オイカワ
烏丸ことり
空き瓶通信
恋をした。何年ぶりだろう。
恋人以外の人を好きになった。
自分が憎い。友達面をしてしれっと横にいる自分が。醜い内面を押し隠して汚いやり方で距離を詰める。自分を含めた各方面に弁明するように、友達面をする。愚かなのはお前だけ。
お前みたいな人間は誰からも好かれてはいけない。浮ついて恋人を傷つけ、勝手に勘違いを募らせる。化け物のくせに一人前に人に好いてもらえると思っている。
“友達だから”自分と相手と恋人の三人に嘘をついて、二人で出かけた。楽しかった。そこに恋人に勝るものを見出してしまった自分に嫌気がさした。当然、反動は大きかった。恋人に意味を見出せなくなった。最低だ。もう、別れようかとも思った。恋人の、自分への愛情の深さを知るたびに、自分がとにかく醜く見える。私は一体、何をしている?臆病者の私が、先の見えない決断なぞできるわけもない。
「何とも思っていない」と言われた。「ほかに好きな人がいる」とも言われた。苦しい。苦しい。苦しい。何とも思ってくれなくて構わない。むしろそれでいい。しかし、ぶつけられると苦しい。失恋は一人でもできるらしい。
“友達だから”恋愛相談にも乗るし、“友達だから”他の人に言えない話をする。私は失恋を喝采し、弱っているところを見せられることに喜びを感じる。屑め。それでいて、表向きは同情し、上っ面だけの慰めの言葉をかける。恋愛相談は吐き気がする。誰にも好かれないなんて言っている所を見ると、つい本音が出そうになる。感情の制御に四苦八苦して、時々わからなくなる。良い人間のふり、できてますか?
自分なりに感情の整理はつけたつもりだ。アイドルに恋するヲタクなんだ。振り向いてくれなくていい。ただ、だれのところにもいかないでほしい。特別扱いはうれしい。でも戻れなくなるのが怖い。この気持ちをぶつけたら、もう二度とこの安寧はかえってこない。性根は腐りきっているくせに臆病者の私には、この恐怖が耐えられない。今のままでいい。今のままでいい。しかし、感情の奔流は止まらない。整理をつけたはずの感情は、24時間グラグラ揺れる。
だから私は、「王様の耳はロバの耳」と吹き込んだ空き瓶をインターネットの海に流す。絶対に届くわけがないものを届けばいいな、なんて夢想しながら。
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