物理系魔法少女、仲間認定されたっぽい

 「魔法を見せてくれなかったのは悔しいけど、いずれ信頼されて、見せて貰うわ」


 使えないので一生見せる事は無いだろう⋯⋯それに最初に攻撃して来た相手を信頼する事はできんぞ?


 「なんでいきなり攻撃して来たんですか?」


 「話し合いの通じない前例があってね。それだったら、最初から武力で落ち着かせて、話し合いに持ち込んだ方が早いのよ」


 野蛮な。


 落ち着いて会話をすると、アオイさんは【蒼炎の魔法少女】と言うユニークスキルを持っているらしい。


 俺を攻撃して来たくせに、信用して欲しいと言われる。仲間だと言われる。


 他にも魔法少女と呼ばれる人達は居るらしく、アオイさんは魔法少女の中では一番の年長者らしい。


 「手加減した自分を魔法も使わずに追い込んだもの。君の強さは信じなさい」


 「⋯⋯そうですか」


 「アナタは既に我々の仲間。今度皆と会合する予定があるわ。最初だから無理にとは言わないけど、良ければ来て」


 時間と場所をメモった紙を渡される。


 「いきなり攻撃した事は謝ります。非常識だった事も理解している。本当にごめんなさい」


 「いやまぁ、良いんだけどさ。そんな風に謝ってくれるならさ」


 魔法少女⋯⋯会いに行っておくべきだろうな。


 中身がバレないように変身する必要はあるだろうが、きっと他の人も変身しているだろうし、浮きはしないだろう。


 問題は⋯⋯紗奈ちゃんだな。


 どうやって説明したモノか。


 「魔法少女と会って来るね」とか素直に言える訳無い。


 「あ、参考までに聞くけどさ。もしかして他のみんなも女子高生?」


 「当たり前じゃない。正確には十五歳から十八歳が魔法少女の対象となるのよ」


 「そうですか⋯⋯」


 あぁ、どうしよう本当に。


 中身がおっさんよ? そんなの犯罪じゃん?


 でも、魔法少女の情報を細かく確認するにはこの人達に接近しないといけない。


 アオイさんは結構素直そだし、大人しめだ。


 信用はできないけど、敵になる事は無いだろう。


 「行けたら行きます」


 「分かったわ」


 さーて、戦闘を二回終えた相手とは思えない程に親しくなった気がしなくもないが、そろそろ三時になるので帰らないといけない。


 定時帰りは基本だ。


 「それじゃ」


 「帰るんですか?」


 「あぁ、はい」


 「じゃあ一緒に帰るわ。ゲートの位置は同じ、自分はこの低ランクダンジョンで活動する気は無いし」


 「そうですか。俺の場所はどうやって分かったんですか?」


 ライブとかしてないし。


 「それも含めて、来たらゆっくりと話すわ。急いでいる様子だしね」


 良く分かったな。帰る。


 同じギルドのゲートから入っている訳では無いようで、同じ場所に出る事は無かった。良かった。


 リュックを手に持ち替えた事を少しだけ疑問に持たれたが、別に質問はされなかった。


 「ただいま」


 「三時三十四分十二秒⋯⋯妥当かな?」


 「刻むね」


 「ビーストモンキーの魔石⋯⋯」


 今日の成果は4万円であり、かなり良かった。


 今は金を貯めて、生活や撮影環境を上げようと思っている。


 「む?」


 俺が紗奈ちゃんの終わりをロビーの椅子で待とうと思い、踵を返した瞬間に腕を引っ張られた。


 「な、なに?」


 顔近い! まつ毛が細かく見えるくらいには近い!


 すごく整頓されたまつ毛だ。


 「スンスン」


 匂いを嗅いでらっしゃる。やめて。他の受付の人がガン見して来る。


 恥ずかしい。


 紗奈ちゃんの方をチラッと確認すると、⋯⋯目のハイライトが消えていた。


 「女の臭いがする」


 「っ!」


 俺でも驚く程に素早く、身体強化の魔法を利用して速攻で上着を脱ぎ捨て、ジャンプして距離を取る。


 刹那、紗奈ちゃんの捕まえていた俺の上着が巨大な氷に包まれる。


 瞬間に広がる、空間を凍結させる冷気。


 「星夜さん。後でじっくり、話しましょうか」


 「⋯⋯さ、紗奈ちゃんの柔らかくも暖かい、優しい笑顔が見たいな〜なんて」


 ダメっすか。暖房がちょうど背中に当たり、暖かった。


 家まで無言だった。無言って辛いわ。


 晩御飯を手早く作る紗奈ちゃん。腕前はそのままだった。


 だけど、俺の苦手な辛い物で統一されている事に悪意を感じる。スーパーに寄った理由はこれである。


 もちろん、世話になっている俺が払ってはいる。


 「それで、どうして星夜さんから女の臭いがしたの?」


 どうして魔法少女の時に着いたであろう臭いを嗅ぎ取ることができたの? なんで引き継ぐの?


 そんな俺の考えなんて口にできる訳もなく、その辺も別々にしてくれよと怒りをスキルに向けておく。


 「その、たまたま出会って⋯⋯戦闘して、それでかな?」


 間違っては⋯⋯無いよね?


 「ふーん。他のパーティに合流して一緒に狩りをして、お胸の大きなお姉さん魔法士と休憩中に会話して仲良くなった訳ではなく?」


 「想像力が豊かだね。小説家になれるよ」


 机が凍る。


 うん。今は冗談とか、そんなのは言っている時じゃないよね。知ってた。


 しゃーない。傷つくから使いたくなかった、必殺技を使うか。


 必殺マジカルシリーズ、本気マジカル自虐。


 「こんなおっさんに紗奈ちゃん以外の女性が話しかけてくれると思うか?」


 「確かにそうだね。星夜さんには私しか居ないよね。頭から抜け落ちてたよ」


 「うん。勘違いが解消されて良かったよ。⋯⋯なので甘い物を一品、所望したく⋯⋯」


 「ダメです♥」


 「⋯⋯あい」


 うぅ、辛いけど美味いのは紗奈ちゃんの腕前が高いからである。

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