4 勇者として招待
俺が『光竜の遺跡』で手に入れた伝説級の剣『
それはもともと古の勇者エルヴァインの剣だったという。
彼は魔王との戦いを終えたのち、剣を遺跡に安置した。
その後、遺跡に住み着いた上級ドラゴンがその剣を守護するようになり、誰も剣を手にできなくなったのだが――。
「勇者エルヴァインは我がウラリス王国出身なのです」
と、使者が言った。
「そのエルヴァインの剣を、先日あなたが手にされたと聞きました。いわば、あなたは勇者の後継者。ぜひ我が国にお迎えしたい」
「えっと、先ほどの話では私を貴国の所属に、とおっしゃいましたが……」
今日二件目のスカウトに俺は戸惑いつつもたずねる。
「具体的にはどういうことでしょうか?」
「あなたの国籍や居住地登録を我が国にしていただきたい。次に、衣服や鎧には我が国の紋章をつけていただきたい。要は、あなたは我が国の人間として、伝説の剣を振るい、人々を守る現代の勇者として戦う――そういった構図にしたいのです」
つまりは――広告塔というやつか。
「どうでしょう? 無論、報酬は望むままを用意しましょう。金も名誉も、あるいは女がお望みならいくらでもそろえますよ。ふひひ」
冗談なのか本気なのか、下品に笑う使者。
「私は――今の暮らしで満足しています。貴国の人間となり、その所属として剣を振るう――という話には、あまり気が乗らなくて」
「気が乗らない? なぜです?」
使者は顔をしかめてたずねた。
大方、俺が二つ返事で承諾するとでも思っていたのだろう。
「失礼ながら、こんな吹けば飛ぶような冒険者ギルドに所属するより、我が国の勇者として生きたほうが、ずっと幸せな人生を送ることができると思いますが」
「……確かにこのギルドは小規模ですが、それぞれが精いっぱい責任ある仕事をこなし、温かな情もあります。『青の水晶』を軽んじるような発言は聞き捨てなりませんね」
「うっ……」
たじろぐ使者。
「あいかわらずウラリスは他国を見下すような言動を取るじゃねーか」
バーナードさんが歩いてきた。
「……! 貴様はまさかバーナード・ゾラ!? ウラリスの元宮廷魔術師がこんなところで何をしている――」
「こんなところで悪かったな。『青の水晶』は居心地がいいところだ。少なくともお前らの宮廷よりはずっとな」
バーナードさんが鼻を鳴らした。
「それと――うちのエースを軽々しく勧誘するんじゃない。どうしても、というなら、まずこの俺を通してもらおうか。ん?」
「ぐっ……!」
使者は明らかにひるんでいるようだった。
「で、では、あなたが拒否した旨を王国に報告します。わ、私はこれにて――」
逃げるように去っていく使者。
「バーナードさん……」
「このギルドを悪く言われたんでつい、な」
ばつが悪そうに頭をかくバーナードさん。
「いえ、頼もしかったです。でもウラリスの宮廷魔術師だったというのは驚きました」
「昔の話だ」
バーナードさんはふっと笑った。
「今はここに所属する一冒険者。宮仕えより、その方がずっと性に合ってるよ」
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