物理系魔法少女、迷子を送り届けた

 東京ってのは辛いな。まず、人が多い。


 あと日光が辛い。うん。帰りたい。


 一応財布とかその辺は一緒に持って来ているのだが、もう帰ろうかな。⋯⋯あれ? ここ、さっきも通らなかった?


 「体力も結構⋯⋯俺ここまで体力落ちてたのか」


 足が痛いので座れそうな場所を探そう。


 今後は散歩とかして、少しでも体力を増やすべきだろうな。


 魔法少女の時の方が体力が何億倍もある。


 「うわああああああん」


 「子供が泣いてるよ」


 母親は大変だねぇ。


 とか、呑気に考えていたのだが、目の前にその泣き声の正体が居て、母親らしき姿はなかった。


 迷子だろう。きっと誰かが声をかけてくれるだろう。


 だが、二分見守っていても誰も声をかける様子がない。


 人間そんなもんだ。


 「どうせ暇だし。嫌がられたら変身するか」


 俺は子供に近寄った。コンビニで買ったジュースを片手に。


 近くのコンビニでも、片道一分もかかったぜ。


 「どうしたの。迷子の子?」


 「⋯⋯完璧で究極の迷子ぉ」


 「泣きながらその返事ができるって逞しいな」


 して、飲み物をあげるけど一向に手を伸ばそうとしない。なぜに?


 「毒入ってる?」


 「コンビニでさっき買ってきたんだよ。レシート見るか?」


 「いいの?」


 「俺はジュースが苦手だ」


 少しは落ち着いた。


 日陰に移動して話を聞く事にした。


 「お母さんは?」


 「いない。両親いない」


 「そうか。聞いて悪かった」


 じゃあ、施設の子か。


 この辺の地理は知らないし、ネットを使おう。


 充電切れてる⋯⋯ふざけんじゃねぇぞ。


 肝心な時に電源付かないのマジで意味分からん。最近減りが早い。


 どうするか?


 街ゆく人に聞いて答えてくれるか⋯⋯しかたない。


 「住んでる場所は分かるか? あるいは交番」


 「交番はわからない。でも、住んでる場所なら少しわかるよ」


 「おっけ。じゃあ後は、それっぽいの見つけるまで歩けば良いさ。いずれ見つかるだろ」


 「⋯⋯ひっく。それ迷子の思考」


 的確なツッコミを受けたが、きちんと範囲を決めて歩き回れば良いのさ。


 体力? なんのための魔法だよ。


 三時間後、ようやく発見した。


 「最初の場所から徒歩20分だった。まさか真逆の方向を探していたとは⋯⋯」


 警察の人とたまたま会えて良かった。


 一応俺は迷子を拾った人物として、一緒に施設に同行している。


 「はると!」


 「ミドリ姉ちゃん!」


 子供がミドリと呼ばれた女の子に向かって走って行く。


 「ごめんね。お姉ちゃんが目を離したせいで。良かった」


 抱きしめるミドリさん。


 彼女の顔は一度だけ見た事がある。


 緑風の魔法少女のミドリさんだ。


 「僕も勝手に行動してごめんなさい」


 「ええよ。無事で良かった。アナタが見つけてくれたんですよね? ありがとうございます。無事なのはアナタのおかげです。事故にでもあっていたら、うち⋯⋯」


 「いえいえ。お気になさらず」


 俺も放置しようとした一人だ。心が抉られる。


 てか、ミドリさんって東京出身だったのか。


 「それでは、俺は⋯⋯」


 「あの。お礼がしたいので、あがってください」


 「いえ、その必要は⋯⋯」


 「それだとうちらの気が収まりません。どうか、お茶だけでもしてってください」


 逃してはくれなさそうだったので、しかたなく俺はお茶を貰う事にした。


 ここには数十人の子供と二人の先生、ミドリさんが居た。施設はかなり大きい。


 高校生はミドリさんだけか。


 俺とミドリさんだけが対面に座り、他の人は外で遊んでいる。


 「改めて、ありがとうございます。うちがゲーセンに連れて行った時にはぐれてしまい、警察には連絡したんですよ。いや、本当に助かりました」


 「いえ。こっちも連れ回してしまったので⋯⋯そのせいで発見が遅れた可能性がありますね」


 お茶をすするミドリさん。


 この部屋の壁には子供が描いたであろう絵が飾ってあり、ミドリさんと思われる絵が多かった。


 「うちの事気になりますん?」


 「あ、はい。凄く、周りから信頼されている様子だったので。すみません」


 「ええですよ。大したお礼もできまへんから。と、失礼。うち、両親に捨てられてここに来たんですよ」


 「あ、そんな踏み込んだ話は大丈夫ですよ」


 「大丈夫です。ほんで、うちは探索者やってるんですよ。金はここと学費に当ててるんです。他の施設にも寄付してますよ」


 「そうなんですか。凄いですね」


 「褒められたくて言ってまへんよ。それだけうちが世話になったってだけなんです」


 僅かな興味しか無いが、教えてくれるなら聞いておこう。


 無言のまま茶を飲むのも気まづい。


 「⋯⋯ここには両親に捨てられた子、失った子、売られた子が居るんです」


 ⋯⋯ん?


 売られた子?


 ダメだ。これ以上聞くと凄く暗い話になるぞ。


 「おにいはん、こんな施設、ない方が良いと思いまへん?」


 「えっ」


 「家族から愛されなかった子、愛されない子、そんな不幸な子がこの世には数万とおる。そんなのは⋯⋯間違っとる」


 俺は何も言う事ができなかった。


 俺は世間一般で言う、家族に愛された子だ。


 だからミドリさんの辛さが分からない。だから何も言えない。言ってはならない。


 「この世に悪は要らない。悪があるから悲しみや憎しみが生まれる、その元凶が悪魔や。この世を平和にするには、悪魔を滅ばさなくちゃいかん」


 ミドリさんの小さな呟きは俺に届く事はなく、遊ぶ子供を眺めて、呑気な世間話に変わった。


 そこから互いの近況話。


 ミドリさんは一度も魔法少女の事は言わず、探索者と言っていた。


 あと、俺の年齢が想像以上に低かったのか、目を飛び出していた。


 涼しくて、会話も弾んでしまい、昼ごはんも頂いてしまった。


 夕方なので、帰らなくては。


 「すみません。お世話になって」


 「いえ。こちらも子供達と遊んでいただいて⋯⋯ありがとうございます」


 お礼を言われる事はマジでしてないが、俺は踵を返した。


 その後、施設から聞こえた声は楽しいものである。


 「ミドリ姉ちゃんオニゴしよ!」


 「ええよ! ミドリ鬼が疾風の如く追いかけちゃうぞ〜」


 「そう言って全員捕まえた事無いくせに〜」


 ⋯⋯戻りにくいな。


 駅の場所を教えてくださいって、聞きにくいな。


 ちくしょう。


 もういっそ、魔法少女になって高速道路走るか?


 警察に捕まるな。

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