物理系魔法少女、蒼炎の魔法少女を怒らせた

 「魔法って凄いね!」


 アオイさんは足から蒼い炎を噴射して、その勢いを利用して加速してくる。


 まるでジェット機だ。


 「ほら、早く魔法を使いなさい!」


 そんなに魔法を使わせたいのか。


 そもそも、魔法少女だから魔法が使えるって、超ど偏見だからな! あ、ブーメランが刺さった気がする。


 まぁ良い。


 「出口までは間に合わない気がする⋯⋯しゃーない。年下に攻撃するのは気が引けるけど⋯⋯正当防衛だ」


 俺は百八十度回転して、跳躍する。


 高速でアオイさんに接近して、拳を固める。


 「正当防衛パンチ」


 「⋯⋯ッ!」


 目の前に炎の壁ができるが、関係ねぇ。


 それ事砕いてぶん殴る。


 「らっ!」


 壁に穴が空き、その向こう側に居た⋯⋯って居ない!


 「さすがにびっくりしたわ! 殺す気!?」


 「その言葉丸々お返ししますよ!」


 背中に炎が衝突する。地面に叩き落とされる。


 焼けるような痛みが背中に走る。


 痛い⋯⋯てか、この身体になってから初めて感じる強い痛みだ。


 不思議だな。


 「痛い。悶え苦しむくらいには痛いのに、耐えられる」


 精神的な面も若々しくなっているのかね?


 身体だけじゃなくて、精神的にも魔法少女に寄っていたら、少しだけ嫌だけど。


 今はこの戦い以外の事で思考のリソースを使うのは良くないか。


 「ふぅ。しかたない。そこまで魔法が見たいなら見せてやるよ」


 「ようやくか。来い、アカツキ」


 ステッキを右手に持ち替える。


 さっきまでステッキは使ってなかったけど、魔法を使うにはこれがないとできない。


 「これが俺の魔法、物理魔法だ」


 「物理⋯⋯? 音響、波動⋯⋯これは凄そうね」


 誰も物理学の事は言ってないけど、勝手にそう思って頂こう。


 たとえレベル差があろうとも、さっきのパンチで驚くなら、これは見えまい。


 「ホワイトボール!」


 綺麗なフォームでぶん投げる。


 見事なストレートだ。


 「自動防衛機能オートブロックが!」


 アオイの周囲に炎の渦が出現して、俺の魔法の軌道がずらされた。


 だが、相手の頬を掠れて切れる程にはダメージを与えられた。


 「自分じゃ認識できない程のスピードで魔法を発動したと言うの? 物理の魔法少女、素晴らしい。これなら使徒との戦いも⋯⋯」


 どうやら、上手く納得してくれたようだ。


 いや〜なんとかなるもんだね。


 しっかし、魔法少女はやはり数人も居るのか。俺にユニークスキルはないのかね?


 いや、もしかしたら加護のスキルはユニークスキルなのかな?


 特別な力が欲しい。


 ⋯⋯この後もう何かをする気力は出ないな。でも、早く帰っちゃうと紗奈ちゃん心配するよね。


 しゃーない。適当に魔物を倒して帰るか。


 「あ、そろそろ一分だ」


 「そう言えばアカツキさん。ステッキは?」


 地面に降りて来たアオイさんが柔らかな態度で接して来る。


 俺の額から汗が流れる。


 なんで近寄って来る。帰れ、どっか行け。


 俺のハッタリがバレてしまう。


 に、逃げるか? それが最善策だろう。


 だが、さっきの戦いで相手は全然俺に追いつけると証明されている。


 単に逃げるだけでは意味が無い。


 他に俺が打てる手は⋯⋯考えろ考えろ。後数秒だ。


 って、見えて来た。


 キャッチしないと自分にもダメージが(経験済み)。


 「⋯⋯」


 「なんか高速で手に来ましたけど⋯⋯野球ボール? ステッキが無い⋯⋯もしかして」


 あ、アオイさんの目からハイライトが消えた。これはアレだ。


 「やっちゃったぜ」


 「やっちゃったぜ★じゃねぇよ! どれだけバカにしたら済むんですかぁ! もう許しません。許せません。蒼炎!」


 「へへ。逃げるんだよーん」


 巨大な炎が俺に襲いかかる。


 つーか、あんなの受けたら一溜りも無いだろ。


 弁当などは置いて来ているから回収しに行かないとダメなのに。


 ⋯⋯クソ。


 レベル差が無ければ。


 「魔法を使わずに舐め腐った事、後悔しなさい!」


 別に魔法を使わなかった訳じゃないんだ。使えないんだ。


 魔法少女の状態では俺は、魔法が使えないんだよ。


 あぁ、言い訳ばかり出る。


 「次会う時はきちんと魔法を見せて貰います。今日はもう時間無いので、それでは」


 それだけ残して、アオイは魔法を消さずにどこかに消えた。


 あぁ、綺麗な蒼い太陽だ。


 「⋯⋯太陽⋯⋯丸い⋯⋯これならどうにかなるのか」


 俺はステッキを金属バットに変化させる。


 「格闘ゲームのアレ並のフルスイング!」


 魔法少女アオイ、次会った時は必ず泣かす。


 魔法を粉砕して、俺は荷物を取りに向かった。


 「自己再生がなきゃ火傷痕が残ったままだったぞ。なんだよ、本当に」


 俺のリュックとゴブリン発見!


 すぐに近づいた。


 「紗奈ちゃん手作り弁当に汚ぇ手で触んな! 汚くなくても触るな!」


 さっきの怒りも込めて蹴り飛ばしたら、首が綺麗に飛んだ。


 他のゴブリンが怯える。


 「⋯⋯」


 さて、そこそこ倒したし魔石も手に入ったので帰るとするか。


 リュックはしっかりと手で持って⋯⋯ゲートを通る。


 視線が上がり、身体が重くなる。


 「自己再生、腰の痛みには通用しない」


 早く来る事により、紗奈ちゃんの受付はすぐに利用できた。


 「今日は大量ですね」


 「しっかりとリュックを用意したからね」


 「⋯⋯私の作った弁当が沈んでるの、少し悲しい」


 グッ、涙目はダイレクトダメージ。


 「ご、ごめんね? だけどさ。ほら。傾けたら危ないしさ、それに魔石を後から取り出すのも⋯⋯」


 「ふふふ。少しからかっただけよ。そんなに取り乱さないで」


 「まじで勘弁してくれよ」


 「ふふ」


 少しだけ舌を出して「ごめーん」って表情なの、可愛い。可愛いが過ぎる。


 推せるよ。尊い。


 「なんか距離が遠くなった気がする」


 「なんか寒い」

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