6 仲間の装備を強化する


 俺はバーナードさんとともに森の中を進んでいた。


 この先にドラゴンが住みついているらしい。

 この周辺は耕作地帯で、ドラゴンによってかなり被害が出ているんだとか。

 農作物だけでなく、家畜や人にまで被害は及んでいる。


 そのドラゴンを退治するのが今回の依頼だ。


「お前、ここに来る前は『王獣の牙』にいたんだって?」

「はい。付与魔術師なので、主に武器や防具を強化する役割でした」


 主にっていうか、振り返るとそれしかやってないな……。


「強化か……なら、俺の杖も強化できたりするのか?」

「そうですね。バーナードさんは魔法使いだから、杖の持つ効果を強化することならできます」


 魔法の杖は、その名の通り魔法使いが呪文を使う際に補助的な役割をするものだ。

 杖自体が一種の魔法のアイテムであり、『魔力上昇』や『詠唱短縮』など特定の効果を得られるものが多い。


「俺の杖の効果は『魔法の攻撃力上昇』だけだな。オーソドックスなやつだ」

「その効果を強化することはできます。ただ、その杖に存在しない効果──たとえば『魔力上昇』とか『詠唱短縮』とか──を新たに付与したり強化したり、ということはできません」

「もともと存在する効果をアップさせることしかできない、ってわけか」

「ですね」


 うなずく俺。


「あ、いちおう杖は打撃武器でもあるので『直接攻撃力の強化』もできますよ」

「俺は魔法使いだからな。肉弾戦の方はそこまで重視してない」

「肉弾戦の方が強そうに見えますが……」

「がはは、よく言われるよ」


 笑うバーナードさん。


 気のよさそうな笑顔に、俺もつられて笑った。


「あの、俺がバーナードさんの杖を強化しましょうか?」

「ん、いいのか?」

「俺はもう『青の水晶』の一員ですから。仲間の武器や防具を強化するのは、俺の役目です」

「じゃあ、頼む」


 バーナードさんが杖を差し出す。


 どれくらい『強化ポイント』を注ごうか。


 俺自身の剣にも攻撃力を残しておきたい。

 ただ、バーナードさんはギルドのエースみたいだから、やはり相応に強い武器を持ってもらう方が、ギルドにとってもプラスだろう。


「とりあえず剣の半分のポイントを入れるか……」


 現在、銅の剣には『10000』の強化ポイントが入っている。

 その半分──『5000』ポイントを魔法の杖に移した。


 ……いや、移そうとした。


『移動可能なポイントの上限を超えています。数値を設定し直してください』


 声が聞こえる。

 こいつは付与魔術を使う際に流れる声だ。


「上限を超える? でも銅の剣には『10000』ポイント付与できたんだぞ?」


『術者以外が使用する武器防具に関しては、付与可能なポイント上限は300となります』


「えっ、そうなの?」


『現在の上限値は術者の装備は30000、その他の者の装備は300となります』


 じゃあ、『+10000』なんて武器を使えるのは俺だけなのか……。

 といっても、『+300』でも十分強力だけどな。


「じゃあ、銅の剣から魔法の杖に『300』の強化ポイントを移動するよ。あと、俺の服からバーナードさんのローブに『300』移しておいてくれ」


『移動完了』

『魔法使いバーナード・ゾラの装備が「魔法の杖+300」「魔法使いのローブ+300」になりました』

『それに合わせ、術者であるレイン・ガーランドの装備が「銅の剣+9700」「布の服+2733」になりました』


 俺の装備は少し強化ポイントが減ったけど、これくらいなら問題ない。


 それにドラゴンを倒せば、その魔力の一部を新たな『強化ポイント』として吸収できる。

 そのポイントを使えば、俺の武器や防具はもっと強くなるはずだ──。


「ありがとう、レイン。この杖……やたらと力を感じるぞ。それに俺のローブも防御力を上げてくれたのか」

「はい。ドラゴン戦を前に装備はすべて強化しておこうと」

「頼もしいな」


 バーナードさんが目を細める。


「お前がギルドに来てくれて嬉しいよ。引き続き、よろしく頼む」


 俺の能力を評価し、必要としてくれている。

 その言葉は純粋に嬉しかった。


 ギルドを追い出されたときの悔しさや失望感が、喜びによって薄れ、上書きされていく感じだ。


「こちらこそ!」


 俺は笑みを返した。

 と、そのとき──、


 るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!


 雄たけびとともに、すさまじい地響きが聞こえた。


「ドラゴンか……!」

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