4 伝説級の剣を求めて


 俺は聖騎士リリィから『伝説級の剣』のありかについて説明を受けていた。


「ここから東にある竜王国ガドレーザ。王都の外れにある遺跡に、上級ドラゴンが守っているという伝説級の剣があります」

「伝説級の剣……」

「銘を『燐光竜帝剣レファイド』。燐光を発し、竜の力を秘めるという強大な剣──これならレイン様の強化にも耐えられるかもしれません」

「なるほど……」


 リリィの説明にうなずく俺。


「その剣はドラゴンが守ってる、って言ってたな。強いのか」

「ええ。何せこの三百年、誰もそのドラゴンに勝てませんでしたから。剣を手に入れた者もいません」

「そのドラゴンを、俺なら倒せる──と?」

「あなたの武器は中級のドラゴンを一撃で倒したと聞きます。相手が上級でも十分に通用すると思います」


 リリィが言った。


「とりあえず適当な武器を強化するか……けど、また壊れるだろうなぁ」


 攻撃を一発撃つ前に壊れてしまうとまずいな。

 いや、銅の剣ですら二発耐えられたんだし、一発くらいなら普通の剣で十分戦えるだろう。


 ……待てよ。

 剣を二本用意して、一本に『+500』とか『+1000』くらいの強化ポイントを、もう一本に残りの強化ポイントを込めるっていうのはどうだろう。

 道中の雑魚敵には最初の剣で戦い、『燐光竜帝剣レファイド』を守るドラゴン相手にのみ、二本目の剣から強化ポイントを移して、全強化ポイントを込めた剣で倒す、っていうのは。


 これなら道中の戦いで剣を壊してしまう可能性は低い。

 上級ドラゴンを倒すときには、剣一本を犠牲にする覚悟がいるから、もう一本を予備として用意しておけば、行き帰りの道中での戦いも対応できるだろう。


「──なるほど。さすがはレイン様ですね」


 俺の話を聞いて、リリィがうなずく。


「ただ、道中やドラゴンとの戦いではあたしも加わります。というか、むしろあたしメインで戦いたいです。剣を強化していただいたお礼なので、できるだけレイン様のお手をわずらわせたくないんです」

「ありがとう、リリィ」




 俺はリリィとともに竜王国ガドレーザに出発した。


 馬車での旅路で、リリィがその馬車を手配してくれた。

 客車は豪華だし、かなり高額なものだろう。


「いいのか、こんな高そうな馬車……」

「旅費はすべてあたしが出します。ご心配なさらず」

「いや、俺も出すよ」

「お礼ですから。それに──あたしはこれでもS級冒険者なので。結構稼いでますから大丈夫ですよ。どうかあたしに出させてください」


 そこまで言われると、うなずくしかない。


「何から何まで悪いな……」

「あたしの方こそ剣を強化していただいた上に、こうやってご足労いただいて……申し訳ないです」

「そんなにかしこまらないでくれ。俺は大したことはしてないつもりだし」

「お気遣いありがとうございます……!」


 リリィが微笑んだ。


「せっかくだから旅行だと思って楽しむことにするよ」


 笑みを返す俺。


「もともとギルドを追放されたときに、しばらくは休暇気分で気楽に過ごそう、って考えてたしな」

「いいですね、旅行」


 リリィがうなずく。


「では、あたしも旅を楽しみます」


 俺たちは馬車に揺られ、街道を進んだ。

 窓の外に目を向けると、雄大な山々や野原が広がっている。


「そういえば──こんなふうに景色を楽しむのは久しぶりだな」


 前のギルドではずっと忙しく働いてたからな。

 必死でモンスター討伐をしては強化ポイントを溜め、ギルド所属の冒険者たちの武器防具を強化する日々──。


 それも、彼らの喜ぶ顔が見たい一心だった。

 だけど……。


「どうかなさいました、レイン様?」


 リリィが俺を見ていた。


「えっ」

「寂しそうな顔をしてらっしゃいました」

「ちょっと……昔のことを思いだしただけだ」


 でも、もういいんだ。


 過去は過去。

 これからは今の生活を楽しんでいくんだ──。

 俺はあらためて景色を見つめた。

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