第5章 付与魔術師と暗殺者

1 週末のデート

 翌日は週末だった。


 俺はニーナと一緒に食事をしていた。

 この間、食堂で約束した週末の食事だ。


「じゃあ『王獣の牙』の方たちはそのまま帰っていったんですね」

「ああ、俺の勧誘は諦めたみたいだ」


 と、ニーナに話す俺。


「よかった……私、レインさんがここから出ていくのかと思って」

「まさか。俺は『青の水晶』の一員のつもりだし、いいギルドだと思ってる。『王獣の牙』に戻ろうなんて、まったく思わない」

「そうですか」

「だから、これからもよろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ニーナが俺を見て、にっこり微笑んだ。




 俺たちは食事を終え、町の通りを歩いていた。


「あの店、美味かったなぁ」

「また来ましょうね」

「ああ、近いうちに二人で行こう」

「っ……! ふ、二人で……またデートできる……!」


 ニーナがなぜか小さくガッツポーズしている。


「どうしたんだ?」

「い、いえ、なんでもありませんっ」


 彼女は顔を赤くしていた。


「ニーナ?」

「す、すみません、私……ちょっと舞い上がってるかも……」


 ごにょごにょと何ごとかをつぶやいているニーナ。

 妙に情緒不安定というか……本当にどうしたんだ?


 怪訝に思いつつも、さらに歩く。

 大通りを過ぎ、人けのない路地に入る。


 この先がニーナの家だ。

 彼女を送り届けたら、俺も家に帰ろう──。


「レイン・ガーランド。その命もらいうける」


 すぐ耳元で冷たい声がする。


「えっ」


 驚く俺の首筋にナイフが突き立った。


 まさか──。

 ハッとなった。


 バリオスが雇ったという暗殺者か!?


 さすがはプロだけあって、まったく気配を感じなかった。

 気が付けば、ナイフで首筋を斬られていた。

 ただし──。


「効かないんだよな……」


 俺は平然とその場に立っていた。

 もちろん、首筋には傷一つない。


「……なんだ? 確かに手ごたえはあったのに」


 怪訝そうな暗殺者。


「さあな」


 俺は奴を見据える。


 ──助かった。

 俺は首から下げているペンダントに視線を向けた。


『守護の宝石』。

 一定ダメージを持ち主の代わりに受けてくれる、一種の加護アイテム。


 もともとの性能は高くなく、たとえば致命傷クラスは防げない。

 あくまでも『一定のダメージ』を防げる程度なのだ。


 ただし──それは普通の『守護の宝石』の話。

 俺が+10000の強化を施した、特製『守護の宝石』なら話は別だ。


 さっきみたいに、ほぼ致命傷のはずの攻撃も肩代わりし、簡単に防いでくれる──。


 普段から着ている『布の服』には、すべて強化ポイントを付与してある。

 服の場合、ドラゴンブレスみたいな『体全体』への攻撃は防げるんだけど、今みたいな『体の一部』への攻撃の場合、布で覆われている部分しか守れない。

 つまり服から露出した部分への防御力はゼロだ。


 だから、それを補うために、こういうアイテムを身に付けることにしたのだった。

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