逾櫁ゥア蜀咲樟コインロッカーベイビー2
こっくりさん系の儀式で使えるコピー紙がコインロッカーによってばら撒かれてしまったが、想像以上に問題は大事のようだった。
その対応で職員会議が開かれた上に、教育委員会やPTA等への報告が行われたようだった。
ここから更に市議会まで上がり、電力会社へと伝わることが予想されているとか。
連休を控えているのに問題が起きてしまったので阿鼻叫喚といった具合だ。
俺や若い先生は後で主任や教頭から説明を受けることで会議に参加せず、ばら撒かれた紙を集めるために走り回ることとなった。
それだけだと手が足りないのでオカルト部、テニス部、野球部にも手伝ってもらうことにした。
良くないことだとは思うが、どうせこっそり隠し持つ子は勝手に探し当てるだろうから労働力として期待しておこう。
この件に関わったパソコン部の面々は入念に事情聴取を受け、後日親を召喚して指導があるという。
部長だった子が大声で俺個人のためにやったことだと叫んだせいで接触は禁止となり、事情は他の先生からの又聞きとなってしまった。
得られた情報もそれほど深い物では無く、今回起こした行動の発端はインターネットでの動画配信サイトが関わっているようだ。
直接聞いた先生はその手の知識に疎いようであまり理解できなかった様子だった。
そこで相談した結果、儀式道具を自作してオカルトを呼び出すことで俺の興味を引くことになったとのこと。
エンジェル様の件で男子に頼られたことも拍車をかけた。
それまで全く注目されなかった非モテ陰キャが容易に接点を持ってしまったのも良くなかった。
俺も男だから彼らと同様に、もしくはそれ以上に上手くいけるかもしれないと期待したのかもしれない。
俺はオカルトを生み出したいわけじゃないから完全に間違っているのだが、当の本人たちはそれが最善だとしか思わなかったとも話していたようだ。
仲のいい学生がいる部活にも手伝って貰ったので校内外で目に見えて拾える範囲の紙を集めたと思う。
学生は昼には家に帰すことになったので、そこから放課後までは教職員で探し続けた。
紙を見つけてもすぐに捨てるか学校に提出することをそれぞれの学級に連絡してたようだった。
紙1枚提出する毎に俺が握手する握手チケット代わりにしようと提案した。
俺としては結構良い案じゃないかと思ったのだが、無理して連日外を探し回ったり、コピーして大漁に持ってくる馬鹿が現れると危惧され、絶対にそういうことはしないようにと釘を刺された。
ふふふ、盲点。
せめて外に飛んでしまった紙だけでも雨い濡れて役に立たない状態になって欲しいが、天気予報によるとどうやら連日快晴だという話だ。
それにしても相談先が動画配信サイトかぁ。
ネットを使っていたら掲示板もあるが、相談先としては悪意がありすぎて微妙だからな。
聞き取りした先生が理解出来てないため得られた情報はふわふわした物だったが、サイト名は「みこみこどーが」だと聞けたのでそこをまず利用してみるか。
名前からしてコメントが動画をバックに流れるタイプのサイトだろう。
ストリーミングサービス等があるので生放送でもやっていて、そこで相談したとかが予想できる。
今の時代なら投げ銭しなくてもコメントが読まれるだろうし、そもそも過疎放送ならコメントに全返信しているに違いない。
ただいまの声と共に帰宅すれば、ベルが迎えてくれた。
くれたのだが……。
「なんで俺の服を着てるん?」
「夫婦は衣食住を共にする、とアキベエルは学びました」
「それは同じ服を着ろってことじゃなくて一緒に行動して絆を深めるって意味が含まれてなかったっけ」
「言い得て妙、です。が、私の夫の物は私の物なので、この行動に問題はありません」
このちびっこは無表情ながらドヤ顔を浮かべて俺の服を見せびらかしてくる。
ロリが大人の男の服をぶかぶかになりながらも着るのは……ショタが大人の女性に求婚しながら、その相手の服を着る、的な?
女装したいショタ……ってコト!?
ダメだ。令和だとどうなのかというイメージが湧かない。
俺がこっちの常識に馴染めきれてないんだ。
完全体に、完全体にさえなれれば……。
「アキノさーん!」
今の服を着てるからぶかぶかで変な感じになるのであって、せめて小さい頃の服を着せればなんとかなる気がした。
ということで母に助けを求める。
台所から「なあにぃ」と間延びした返事。
「俺の古着とかどこにある?」
「古着ぃ? 無いわよぉ」
「無いの? 子どもの頃の服とか取ってあったりしない?」
「? あるわけないけど。なんでぇ?」
「ベルが俺の服を着てるんだよね。学校に行かせる時にもっとマシな恰好させたほうがいいかなって」
「あ~。そういうこともあるわよねぇ」
好きにさせたらいいんじゃないか、というのが母の答えだった。
学校に通わせて、そこで何か言われたら対処する感じになりそうだ。
それにしても俺の昔の服は無いらしい。
男は数が少ないので古着をあげるってわけにもいかないし、要らなくなったら捨てるのかもしれない。
そういえば俺の服って新品ばっかりなんだよな。
まあいいか。
「今日はお仕事どうだったぁ?」
「めっちゃ大変だったよ」
夕飯を三人で食べながらつらつらと今日のことを話す。
いつもと違って面倒な問題が起きた程度のオブラートに包みはしておく。
寝る時以外は点けっぱなしになっているテレビで適当なニュースが流れている。
と思ったら、ニュースは学校からこっくりさんに使える紙がばら撒かれたことを伝え始めた。
「なんか学校は大変そうよねぇ。夕方頃から同じニュースばっかりよ」
「……他の学校でもあったのか」
「全国の小中高学校らしいわよ。あと一部の大学だったかしら」
「うわぁ、大事になってるじゃん」
「特にここら辺でこっくりさんやるのってあんまり良くないのよねぇ」
「そうなの?」
母が言うにはこっくりさん自体が昭和の頃に禁止されたらしい。
特に学校での利用は厳禁で、発電施設予定地や発電所の近くでは絶対にやっていけない事になっていると教えてくれた。
発電にも利用されている地絡が悪さ、というか活性化させてしまうのだとか。
「みんながみんなこっくりさんとかを信じちゃうと地絡に影響して発電の効率が悪くなっちゃったりするのよねぇ。特に最近のは大型だから」
「アキノさん詳しい?」
「そりゃまぁ、お仕事ですから」
翌日、玄関の上がり台に座って革靴を履いているとベルが傘を差し出してきた。
朝の天気予報だと、これから一週間は雨が降る予定は全くなかったと思ったけれど。
俺が座っているおかげで、背の低いベルと顔が近い。
変わらない無表情だが、真剣な様子だった。
うん、と一つ頷き、傘を受け取る。
「ありがとう」
「美しい人、貴方は私が
俺が傘を受け取ると、ベルは上機嫌となった。
どうやら正解だったらしい。
恋愛ゲームだったら好感度が大アップしていたくらいに上機嫌だ。
その証拠に、僅かに微笑んでいた。
何となく俺はその頭を撫でた。
「! 浮き具もいりますか?」
「それは要らない」
心なしかテンションが上がったベルに空気が入っていない浮き輪を見せられる。
流石にそれは断った。
どう使えと言うのだろうか。
家を出てから学校までの道のりを、普段以上注意深く観察しながら歩く。
紙が落ちているかもしれない。
昨日頑張ったので周辺にはほとんど残っていない思うが、この世界(時代?)のこっくりさんの影響を考えると慎重になったほうがいいかもしれない。
連休で旅行ついでに紙を拾う運動をしてネットに上げたりしたら皆も真似してやてくれないだろうか。
でも平成のネットって令和より遥かに市民権を得ておらず根暗と妬み嫉みの坩堝みたいなところがあるからな。妙な問題に繋がりそうだよなぁ。
朝から元気にゴミ拾いをしている地域住民に挨拶をする。よく見ると深夜に腹パンしてゴミ拾いするように伝えた人(?)が、双眼鏡で覗いていた女性と一緒に紙をゴミ袋に集めているようだった。
仲良くなったの? 良かったね。良かったのか?
「せんせー、おはよ」
「おはよう、ハルくん」
声をかけてきた金髪の男子生徒は、その手に紙束を持っていた。
ばら撒かれた例の紙を集めてくれているようだ。
よく見ると我が校からばら撒かれたコピー用紙とは違い、手書きなのか字が汚くて出来が悪い。
「これさ、オレも気になって小学校の方をちょっと見て来て。で、そっちにも結構あって拾って来たんだけど」
「おー、偉い偉い。正直、とても助かるよ」
ハルくんが持っている紙束を受け取り、リュックに突っ込む。
そういえば全国の学校からばら撒かれたってニュースでやってたのを思い出した。
なんか凄くヤダな。
とりあえず傘を持ってないほうの手でハルくんの頭を撫でておいた。
「せんせー、ちょっと恥ずかしい……」
「可愛い所あるじゃん。でも折角だから撫でられとけって。大人になると誰も撫でてくれなくなるからな」
主にセクハラ的な意味が強くなるので。
学生相手なら、まあ、状況とかでセーフにならなくもない。
教育実習とかで若くて、めちゃくちゃ可愛くて、爽やかで、邪気も下心もなくて初めて許されるレベル。
年いっちゃったり、容姿がちょっとよくなかったりすると一撃死とかに繋がる。
相手に良く思われてない状態で身体接触したらそりゃあねって話だ。
「そういえばせんせー、なんで傘持ってんの? 今日雨降るっけ」
「傘と浮き輪なら傘かなって」
「どゆこと?」
ハルくんの疑問を無視する。
見上げた空は快晴だったが、もやもやした何かを感じてしまう。
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