横道の神社
芦屋秀次
横道の神社
これは、私が専門学生の頃に起こった話です。
S県から一人で東京に上京し、やっと通学する道にも慣れ、道端の草木や周りの建物に目が行くようになったある日のことです。
梅雨だというのに、急な暑さに焼かれ滅入った私は、自販機で冷たい飲み物を飲もうと、大通りの横道に設置された自販機に目を向けました。
すると視界の端に朱色がチラつき、そちらを見ると立派な鳥居があることに気がつきました。
その横道は、商店街らしくその奥にひっそりと建つ朱色の美しい鳥居は、大通りから遠く、木々に隠れて見にくいですが神社があったのです。
私は、都会だと思っていた東京にも地元と変わらず、神社があるのか、と驚きました。
それから私は、ひっそりと見える神社の風景を気に入って必ず神社を見てから登校することにしました。
神社は、寂れた商店街にあるせいか人と通りもなく、ただそこにありました。
それから数日。
私は、神社にある違和感を覚えました。
いつも見ている大通りから、その神社までは五十メートル以上あり、私には良く見えない距離であった神社が、少しずつ大きく鮮明になっているのです。
そして、その違和感を抱えたままある日私は、ふと気付いてしまいました。
少し先にあったはずの店が消えているのです。
その代わりにあったのは、あの神社でした。
大きく鮮明に見えたのは、神社が大通りに向かって近付いているから。
では何故、神社が大通りに向っているのか、と考えた時、私は背筋が凍りつきました。
もしかしたら、私が見たから近づいているんじゃないか、と。
そんな嫌な予感がしたからです。
神社は、私が気付かないように少しずつ、少しずつにじり寄ってきていたのです。
そう考えると神社が酷く恐ろしいモノに見え、その場を急いで離れました。
そして次の日。
私は、あの神社に恐怖心を持ちながら、心のどこかで気のせいと思いたくなり、今日は神社を見ないでおこうと決め、早足で神社を横ぎろうとした時。
「今日は、見ていかないのかい」
そう、しわがれた老人の声があの商店街から聞こえ、足が止まりました。
私は、恐怖で体が震え、息が荒くなり、汗が滲みました。
「なぁ、今日は見ないのか?」
そしてもう一度、老人は私に呼びかけます。
私は、その声に逃げることもできないまま視線を地面に向けてしまいました。
そして、大通りのコンクリートの道の端に、あの苔むした石畳を見つけてしまったのです。
あの神社が自分の目の前まで来ている。
私は、自分の体に鞭打ってそのまま走って学校へ逃げるように向かいました。
私は、あの神社から目を背けました。
それから私は、通学路を変え、それ以降一度もあの大通りを通ることなく卒業し、実家のS県へと帰りました。
あの神社が、あのまま商店街は消え大通りに面した神社になったのか、元の場所に戻ったのか、はたまた消えたのか。
あれ以来一度も横道に目を向けなくなった私には、知るよしもありません。
横道の神社 芦屋秀次 @syuugi
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