェイント通じる奴いるか?」


 「うっさいな!」


 バックステップで回避したからって、ドヤってんじゃねぇぞ!


 『ドヤ顔だったアカツキちゃんが赤面しとる』

 『かわいいかわいい』

 『そんな頭を使う戦いは似合わんぞ』


 それからも攻撃をするが、先読みしているかのように避けられる。


 反対に相手の攻撃は面白いように命中する。


 むっちゃ腹立つ。


 「さて、次のステップと行こうか。このままじゃ決着が長引く」


 「それ、熱くないの?」


 「使用者に影響あったら、魔法なんぞクソだろ」


 拳に炎が灯る。


 厄介な。


 「はぁ。じゃあこれならどうだ?」


 俺は地面を蹴り上げる。


 地面が岩石のようになり、飛んで行く。


 『砲台?』

 『出し放題』

 『おもんね』


 「無駄無駄無駄無駄!」


 「それじゃ、これならどうだよ!」


 木を掴み上げ、ぶん投げる。


 「くだらんわ!」


 弾き砕かれ、破片が燃えて灰となる。


 「じゃあ、これならどうだよ」


 俺は一気に駆け寄る。


 「予備動作が大きいお前の攻撃なんぞ当たらん」


 「じゃあ、予備動作が見えない攻撃ならどうだ?」


 拳を固め、連打のイメージを脳内で作り上げる。


 後はその思考に身体を追いつかせる。


 「必殺マジカルシリーズ、本気連打マジカルラッシュ


 「だから、無駄だと⋯⋯ぐふっ」


 「オラオラオラァ!」


 俺の本気の連打で見えるのは、拳のみ。


 予備動作すら認識できない、高速のパンチ。


 予備動作で避けられるなら、それが分からない速度で攻撃すれば良い。相手の動体視力、思考速度を超えれば良い。


 単純明快、とても簡単な論理だ。


 そして、俺の一撃は重い。

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