3 三本の伝説の剣


「何か知っているの、レインくん?」


 マルチナがたずねる。


「俺の知り合いが同じ名前の剣を持ってる」

「……!」


 マルチナの表情が変わった。


「彼女も『紅鳳の剣ミラーファ』っていう名前を知ったのは、ついこの前みたいだけどな」

「ん? そういえば、君が『光竜の遺跡』に行ったときはS級冒険者のリリィさんと一緒だったのよね? なるほど……あたし、分かっちゃった」


 ドヤ顔をするマルチナ。


「ああ、そのリリィ・フラムベルが『紅鳳の剣』の持ち主だ」


 俺はうなずいた。


「分かった。彼女のところに行くね。これで三本の剣がそろう……よかった」


 マルチナはホッとした様子で、


「案内してもらえると助かるかな、レインくん。あたしは伝説級の三本の剣を集めて、光竜王を再封印しなければならないの。勇者候補者の使命として──」

「勇者……候補者?」

「そ。あたしの先祖には古の勇者レーヴァインやエルヴァインがいるもの。直系の勇者の子孫よ」


 マルチナはにっこり笑った。


 勇者の子孫──。

 そう言われると、なんか威厳を感じてしまう。


「ふふ、君だって勇者候補者なのよ、レインくん」

「えっ」

「以前にウラリスの人が君を誘いに来たはずだけど?」

「……あっ、そういえば!」


 確かに、俺が『燐光竜帝剣レファイド』を手に入れたことを聞きつけたらしいウラリス王国が、俺に『王国の住人にならないか?』と誘いに来た。

 そして勇者として活躍してほしい、と。


 要は広告塔になれ、ってことだった。


 俺はそれを断ったわけだが──。

 あれは、俺が勇者の候補になった、という意味合いだったのか。


 で、マルチナもその勇者候補……か。


「あ、それと──」


 マルチナがミラベルに向き直った。


「ミラベルさん、だったっけ? 君にもついて来てもらえるとありがたいかな」

「私が?」

「封印を巡って敵勢力との戦いは避けられないと思うの。そのときに──あたしたちのような正攻法の戦いとは違う、『暗殺能力』に長けたメンバーが欲しい」


 マルチナがミラベルを見つめる。


「さっき、あたしの背後を取った動きは見事だった。力を貸してほしいの」

「報酬は?」

「えっ」

「報酬次第」

「えっ、でも、これは世界を守るための戦いで──」

「報酬次第」

「光竜王が復活すれば人類の大半が殺されるかもしれないのよ? それを阻止するために、あたしたちは」

「報酬次第。低ければ断る」


 ミラベルは一歩も退かない。


「危険な戦いなら報酬はなおさら手厚く欲しい。命が大事だもの」

「うう……」

「お金もたくさん欲しい。たくさんたくさん欲しい」

「ううう……」


 ミラベルはブレないなぁ。


「わ、分かった。ウラリス王国に交渉してみる。なんとか必要経費ってことで認めてもらえるように努力するね」

「努力じゃなく確約がほしい」

「うううう……」

「不確かな口約束じゃなく確かな契約、大事」


 ミラベルは無表情のまま、ずいっと顔を近づける。


「……分かった。約束するね」


 マルチナはたじたじのようだった。


「契約成立。やった」


 ミラベルは嬉しそうに笑った。

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