人気受付嬢、少しだけ情緒不安定

 「そう言えば、今日はあのおじさんと一緒に来てなかったけど、喧嘩?」


 「おじさんって⋯⋯私達が喧嘩をする訳無いじゃないですか」


 「ほーん」


 同僚に言われる。何かを察した感じを醸し出している。


 そう。今日、星夜さんはどこかに行って誰かと会っている。


 ある程度の予測はできるのだが、それでも不安なモノは存在する。


 ダンジョンの中で私に分かる事は、生きているかどうかだけなのだから。それも支部長から聞かないと分からんし。


 だが今回は外! スマホに隠し入れたGPSから位置情報しか分からない!


 「もしかして彼女さんかな⋯⋯寒い寒い。冗談だって〜」


 「友達でも言って良くない冗談くらい分かるでしょ?」


 「ほんまごめん」


 真顔で謝ってくれたので、許してしんぜよう。


 ⋯⋯昔の私みたいにピアスを着けて、少しだけ胸元を露出させた格好。


 星夜さんは今の私のような見た目がタイプなはずだから、心配の必要は無い。


 同僚の方からは、ショタ好きなので心配はない。


 「むしろなんで完璧にタイプで、見るからに好意のある女が毎日一緒に居るのに、告白してこないのよ!」


 「ちょ、ロッカー壊れるから八つ当たりしないの」


 「してない!」


 「凍ってるから! 暖房に切り替わってるし!」


 とりあえず、意識を切り替えて仕事をしよう。


 私の仕事はダンジョンに探索しに行く人の管理などだ。


 挨拶して、要件を聞き、無駄話を聞き流す。


 タブレットに打ち込まれた探索者IDにより出て来るステータスカードを取り、足元のハッチが開いて探索者ID登録されている武具やアイテムが出て来る。


 それらを探索者に渡す。


 「神楽さん。今日何かありましたか? 調子が悪いようですが?」


 体調面なら問題ない。悪いのは機嫌だ。


 「大丈夫ですよ。生きて帰って来てくださいね。待ってますから」


 「もちろんですよ! 俺達のパーティ⋯⋯」


 「次の方が待っておりますので、よろしいですか?」


 「おっとすまない」


 はぁ、星夜さん今はどこで何をしているのかな?


 休憩。


 「紗奈っちゃん〜」


 「なっに〜?」


 「今日の客を堕とす営業スマイルが硬いぞ〜」


 「いつもと変わらないよ」


 頬をツンツンしないで欲しい。星夜さんならむしろして欲しい。


 さっきの同僚が目敏く私の普段との違いを見抜く。さすがは同期⋯⋯元探索者パーティメンバー。


 やりずらい。


 「目が笑ってないのよ。そんなに愛しの彼が居ないのが不安?」


 「そんな事無いです」


 「今頃、マッチングアプリで出会った女性とホテル行ってたりして」


 部屋が凍りつく。


 「ちょっと支部長。紗奈ちゃんをあんまりからかうの止めてくださいよ〜寒い」


 「てへぺろ」


 どこにでも現れるな〜。


 他の受付の人で休憩している人は私達にあまり関わらない。


 ロリ最年長職員の支部長と関わる人は、探索者時代のパーティメンバーくらいだ。


 或いは、私の傍に居ると凍ってしまうのが怖くて、なるべく近づかないようにしているか、前者だろう。


 前は普通に世間話をする程度の仲だったしね。


 「ふっ。支部長。あまり私を舐めないでください。星夜さんを信じているんですよ」


 「ん〜敬語の時点で察しちゃうよね。声震えてるし」


 「そんな事ない!」


 そ、そんな事は無いのだ。


 でも、絶対にありえないなんてのもありえない訳では⋯⋯あばば。


 「でもさ真面目な話、彼と30歳以内に結婚しないと、紗奈っち失恋しちゃうぞ?」


 「マジで! 紗奈ちゃん失恋確定したの!」


 「ちょっと二人とも、どう言う事! そんな訳⋯⋯ない⋯⋯⋯⋯ないよね?」


 「涙目じゃん。んで、具体的に?」


 支部長の方を見る。


 「彼⋯⋯神宮司くんだっけ? 彼って自分を下、紗奈っちを上って見てるんだよ。だから自分が手を出しちゃダメ、付き合ったらダメって考えてるし、強く思ってる」


 「なぜにっ!」


 私は絶句してしまう。


 なんでそこまでの距離ができてしまったのだろうか?


 あぁ、あの時、あの告白の時、逃げる彼を全力で止めたら良かった。


 あの時はバイト感覚で探索者やってて、レベル3だったから絶対に捕まえれた!


 「あああああああ」


 「紗奈ちゃん落ち着いて。ヒッヒッフー、ヒッヒッフーだよ!」


 絶対にふざけてけるよこの人っ!


 「だからね。年齢が上がっちゃうと、余計にそう言う親密な関係になれなくなる」


 「⋯⋯」


 なんとなく分かる。


 「でも、なんでそんな風に⋯⋯」


 「それは好きだからだろうね〜」


 「えっ! 星夜さん私の事好きなんですか!」


 あれ?


 私のスキルが発動してないのに場が凍りついたぞ?


 支部長のニコニコ笑顔が呆れているように見える。


 「まぁともかく、紗奈っちは美人だ」


 「理解してます」


 「うっわうぜぇ」


 「紗奈っちは絶世の美女、保証しようじゃないか! だからこそ、一歩踏み出せないんだよ彼は! ヤリ○ンのクズ男なら問題なかったのに」


 そんな男を私は好きにならない。


 「だからしっかり追い込まないと、二人とも年齢イコール恋人無し、未経験状態だよ」


 「ぐぬぬ。でも、自分から踏み込むのは怖いんだよ。また、逃げられちゃいそうで⋯⋯それで会えなくなりそうで」


 「⋯⋯それでも踏み込まないと、彼は真に君から離れるよ。身も心もね」


 う〜う〜。どうしたら。


 もしも本当に星夜さんが私の事を好きなら⋯⋯。


 「紗奈っちはどうしたいの? このままの関係を続ける? 諦める?」


 「私は! ⋯⋯あ、仕事の時間だ」


 私が出て行く。


 同僚と支部長が小声で会話を始める。


 「どうなると思います?」


 「十中八九、恋人関係にも夫婦関係にもならない。肉体関係にもならないね」


 「つまり平行線と?」


 「⋯⋯それも違うね」


 二日後。昨日は星夜さんと一緒に暮らす家を見に行った。


 同棲まであと少しだ。


 「嬉しそうだね」


 「はいっ!」


 「どうどう? どんな感じ?」


 「ふっふっふ。婚約しました!」


 「きゃー!」


 更衣室のドアは開けられてない⋯⋯が、支部長が背後に現れる。


 「嘘は良くないよ」


 「⋯⋯う、嘘は言ってません」


 「え、嘘なの! 真実は!」


 「真実は⋯⋯」





【あとがき】

30話を突破しています!ここまでこれたのも読者様のおかげでございます!これからも応援のほど、よろしくお願いいたします。

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