物理系魔法少女、嫌な時は酒で流せ!
魔物のドロップアイテムの収入が15万円となり、借りてた数万円を返した。
これを見ると、本部長の謎の指名依頼の報酬が破格な事が分かる。
てかさ、紗奈ちゃん?
いや、紗奈さん?
手を繋ぐのは良いんだけどさ、氷で固定しないでいただけますか?
周りからの目は気にしなくても、とても冷たいし手の感触がしない。
ただ冷たいのだ。
「今日は機嫌が良くないの?」
「⋯⋯そうですね」
敬語⋯⋯これは相当だ。
こんな時、一番楽な解決方法を知っている。
だが、試したくない。絶対に。
「⋯⋯紗奈ちゃん、家の道はこっちじゃないよ?」
「外食ですっ!」
珍しい事だ。
だけど、ほとんどの店に言えるのだが、紗奈ちゃんが再現した方が普通に美味しい。
忖度抜きにしても、だ。いや、少なからず忖度はあるのかもしれない。
まぁ紗奈ちゃんの決定なら俺は従うまでなのだが、金払えるかな?
「ここです」
「そろそろこの手の氷を消してくれないか? 冗談抜きで左手の感覚が無くなってるんだわ」
笑い事ですら無いのだよ、もうね。
「あ、ごめんなさい。力みすぎて気づかなかった」
「不便よね」
「レベルの弊害だね。昔は問題なかったんだけど、今は感情の起伏で冷気が出ちゃうんだ。⋯⋯安心して、同棲までには何とかするから!」
同棲をしたくない唯一の理由ができてしまったかもしれない。
家族連れの多い焼肉チェーン店に入り順番が来るのを待つ。
平日の六時くらいなのですんなり入れた。
適当に焼肉を注文して、ビールも頼む。
「紗奈ちゃん。愚痴なら聞くから、ほれ吐いて楽になりな」
アルコールで流すのが一番、紗奈ちゃんは酔わせたくないので、試したくはなかった。
「別に愚痴って程じゃないよ。私をなんだと思ってるのさ」
来たビールのジョッキを掴み、ごくごくと流し込んで行く紗奈ちゃん。
そんな飲み方は危険だと思うのだが⋯⋯変に刺激してはダメだろう。
「そもそも本部長からの指名依頼ってなんなのよ。あの方は基本的にお使い頼む時は自分の直属の部下に頼むじゃない!」
知らないけどね。
「なーのに。一ヶ月そこらの初心者のレベル2に、適正レベルを無視して、本部長の肩書きを全面に出しての指名依頼ってなんなのよ!」
「⋯⋯酔った?」
「酔ってない!」
酔ってないそうです。
少し顔を赤くして、目が座っているけど、酔ってないそうだ。
一ヶ月⋯⋯探索者になってからもうそのくらい経過するのか。
じゃあもうすぐ広告が付けれるようになるな。やったぜ。
スパチャも開放されるだろうから、ライブをするか、それとも広告をたくさん付ける為に長編を撮影するか。
考えものだ。
「しかも、適正レベルを無視した上にイレギュラー発生中なんだよ! バカかよ!」
「ちょ、紗奈ちゃん口悪いよ! 落ち着いて⋯⋯」
「下の魔物が上に来た可能性もあるし、出現場所がバグって、上層で中層の魔物が生まれた可能性もあるのよ!」
「後者の場合だと少し弱かったりする?」
酔っ払い気味になっている彼女に質問しても、適切な答えは帰って来ないかもしらないけど。話を少しでも逸らして、口悪紗奈ちゃんを戻したい。
「そうですね。やっぱり、出現場所が弱い場所だと、少しだけ弱くなりますね」
一瞬仕事モードになったが、すぐにへにゃりと身体を机に倒す。
「火、危ないからね」
「少しでも当たったら、この辺が凍るので大丈夫でーす」
「あ、それ全然だいじょばないやつや」
ちなみに俺はまだ左手の感覚が戻ってないので、暖かいスープ系を頼んでいる。
はよ来い。
「依頼品もエレキトルギアじゃない良く分からない物だったし、ごめんね誤情報与えちゃって」
「あ、そうなの?」
ビリビリした何か、しか覚えてなかったから問題なかったけどね。
「あ、肉来た」
「たべるぞぉ」
紗奈ちゃんってアルコールに弱いんかな?
一時間ほど経過して、俺は店を出た。
酔い潰れた紗奈ちゃんをおんぶしながら。
「⋯⋯紗奈ちゃんが全く自制しなかったな」
寝顔可愛いな。
ほっぺつんつんしてやろうかな? 写真には絶対に残しておく。
これからは予備電も買わないとな。クッソが!
「ふへへ。せいやしゃん。そんにゃとこにゃめたら、しにましゅよ」
「え、何を舐めてるの? 夢の中の俺何してんの?」
このままおんぶして帰るの大変だな。
身体強化の魔法をイメージしながらおんぶして移動するの結構大変。
ここら辺来ないし、なおさらだ。
「しゃーない」
人気のない場所に入って、変身した。
こっちの方が速い。
屋根を足場に移動して、まっすぐ帰った。
紗奈ちゃんの家はセキュリティが強いので、俺の家で寝かせておく。
「おやすみ」
俺は捨てないでおいた、ボロい布団を広げて、寝た。
「おはよう」
揺らされて起きると、制服姿の紗奈ちゃんが朝ごはんを作り終えていた。
「昨日はごめんね。やな事あってさ」
「良いよ。誰だって、酒に逃げたい時はあるさ」
「ありがと。それで私決めたんだ」
「ん?」
覚悟を決めた顔だ。まるで、魔王に戦いを挑む勇者の仲間の騎士のようだ。
「出張頼まれちゃったけど、断るね!」
「それは仕事だからちゃんとしなさい」
てか出張だったのね。
「いーや! 星夜さんと離れたくない!」
そんな駄々をこねる子供じゃないんだし。嬉しいけど。
「ドアに移動するの早いね」
「経験則」
もしも凍らされる事があれば、ここから即脱出だ。
「星夜さん暇だし、一緒に行こうよ」
「心にダイレクトアタックだよ。否定できんけど。んで、どこ?」
「沖縄」
「楽しんでおいで」
紗奈ちゃんが俺の手を掴もうとするので、全力で回避する。
好きな人の抱きつきやらなどの愛情表現(?)を躱す人は少ないだろう。
だが俺は躱す。なぜなら命の危険を感じるからだ。
「なんでさ!」
「修学旅行が沖縄だった事があってな。俺だけ皆とは違う集合場所言われてさ、沖縄に置いてかれた事があんだよ」
「⋯⋯」
なんか銀髪になっていた気がする紗奈ちゃんの髪の毛が黒色に戻っていた。⋯⋯一瞬だったし、多分気のせいだろう。
この、なんのも言えない空気。
くっそ。忘れていたあのクソ教師の顔を思い出しちゃった。
なーにが「する相手を間違えた」だ。どっちにしろ悪いわ。
クラスメイト達と団結して、クビに追い込んだけど。
「⋯⋯はぁ。トラウマの地か。新婚旅行はハワイの予定だったので大丈夫だよ!」
親指を伸ばしている。ドヤ顔だ。ドヤドヤのドヤだ。
「新婚旅行が計画されている事に驚きだわ」
紗奈ちゃんは窓を開けて、そこから飛び出した。
空中に立っている⋯⋯空気を凍らせて足場にしているっぽいが、重量は関係ないのかな?
「それじゃ、死ぬ程嫌だけど行って来るね。最速で帰ってくるから!」
「ああ。行ってらっしゃい」
「帰ったら北海道旅行しよーねー!」
手を振る。
紗奈ちゃんは沖縄だと思われる方向に向かって、走って消えた。
「アカツキちゃんもあんな事できるのかな? 足を高速で動かしたら水面を走れる⋯⋯試してみるか」
え、旅行?
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