物理系魔法少女、ビリビリする依頼品を回収する

 まずは依頼品とこの熊を引き剥がす。


 「らっ!」


 バットで攻撃をしたら防がれる⋯⋯だが、剣は脆いのか簡単に砕ける。


 すぐに再生されるから意味が無いけどな。


 このまま押して行けば倒せるかもしれないが、依頼品が消えてしまう可能性も十分にありえる。


 だからこそ、素早くこいつを引き剥がさんとならん。


 「頭を撃ち抜く!」


 屈んで射線から大きく外れ、紫色の閃光が熊の顔面に迫る。


 しかし、相手も俺と同じように屈む事で回避した。


 背中から伸びる剣は自在に動いて俺を攻撃して来る。


 回避場所を狭めたら、両手にある剣で攻撃して来るのだ。


 「そらっ!」


 その場合はバットで攻撃し、剣を破壊する。


 再生に動きがチェンジする前に腹を蹴り、少しでもダメージを与える。


 瞬時に背後に移動して、バットでフルスイング。


 「ちぃ。中々に重いな」


 だけど場所は良い感じだ。このまま押せたら行ける。


 再びライフルの発砲音が聞こえるが、剣で防ぎやがった。背中の攻撃を防ぐのか、ノールックで。


 「空間把握能力が想像以上に高い⋯⋯」


 ルミナスさんの瞬時な解説を聞きながら、俺はバット一本で応戦していた。


 「押している⋯⋯」


 少しでも離す。


 それでもバットじゃ限界があるな。


 「一か八か」


 バットで左側から迫る剣を弾き、流れるように手を離す。


 右側から迫って来た剣を掴む。


 「くっそ痛ってぇ! だけど、トカゲみたいに切れる訳じゃないんだな」


 強く引っ張って相手の体勢を崩し、強めの蹴りを入れ込む。


 これで少しでも離す。


 「つっ」


 手から血が流れる⋯⋯だけどこれならすぐに再生するだろう。


 剣を壊さずに相手を押し込むならこれが一番効率が良い。


 熊の目が赤色の光を発する。


 「攻撃パターンが変化するよ!」


 「りょーかい」


 背中にある剣が畳、両手に持つ剣だけが目立つ状態になった。


 そして、目の前に迫る熊。


 高速の斬撃を戻したバットで防ぐ。


 一本で二つの剣を防ぐのは中々に苦しいが、できない訳じゃなかった。ただ、高速に動かして防ぐだけだしね。


 「ちぃ。狙撃は完全に防がれる⋯⋯どうすれば」


 声を認識するかもしれないから、アドバイスができない。


 でも彼女なら気づくはずだ。


 だから俺ができる事はチャンスを作る事。


 「オラオラオラオラ!」


 相手の斬撃の数よりも多くバットを振るう。


 そうすればいずれ本体に攻撃は届くんだよ。


 パンチも入れて押し込むが、すぐに立て直して駆けて来る。


 焦っているのか? もうすぐ依頼品からのエネルギー吸収ができなくなる距離なんだろうな。


 「同じ場所に攻撃してくるのは、防ぎやすくてありがたいね」


 バットを横に倒して防ぐ。かなり重いけど耐えられる。


 畳んでいた剣が動き出す。そりゃあそうか。


 「らああああ!」


 屈伸して押し返し、回し蹴りを決める。


 流れるように背後に移動して、剣を繋ぐ部分をぶん殴る。


 気持ちいい破壊音だ。


 「撃つ!」


 熊が振り返ったタイミングで顔面を撃ち抜く。


 目の部分が完全に抉れた。


 うん。予想通りだ。


 こいつは背後からの攻撃は剣で防いだ⋯⋯だが、正面から顔面に迫った銃弾は回避したのだ。


 深い理由は分からんが、そう言う仕様があるのだろう。


 それで少しでも変わってくれたら良いんだけど⋯⋯。


 「つーか、動物的なのは見た目と毛皮だけか」


 中身完全に機械じゃん。


 しかも再生始めたし。


 ん?


 「どこ見てるの?」


 熊が動いた⋯⋯しかしその先には俺じゃなくてルミナスさんだ。


 「しまっ!」


 「⋯⋯今じゃっ!」


 ジャンプ斬りと言う、熊の見た目で軽やかな攻撃を繰り出す。


 ルミナスさんは股を潜り抜けて回避した。


 「光が伸びてない⋯⋯範囲外だ!」


 ならそこで一気に決着を付ける。


 俺は走った。


 片足が斬られてる?


 「サブウェポン、レーザーエッジ。電力消費が激しいから、あんまり使いたくないんだけどな」


 「なにそれカッコイイ!」


 熊の剣みたいに刃が光る剣だ。


 男心をくすぐる。


 「ありがと。それよか、普通に自分の魔力で再生するから」


 「そうなのね。んじゃ、トドメ刺して来る。あれなら避けられんだろ」


 俺はツルハシに見た目を変更する。


 一撃の貫通力はめっちゃ高い。


 ジャンプと振り上げ。


 「あばよ機械の熊さん」


 全ての剣を盾にして俺の攻撃を防ごうとしているのだろうが、バットで簡単に砕けるような剣じゃ防げない。


 それら全て貫いて、お前の脳天をぶち抜く。


 反応出るなら防ぐんじゃなくて、避けるべきだったな。


 「技名が思いつかないので、ただの振り下ろしで! すまんな!」


 剣を全て貫き、頭を貫き、そのまま胴体を抉った。


 「⋯⋯倒したな」


 邪魔者は居なくなった。


 復活はしないし、合体とかもなかったな。


 推奨レベル4とか言われたけど、これならアオイさん達の方が全然強いな。


 あの使徒も⋯⋯紗奈ちゃんはどのくらいの強さなんだろ?


 こいつも本来の性能よりも落ちた個体なんかね?


 ま、良いや。依頼品を回収するか。


 「動画にするなら、魔法を使える相手の方が良いな」


 なんか味気ない。


 魔法を投げ返す、やっぱりアカツキちゃんの特徴が使えないのはなんとも⋯⋯。


 ビリビリした球体に近づく。


 「うっ。悪いけどあんまり近づけないや。気持ち悪い」


 「そう? 何かのステータスに作用があるのかな? とりま回収しよっと」


 瓶の蓋を開けて、依頼品を取る。


 「アババババ」


 一旦置こう。


 ステッキをゴム手袋にする。服を変える事もできるのだが、ステッキにする。


 別に違いは無い。


 「うっ。それでも少しピリピリするな。なんでだよ。ゴムを貫通するな」


 瓶の口よりも大きい気がするけど、ツルンっと入った。


 蓋を閉めて、リュックに入れる。


 「これにて完了っと。帰り道の案内よろしくね」


 「そっちも守ってね」


 「ルミナスさん普通に強いじゃん」


 「そう言ってくれるのは嬉しいけど、それは誤解だよ」


 ゲートまで帰還した。


 特に魔物に遭遇する事は無かった。


 「本当にありがとう。助かったよ」


 帰り道が分からなかったしね。


 本当に助かった。


 「それはこっちもだ。あ、ちょっと待ってね。⋯⋯これにしてライブは終わり! お疲れ様! 無事に僕は帰って来たよ! 今晩の雑談配信でコメ返するね!」


 ⋯⋯ライブだったのか。


 「それじゃ、改めて、本当に助かったよ。ありがとう」


 振り返った際に左目が見えた⋯⋯それは到底人の目とは思えない見た目をしていた。


 まるで機械の目だ。


 だけど、それを聞く必要は無いしつもりもない。


 ここでお別れだしね。レベルも1つ違うし。


 「それじゃ、さようなら」


 「うん」


 同時にゲートを通り、違うギルドなので当然隣には彼女は居ない。


 居たら大変だけどね。

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