7 聖騎士と勇者候補2


「竜よりも強い人間がいるだと?」


 レドグフがうなった。


「確かに上級ドラゴンすら狩る人間がいるとは聞く。だが俺たち七竜騎の戦闘力は完全に次元が違う。何せ、光竜王様に次ぐ力を持っているんだからな!」


 言うなり、地響きを立てて突進してくる。


 リリィは逃げない。

 真っ向から竜人を見据え、


「剣術スキル――【斬竜閃ざんりゅうせん】!」


 手にした剣を振り下ろした。

 ほとばしる衝撃波がレドグフを吹き飛ばす。


「な、なんだと――これほどのパワーを……!?」


 地面に叩きつけられるレドグフ。


「剣術スキル――【ブラストブレード】!」


 そこへマルチナが追撃を放った。

「ぐっ、ああああああああ……っ!」


 強い――。

 リリィは感嘆する。


【ブラストブレード】は破壊力に特化した上級の剣術スキルだ。

 リリィも、このスキルは会得していない。


 マルチナの実力は、やはり相当に高いようだった。


「さすがは勇者候補ですね……」

「ふふ、見直した?」


 マルチナがにっこり笑う。


「ええ、頼もしいです」

「あたしも。君と一緒に戦えて心強いよ」


 二人はうなずき合い、それぞれ剣を掲げた。


 渾身の一撃を、続けざまに叩きこむ。

 伝説級の剣による連撃だ。


「ぐおおおおおおおっ……!」


 苦鳴とともに大きく吹き飛ばされる竜人。


「今のは……効いたぜ……」


 壁の端まで吹き飛ばされたレドグフはよろよろと立ち上がった。


「人間に、これほどの使い手がいるとはな」


 その口元に笑みが浮かぶ。


「千年前に勇者と戦ったとき以来だ……へへへ、ゾクゾクするぜ。強い奴と戦うのは!」


 その体が震え、肥大化していく。


「こ、これは――」


 リリィは戦慄した。


 竜。

 レドグフは、人と竜の中間から完全な竜の姿へと変身した。


 体長は五メートルほどだろうか。

 太い四肢とどう猛な顔。

 四足獣に近い形態で、翼はない。


「これが俺の『竜体ドラゴニックフォーム』だ! 立ち向かえるか、人間ども!」


 竜体となったレドグフが突進する。

 リリィとマルチナは同時に斬撃を放った。


 吹き荒れる衝撃波を、しかしレドグフはものともしない。


「きゃあっ」


 リリィたちは二人そろって弾き飛ばされた。

 体勢を立て直す間もなく、さらに突進してくるレドグフ。

 二度、三度と跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「なんてパワーなの……っ!」

「こいつ、さっきまでと全然違うじゃない!」


 リリィとマルチナは悲鳴を上げた。


「このぉっ!」


 マーガレットが魔力の刃を放つ。

 後方からの援護射撃だ。


「こざかしいわ!」


 だが、レドグフが巨体を震わせると、魔力の刃はまとめて消し飛ばされた。


「そんな!?」

「人間ごときが、剣でも魔法でもこのレドグフに傷をつけられると思うなよ!」


 まずい――。

 リリィの全身に汗が伝った。


 敵は、竜体となったことで想像以上にパワーアップしている。

 マルチナと二人がかりでも分が悪そうだ。


「こんなとき――レイン様がいれば」


 唇をかみしめる。

 彼の姿を思い浮かべる。


 それだけでフッと心が軽くなった。

 胸の芯が甘く疼いた。


 それが憧れなのか、あるいは恋心なのかは分からない。

 どちらにせよ、リリィは彼を強く想う。


 強く、願う。


 ここに来てほしいと――。




「呼んだか、リリィ」




 突然、声が響いた。


「レイン様――?」

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