物理系魔法少女、クエストを受けてみる

 「腰が全く痛くない」


 昨日寝る時に魔法少女になってみたんだが、腰が全く痛くなかった。


 だけど、男しての尊厳とかそこら辺が欠如している気分になるので、この方法は封印だな。


 やはりふかふかのお布団が欲しいところだ。


 「何をするにも金。探索者で金稼ぐにはレベル上げが必要。大変だな。でも、せっかくSの評価が多いんだから続けないと損だよな」


 この魔法少女のスキルがあればどこでも働けそうな気がするけど、根本的な戸籍問題があるので無理だろう。


 昨日、晩御飯と一緒に用意してくれた朝ごはんを食べる。


 冷めてても美味しいのは、紗奈ちゃんの料理スキルが高いからだろう。


 「レンジが欲しいな。⋯⋯はぁ。心に余裕ができると欲しい物がどんどんと増えていく」


 俺は軽く準備をしてから、マンションを出る。


 「あ、星夜さん。おはよう!」


 「おはよう。待たせてごめんね」


 「後二時間ほど早く起きてください」


 「やっぱり現地集合が僕、良いと思うんですよ」


 「拒否権ないよー」


 脱サラしたのに、起きるのが朝の五時って⋯⋯まぁ前の会社よりかは全然ホワイトな気がするけどね。


 頑張って起きるか。


 ギルド到着。


 「それじゃ」


 「うっす」


 紗奈ちゃんは受付嬢なので、裏口から入って行く。


 準備が終わるまで、俺はロビーで座ってくつろぐ事にした。


 武器とか買ってみたいけど、金が無い。


 「そういや、クエストとかそんなシステムがあるんだよな。ちょっと聞いてみるか」


 スマホをいじって時間を潰していると、背後から声をかけられる。


 「ねぇねぇ君〜」


 「はい」


 ギルド職員の服装をした、小さな女性だ。⋯⋯完全なロリって訳では無い。


 むしろ紗奈ちゃんよりも⋯⋯。


 「急に机に頭ぶつけてどうしたの!」


 「殺意を向けられる前に我が心に生じた邪気を追い払いました」


 「⋯⋯あーうん。そか」


 やめて、そんな目で見ないで。


 「それより、何かごようですか?」


 「ん〜いやね。ちょーと気になってさ。君って紗奈っちの彼ピ?」


 「違います」


 「旦那さん。結婚報告は受けてないけど⋯⋯」


 「違います」


 間違いはすぐに否定する⋯⋯上司にやったら仕事が増えるので絶対にしなかった事だ。


 お相手さんの顔が困惑に染る。


 事実を言ったまでで、そこまで困惑するかね?


 「えっと、朝一緒に来たよね?」


 「来ましたね」


 「弁当貰ってるよね?」


 「とっても美味しいですよ」


 「一緒に帰ってるよね?」


 「晩御飯を作って頂いております」


 「ん?」


 俯瞰して見ると、これは確かに彼氏と疑われてもしかたがないだろう。


 「本当に恋人じゃないの?」


 「違いますね」


 「嘘じゃないのは分かるけどさぁ」


 なんでさ。


 「不思議だ。両思い?」


 「さぁどうでしょうね。大学時代の先輩後輩ってだけですから」


 「あー君か。そりゃあそうか。⋯⋯こんなおじさんのどこが良いんだろう?」


 本人の前で言うのやめてくれませんか? いっちばん傷つく。


 「ふむ。まぁ大変だろうけどチャンスは多そうだし、応援してるよ」


 「はぁ別にする必要ないですよ」


 「ほう?」


 「紗奈ちゃんは実際可愛いじゃないですか。俺はこんな冴えない、どこにでもいるおっさん。不釣り合いですからね」


 こんな想いを抱く事すら、おこがましいのだ。


 「紗奈っちはそんな事、言わないと思うぞ。⋯⋯確かに紗奈っちはちょー可愛いし人気者さんだ。だから内部評価も高い」


 あ、そのシステム本当にあったんだ。


 正直、嘘だと思ってた。ネットにも無かったし。


 「だけどね。どんなに強くたって、どんなにイケメンだって、彼女の心に入り込めた人は居ないよ。ここで再会した日の事を思い出してさ、少しは考えな」


 そう言って、ロリ職員はどこかに消えて行く。


 なんだったんだ。


 なんか色々と言われたけど⋯⋯ちょうど良い時間つぶしにはなったけどさ。


 紗奈ちゃんの受付に向かう。


 「俺でも行けるクエスト無いですか」


 「そうですね。経験不足は正直否定できませんが、オークを単独撃破できている実力は評価できます。金銭報酬が良いのでしたら、これなんてどうですか?」


 タブレットに提示されたクエスト内容は、ダイアの鉱山と言うダンジョンに居るリッチの討伐だ。


 「時々出現する魔物なんですけど、現れては軍隊を生成するので定期的に倒さなといけないんですよ。なので、ギルド共通クエストにしている訳です」


 「報酬が10万で適正レベルが1以上、推奨パーティ人数が4人、報酬良さそうですけど、どうして残ってるんですか?」


 「二つの理由がありますね。一つは最近復活したから、もう一つは準備が大変だからです。暗いので松明などの光源は必須、狭い空間なので長い武器などは無意味、アンデッドなのでそれ用の対策も必要なんですよ。なので、殆どが赤字に⋯⋯」


 確かに。


 レベル1ならしっかりとした準備が必要だし、パーティが居るなら報酬の分け前もある。


 赤字になる可能性は十分あるだろう。


 だが、俺は一人だ。


 アンデッドを倒した経験もあるし、なんとかなるかもしれない。


 それにある程度の暗さなら問題ないだろう。


 「やってみます」


 「分かりました。クエスト受注をステータスカードに記録しておきます。達成したら成功記録が、未達成の場合は失敗記録が、他の人がやってしまった場合は無かった事になります」


 ステータスカード、便利だな。


 未達成の報告ができる人、どのくらい居るんだろうか?


 「クエストって撮影して良いの?」


 「もちろんです。⋯⋯チャンネル名教えてくださいよ〜」


 な、何そのイタズラ的な笑みは。⋯⋯可愛いかよ。


 だけど、教えたら今の関係に亀裂が絶対に入るので、絶対に教えられない。


 「まぁ、人気が出たらね」


 「⋯⋯もうそこそこ人気出てるのでは?」


 そして俺は例のダンジョンに入った。


 うん。思っていた以上に暗いや。

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