2 ニーナと夕食デート


「えっ、もう討伐を終えたんですか? あいかわらず早いですね、レインさん」


 ニーナが微笑む。


「もう一件、追加でクエストをこなそうかと思うんだ」

「追加?」

「この前の戦いで強化ポイントをけっこう消費したからな。また補充しないと……」


 七竜騎との戦いで会得した、付与魔術第三術式――。

 その威力は絶大だけど、代わりに消費する強化ポイントが第二術式の比じゃない。


 下手すると数週間かけて入手できるポイントを、たった一度の攻撃で使い切ってしまう。


 いざというときのために、強化ポイントは貯められるだけ貯めておいたほうがよさそうだ。




 結局、俺はさらに三件追加で討伐クエストをこなした。


「まだ行けるかな? 四件目を――」

「今日は終わりにしたらどうですか? もう夕方です」

「……それもそうだな」


 夢中で討伐してたから気づかなかったが、すでに周囲は薄暗くなりつつある。


「じゃあ、今日はお開きにするよ」

「おつかれさまです」


 にっこりと一礼する。


「ニーナもそろそろ仕事終わりか?」

「はい、もう定時になりますね」

「じゃあ、二人で食事にでも行って来たらどう?」


 奥からギルドマスターのエルシーさんが出てきた。

 そういえば、前にも他の受付嬢から『ニーナを食事に誘ってあげたら?』なんて言われたことがあったな……。


「じゃあ、俺と夕食に行くか? どうする?」

「あ、はい、お願いしますっ」


 ニーナは勢い込んで立ち上がった。


「ふふ、援護してあげたよ、ニーナ。あんたは奥手だからねぇ」


 エルシーさんがにっこり笑っている。


「いつもよく働いてくれるからね。お礼代わりだよ」

「あ、ありがとうございます……っ」


 援護とか、なんの話だろう……?




「えへへ、久しぶりにレインさんとお食事です」


 ニーナは嬉しそうだった。


「いつも世話になってるからな。俺がおごるから、好きなものを頼んでくれ」

「いえ、割り勘で……」

「今日はいっぱい報酬があるから、おごらせてくれよ。そもそも、ニーナにいつもクエストを選んでもらってるお礼だし」


 実際、彼女が持ってきてくれるクエストは依頼料も高く、場所も交通の便がよかったり、比較的見つけやすい場所に生息しているモンスターだったり、達成が楽なのだ。

 きっと、意図して選定してくれてるんだろう。


「それが、私の仕事ですから」

「感謝してるよ。だから、おごらせてくれ」


 重ねて言った。


「分かりました。では、ありがたく」


 ニーナが深々と一礼する。


 それから俺たちは見つめ合い、微笑んだ。

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