物理系魔法少女、魔法を使ってみる

 魔法少女と言えば何を思い浮かべるだろうか。


 俺は鬱展開と言う単語が頭の中に出て来やがる。


 三話、サイト、きっと色々なアニメを思い浮かべるだろう。


 「俺にも来るのだろうか、鬱展開が⋯⋯って、そうじゃない!」


 魔法だよ魔法!


 魔法少女なのに魔法が使えないのはおかしいよね!


 なんかスキルのレベルも高いし、きっとものすごい魔法が使えるに違いない。


 ちょうど目の前に居るスライムに向かって俺の、全てを焼き付くし龍すら殺す史上最強の古代魔法をお見舞いしてやるよ。


 「くらえ、インフェルノ!」


 元のステッキ状態に戻しているが、魔法が使える気がしない。


 「詠唱が無いからかな? ここは主人公らしく無詠唱をしてみたかった。⋯⋯主人公って程スキルに恵まれたかは分からないけど」


 物語でも俺はモブかね? 序盤だけ出てくる魔法少女、後に死ぬ。


 脳内にある中学二年生の時に作り出した黒歴史ノートを呼び起こそう。


 「全てを焼き尽くせ、神をも灰へと変えろ、灰燼かいじんとし世界に未来を産み落とせ、インフェルノ!」


 スライムが近づいて来ます。


 体力や魔力と言ったエネルギーが抜ける事はなく、特に変化はなかった。


 つまり、俺に足りないのは詠唱じゃなかったんだ。


 「ふっ。やれやれ。こうなったらこうするか」


 これが俺の魔法だ。


 「くらえ、物理魔法、ホワイトボール!」


 消える魔球の如き高速スピードで俺の手から白い球体がスライムに飛来し、地面にクレーターを作る程の火力で衝突した。


 全てを塵にしてやったわ。


 「これが俺の魔法だ」


 念じて、さっき投げた野球ボールを手に戻す。


 投げやすい形だったな。


 「これを必殺本気物理マジカルシリーズと名付けよう」


 帰ろう。


 今日は色々とあって疲れた。魔法少女とか魔法少女とか魔法とか。


 「現実に戻される感覚って奴かね」


 あんなに馬鹿げた力を使えたのも、俺ではなく俺のスキルによって強制変身された魔法少女だと思われる俺だ。


 ただの冴えない、無職のクズ野郎。


 「ステータスカードを提出するんだっけ? レベル上がってないな」


 何が理由でレベルが上がるのか、いまいち知らねーや。


 とりま受付に向かう。


 既に夕方の五時、かなりの人数だ。


 その中で一番列が長かったのは、神楽さんの場所だった。


 俺は一番列の短いところですませようと思う。


 「受付って行きと同じじゃなくて良いんだよな? でも、俺最初だしな〜」


 う〜ん。


 どうしたら良いのか全く分からない。


 でも、一応最初なのでここのルールに慣れるためにも、経験を積んだ方が良いよな。


 なので列の短いところにした。


 「お帰りですか?」


 「はい」


 「ステータスカードの提出をお願いします」


 「はい」


 他の受付の人には俺の名前は分かっていなかったらしい。


 良かった。


 俺の名前が筒抜けになっているのではなく、神楽さんがたまたま俺の名前を当てただけだったんだ。


 うんうん。それはそれで恐怖。


 「スライムを53匹ですね。530円です。スライムの魔石が23個? で230円、合計で760円になります」


 砕いたり、荷物として持ってこれた分がこれだけである。


 あの魔法少女衣装、まさかのポッケ共有してなくて、手で持たなといけなかった分しか持ってこれていない。


 あの姿の不便な部分が出てしまったようだ。


 ⋯⋯ってあれ?


 ステータスカード完全に見られているのに、あのクソスキルとフル無視してた加護スキルについては言及されなかったな。


 ⋯⋯もしかして、俺が勝手に心の中ですげーって思っていただけで、そこまで珍しいスキルでは無かった?


 小銭を握りしめ、俺はスーパーにやって来た。


 身体を動かした感覚は少しだけあり、気分はちょっとだけ良かった。


 「今は七時か」


 家でゴロゴロしてから来ている。


 本当は晩御飯があると思っていたが、なかったのでスーパーに来ている。


 さて、さっさと晩御飯カップラーメン買って帰るか。


 「あれ? 星夜さん?」


 俺の名前を言う人がこの付近に居るか?


 いや、今日会ったな。


 「神楽さん⋯⋯でしたよね?」


 「はい。さすがに数時間では忘れてないようで、安心しました」


 「あ、いや、うん?」


 いまいちその言葉の意味が分からないけれども、なんでプライベートで俺に話しかけて来る?


 「なんで、帰りは私のところに来てくれなかったんですか? 待ってたんですよ?」


 列が長くて待つのが面倒だった⋯⋯と言ったら怒るだろうとは思う。


 思うので言わない。


 いくら初対面で下の名前で読んでくるようなフレンドリーな人でも怒る。


 「忙しそうなのに、こんな冴えないおっさんの相手は辛いでしょう」


 「誰がそんな事言ってましたか?」


 言ってませんね。へへ。


 「もしかして⋯⋯列が長くて並ぶのが面倒だった⋯⋯とかですか?」


 お、恐ろしい。


 「いえですね。ゲートから近くの受付を使っただけです。手荷物がいっぱいだったので」


 「私の受付を飛び越えて、出口近くの一番列の短かった受付を使っていたように見えましたが⋯⋯違ってましたか?」


 「よく見てますね」


 「両手いっぱいに魔石を抱えていたら、目立ちますよ」


 ⋯⋯他にも居たよねそう言う人?


 絶対に慣れてるよね?


 てか、仕事中に余所見は良くないよ?


 「行きは私のところで登録したのに⋯⋯どうして帰りは他所でしたんですか?」


 「もしかして⋯⋯そう言う決まりがありましたか?」


 「ルールではありませんけど、暗黙の了解です。受付嬢って、査定したモノで内部評価があって、ボーナスが増えるんですよ。なので、専属の冒険者を欲しているんですよ」


 「そうなんですね。俺みたいな初心者はあんなに専属が居る神楽さんには不要ですね」


 今後は関わらないようにします。


 「私がそんな事言いましたか?」


 言ってません。


 怖いです。


 すんません。

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