4 第四の剣士1


「ここか? ここでいいのだな? また迷ってはいないだろうな……」


 中年剣士は何度も辺りを見回しながら、ギルド内に入ってくる。


「お、『青の水晶』と書いてある。間違いなさそうだ……いや、散々迷ったぞ」


 男は心なしか、やつれているようだった。


 精悍な顔立ちにざんばらの黒髪。

 そして黒い鎧。

 全身黒ずくめの中年剣士である。


「いやはや、私はどうにも方向音痴だ」


 独り言が多い人らしい。


 彼は俺の元まで歩いてきた。


「あなたは――」


 分かる。

 彼が背負った剣と、俺の『燐光竜帝剣レファイド』が共鳴しているのが。


「お初にお目にかかる。私はヴィクターと申す者。C級冒険者をしている」

「レイン・ガーランドです」


 名乗り返す俺。


「ご高名は存じている」


 ヴィクターさんがうなずいた。


「私は剣に導かれてきたのだ。先日、とある遺跡で手に入れたものなのだが――」


 と、鞘に収まったままの剣を取り出す。


 やっぱり、その剣が――。


 俺の『燐光竜帝剣』と共鳴を起こし、鞘を透かして発光しているのが分かる。


「いくつか共鳴する剣があることを知り、そのもとへ向かったのだが――とにかく方向音痴でな。迷いに迷った」


 と、ヴィクターさん。


「最初はミゼル王国にたどり着いてしまったし」

「こことは逆方向ですね」

「その次はエリーゼ公国に迷いこんだし」

「孤島にある国なんですが」

「他にもサードルの方まで行きついたり」

「北の果てにある氷原ですよね……」


 この人、半端じゃない方向音痴だ。


「あなたの剣と私の剣には何か関係があるようだな」

「ええ、俺の剣は『燐光竜帝剣』といいます。伝説級の剣の一本ですね」

「伝説級……すると、私の『翠風の爪ローゼリア』もそうなのか? まさか、そんな由緒正しき剣だったとは」


 今まで気づいてなかったのか……。


「普段は荷造りや料理包丁代わりに使っているのだが、もう少し使い方をあらためなければならんな」


 それは伝説の剣の使い方としては、ちょっとアレかな……。


 なんだか癖の強い人みたいだった。

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