因果応報の記憶喪失

森本 晃次

第1話 病院に運びこまれた女性

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。登場しますK市という街、及び警察官関係者で、他小説と重複はしていますが、限りなく薄いところで、結界があると思ってご覧になると、面白くご覧いただけると思っております。K市をパラレルワールド的な発想で、リセットしてご覧ください。(あくまでもK市、F県は架空の都市です)


 F県のK市は、二十年くらい前、つまり二十一世紀に突入してすぐくらいに、近隣の都市と合併し、K市と解明したのだった。元々は県名と同じ名前の県庁所在地だったのだが、いわゆる、

「平成の大合併」

 という時代を経て、現在に至っている。

 そもそも、F市だけでも県庁所在地としては十分だったのだが、近隣の市が合併を希望したので、それに乗っかる形でK市として新たな県庁所在地として生まれ変わったのだった。

 人工もF市だけでは、五十万を少し超えるくらいだったが、近隣の市を吸収することで、現在は百万都市として、政令指定都市の仲間入りをしていた。

 そもそも、F県というのは、それほど地域の中でも小さな県ではなかった。県庁所在地であるF市の人口が寂しいということは以前から言われていて、県としても、F市の人口増加は取り組むべき課題だとされていたのだ。

 合併後に行われた大改造によって、区の整備もされ、六つの区からなる大都市となっていた。地下鉄もかなり前から開通していて、高速道路などの交通網も充実していた。

 六つの区は、そのまま昔の市があったところに一つずつ作られる形になったのだが、そもそものF市だけは大きすぎるので、三つに分けられた。そして、その一つに元々の市の名前が残ったことで、

「F県K市F区」

 という少し面白い名前が形成された。

 現在は、意識してパッと思いつく似たようなところは、

「兵庫県神戸市兵庫区」

 くらいであろうか。

 これは当然、県名と県庁所在地の市の名前が違っていることと、県名と区の名前が同じであるということが最低条件であるので、かなり限られてくるものだということは分かっている。

――まるで三段論法のようだな――

 と言える、

「AイコールB、AイコールCであれば、BイコールCである」

 というような考え方である。

 ただ、これがイコールでない場合は、かなり条件的に狭い壁になる。それを証明する形で存在している考え方が、

「三すくみ」

 という考え方ではないだろうか。

「AはBには強いが、Cには弱い。BはCには強く(上記理由でAには弱い)。となると、Cは……となるのだ。Aに強いか弱いかというのは、確率的には半々なのだろうが、ここまでの仕組みが重なってくるまでに、かなりの狭い門をくぐってきているということで、果てしなく、確率としては低いような錯覚を受けてしまう」

 これが三すくみというもので、じゃんけんであったり、呪縛を含むものの因縁を感じさせるものとなるのであった。

 だが、思ったよりもこの三すくみという考え方は世の中には結構多いもので、じゃんけんだけではなく、

「ヘビ、カエル、ナメクジ」

 などにも言えるであろう。

「ヘビはカエルを食べ、カエルはナメクジに強い。しかし、ヘビはナメクジに解かされてしまう」

 という、完全な三すくみの関係が成立するのだった。

 そんなK市では、近代化が勧められていた。その最初に計画されたのが、

「老朽化した一等地のビルを解体しての、近代化ビルへの事務所誘致計画」

 だった。

 F市は、県としては大きいわりには、県庁所在地としては、どうしても見劣りするものであり、その理由の一番大きなものは、まだ昭和の匂いを残す施設が、市街地にたくさん散見されるところであった。

 元々、K市が出来上がった時、他の四つの市のうちに一つが、市町村合併には大きく反対していた。その市はそこだけで十分に機能していたからだ。それがどうして平成の大合併によって一緒になったのかという理由に関しては諸説あったが、どうやら、政治家の先生の選挙区に大きな問題gあったようだ。

 ただ、一つ面白いのだが、実は、F市と隣接しているB市というところは、市の境目のところが同じ地名だったという状態だった。元々市政を敷いた時、そもそもその場所が広かったこともあって、単純にどちらかに併合するとなると、大きな問題になったのだ。

 混乱を避けるため、街の真ん中に境界線を敷き、片方をF市、片方をB市が吸収し、市を形成したのだった。そして、地名を変えることがなかったため、別の市との境目で、別々の同じ名前の街ができたという経緯があった。

 しかし、今度はそこが合併することになるのである。つまり、K市F東区N町と、K市B区N町が出来上がることになる。

 最初、数十年前に市制が敷かれた時は、問題なかったのだが、市政が敷かれてからは、この町で整備が行われ、学校、病院、郵便局などの公共施設が独自に建設されたので、

「K私立」

 などという形にできていたものが、合併することで、同一の市の中に同一の地名の町が存在するという形になりややこしくなていた。だが、実際には

「F東区立」

 という形になるので、そこまでの混乱はないだろうが、例えばタクシーなどに乗って、

「〇〇中学校まで」

 と言った場合、運転手から、

「どっちの?」

 と訊かれることはあるだろう。

 詳しいことを知らない人は、近くに同じ名前の中学校があるなど知る由もないので、答えることができず、電話で確認してもらうことが必要になったことだろう。

 しかも、当時はまだ携帯電話がそこまで普及されていなかったので、公衆電話からの連絡ということもあったことだろう。

 そんな面白いことも新K市には存在した。今では地名が変わって、混乱することがなくなったが、当時はクイズになるほどで、全国的にも珍しかったのではないだろうか。

 また、市町村合併に関して面白い話があるのだが、K市というのは、F県の中でも結構端の方にあった。ただ、隣の県との県境に接してはいなかったのだが、市町村合併したことによって、県境に接するようになった。しかも隣の県の方でも同じことが起こり、県境まで隣の市が出しゃばってくることになったのだ。

 それによって起こった面白いことは、

「県庁所在地同士が接している」

 という事実であった。

 昭和の頃までは全国で一か所しかなかったが、平成の大合併によって、全国でこのF県を含めて、四つになったのだ。

 元々最初からあったのは、京都府の県庁所在地である京都市と、滋賀県の県庁所在地である大津市だけであった。だが、平成になると、合併によって福岡県の県庁所在地の京都市と、佐賀県の県庁所在地である佐賀市、さらに宮城県の県庁所在地である仙台市と山形県の県庁所在地である山形市、さらにこのF県と、三つのパターンが増えて四か所になったのだ。

 そんな豆知識も別にして、K市というところは全国でも珍しいものが地名という意味では残っていると言えるだろう。クイズとして出題されるレベルではないだろうか。

 そんなK市のF区の中で、それこそ昭和の頃から続いている工場を中心とした会社があった。

 まだ油臭さの残るような古臭い工場ではあったが、経営は実に堅実なので、今は希少価値になった工場として、ある意味社会貢献していると言ってもいいだろう。

 F区というのは、街はずれには新興住宅街であったり、郊外型の大型ショッピングセンター、さらには、高速道路のインターと、インフラが充実したところであった。ただ、最先端と言える計画都市の部分もあれば、まだ昭和の頃の色を残している、まるで下町と言えるような場所も残っていて、両方がうまく混在するバラエティに富んだ街だと言っていいだろう。

 そんな街において、数年くらい前、治安が乱れた時期があった。新興住宅街に、人が少しずつ増え始めたことであったが、夜になると、痴漢やひったくりなどが現れるということで、警察が警戒を促していた時代があった。

 F区警察署の人たちが、毎晩当番を決めて、取り締まりに夜回りをしていた頃があったくらいだ。

 それでも被害者は後を絶えることもなく、

「警察は一体何をしているんだ」

 と、世間が騒いでいた。

 F区警察としては、溜まったものではない。県警の方からも、

「警察の威信にかかわることなので、早急に手を打たないといけない」

 と言われて、捜査に全力を注ぐことになったが、なかなか警察の捜査力には限界があり、地理的な範囲という意味でも、形式的な範囲という意味でも縛りがあったと言ってもいいだろう。

 そのために、なかなか鎮圧までには時間がかかり、警察の権威が地に落ちかけていたが、時間が解決したというのか、いつの間にか沈静化してきた。きっと、犯人が犯行に飽きたというか疲れたというのが本当のところかも知れないが、警察としては、何もしていないのに沈静化したことで、ホッと胸を撫でおろしたというのが本音のところだった。

 その頃のことを覚えている人はもういないかも知れないが、当時の被害者にとっては、世間が忘れたとしても、トラウマが消えることはなかった。

 しかも、犯人による直接的な被害だけではなく、世間の目という間接的な視線が、被害者に追い打ちをかけることになり。そっちの方がトラウマとなって残っている人も少なくはない。だからこそ、時間が解決してくれるなどという言葉は、甘い戯言でしかないのだった。

 世間の人も、警察もそんなことを誰も分かってはいないだろう。そんな昔のことは忘れてしまったという人も少なくはなく、まるで酒の肴のような話にしかならないだろう。

 その頃は毎日のように全国で似たような話が多く、この街に限ったことではなく、社会問題になっていたと言ってもいいだろう。

 だからと言って、K警察署の対応は仕方がなかったなどということはなかったに違いない。

 松田警部補くらいであれば、当時のことは覚えているのだろうが、刑事の浅川や桜井にはその頃の混乱を知る由もないだろう。刑事というと、異動することも多いので、それも仕方のないことだった。だが、他人事としての外野の目では見ていたはずもなく、事件を知らないわけでもなかった。

 今は自分が刑事という立場なので、

――あの時に当事者であったとすれば、どのような気持ちで捜査に当たっていただろう?

 と感じたが、どちらかというと冷静さが特徴の浅川刑事には、想像もつかなかった。

 だが、桜井刑事は浅川刑事と比較すると、勧善懲悪という意識が強いので、

――たぶん、悪を許さないという怒りに燃えて、捜査していたに違いない――

 と思っていた。

 だが、実際にその場面にいれば、想像するのと比べて、もっと怒りが溢れてくるか、想像よりも冷静に見ることになるのかということは自分でも分からない。それを思うと、桜井刑事は、

――その時になれば、ひょっとすると自分を見失ってしまうかも知れない――

 と感じたのだ。

 桜井刑事は知らなかったが、その時の被害者に中学時代の同級生がいた。その頃桜井刑事は交番勤務として、F県でも田舎の方の勤務だったことで、事件への馴染みは薄かったのだ。

 実際にF区警察に配属になったのは、四年前からで、すでに事件は話しに上がることもないくらいになっていた。

 いくら重大事件であったとはいえ、日頃の時間はせわしなく動いていて。待ってくれることはない。

「忘れてはいけない」

 という教訓であるのは間違いないが、それ以上に、新たな事件への対応が先決であったのだ。

 彼女の名前は九条聡子。今は三十三歳になっていた。中学時代は頭のいい女の子として桜井の頭の中に残っていた。理論的なことを解明しながら理解するのが得意だったことで、理数系が得意だった。ただ、推理力も半端ではなく、推理クイズなどの本で彼女が組み立てる推理はそのほとんどが正解で、正解ではなかった話であっても、誰が見ても、理路整然としていることで、

「それが正解だと言ってもおかしくないじゃないか?」

 と言われるほどだった。

 そういう意味では、

「九条さんのような人が警察にいれば、もう少し検挙率は高いのかも知れないな」

 と思ったことがあったほどだ。

 それは以前、警察の目標として、

「検挙率を挙げるにはどうしたらいいか?」

 というレポート提出を上司から命じられたことがあったが、その時に浮かんできたのが、中学時代の聡子の顔だったのだ。

「警察官という立場で何を考えているんだ」

 と、苦笑したものだったが、その時に聡子の顔を思い出したことで、頭のどこかでいつも自分が聡子のことを意識していると思えてならなかった。

 まさか、そんな彼女が数年前に暴漢の被害に遭っていたなど想像もしていなかった。

 桜井は知らなかったが、その時の聡子は中学時代の面影はなく、事件のショックからなのか、それともそれ以前からなのか分からないが、軽い精神分裂症になっていたようで、医者の治療を必要とするほどだった。

 警察の取り調べに対しても、証言が一定しておらず、まともな事情聴取はできなかった。さぞやショックが大きかったに違いない。

 聡子は精神分裂というだけではなく。一部の記憶が欠落していた。生活するうえでのことや、家族や知り合いのことは覚えているのだが、事件に関係しているところでの記憶はほとんどが欠落している。それでも自分が暴漢に襲われたという意識があるようで、悪夢を見ては飛び起きるので、自覚はあったようだ。だが、その悪夢の原因がどこから来るものなのか分からなかったし、その内容も目が覚めるにしたがって忘れていくので、何に対して自分がトラウマとして残っているのか分かっていなかった。

 これを、

「知らぬが仏」

 と考えるか、それとも、

「知らないことが致命的と考えるか?」

 ということが問題だったのだ。

 本人としては、どうしても楽天的に考えることはできず、ネガティブになってしまうことで、後者なのであろう。

 今でも綺麗であるが、当時は少し違った意味で綺麗だった。それは明るさがある綺麗な雰囲気で、今はトラウマがあるからなのか、綺麗と言ってもその後ろには影を感じるのだった。

 聡子は中学の頃から、輪の中心にいる女の子で、いつも輝いていた。そのイメージが彼女を綺麗に見せていたのであって、その輝きがなければ、完全に火が消えてしまうであろうと思っていただけに、火が消えてしまっても、影という形で美しさが残っている聡子は想像以上の綺麗さが、その奥底にあるのだろうと思うのだった。

 聡子は地元の女子高を卒業してから、今の会社に入社した。桜井が彼女を知っているのは中学時代だというのは、彼女が女子高に通ったからだ、もし共学であれば、同じ高校に通っていたかも知れないと思うと、残念で仕方がなかった。ただ、それを感じたのは、かなり後になってからのことだった。

 もし、同じ高校に通っていれば、ひょっとすれば、彼女が事件に巻き込まれることはなかったかも知れないと思ったからなのだが、彼女が事件に関わっていたということをまだ知らなかったので、知ることになるというのは、知ったその時に、

「何て皮肉なことなんだ」

 と感じたのだった。

 その時のことはまるで風化してしまったかのように思えれていたが、それを思い出させることになろうとは、誰が感じたことだろう。それも、ある事件の発生で思い起こさせることになったのだが、事件が繋がっているということに気づくのはかなり後になってからのことであった。

――もし、もっと早く分かっていれば、事件の解決ももっと早かったのではないだろうか?

 と思われたが、実際にはそんなことはなかったというのが浅川刑事の話だったが、後になって事件の全貌が分かってくると、桜井にも分かってきたことだった。

 桜井刑事は、これからどのようなことが起こるのか分からずに、意識することなく毎日の勤務に追われていたが、

「気配もなく襲ってくるのが恐怖というものだ」

 ということを、いまさらのように思い知らされた気がしたが、今度の事件は全体的にそういうイメージを払しょくさせるものだった。

 その事件のカギを握っているのが、

「中学生のあの頃のイメージを忘れられない」

 と思っていた聡子だったのだ。

 桜井がその時、聡子のことを思い出していたというのは、本当に偶然だったのだろうか? それとも虫の知らせのようなものだったと言えなくはないだろうか。それを思うと、これも後から考えてのことだったが、今回の事件で、桜井は何度かこのような同じ思いをするのであった。

 事件が起こったのは、そんな頃だった。殺人事件というわけでもなかったのだが、これから起こる事件の前奏曲としての演出だと思うと、

――ここから始まったことなのかも知れない――

 と感じたのだ。

 いや、事件というのは大げさであった。最初に状況を見た巡査の話では、いかにも誰かに襲われたかのような状況だったので、しばらくの間、事件として捜査が行われたが、それが実は違ったということで捜査が打ち切られたのが、その二日後だった。

 なぜそのような単純なミスが起こったのかというと、被害者と思われた人が記憶を失っていたからだ。ただ、記憶喪失という病気なのだろうが、それが誰かに殴られたからということでの記憶喪失ではなく、何かの拍子に起こるものだというのだが、それが何が原因で起こるものだったのか分からなかったのだ。

「それにしても、あっちでもこっちでも記憶喪失というものが蔓延っているのもおかしなものだ」

 という状態だったのだ。

 その事件はショッピングセンターで起こったのだが、その時は夕方に差し掛かった頃で、学校が終わって、学生が溢れていた時間帯だった。

 人ごみの中では、人に酔うことですぐに気分が悪くなる人もいた。ちょうど表が寒く、ショッピングセンター内部は異常に暖房が利かせていたこともあって、余計に気分が悪くなったのだろう。しかも近くには化粧品屋さんがあり、香水やら化粧品の薬品の匂いで噎せ返っていたと言ってもよかった。

「香水の匂いで噎せ返った気持ちになってそれで意識を失ったのかも知れない」

 ということであったが、最初は、

「少し横になっていれば、そのうちに意識を取り脅すだろう」

 と言われていたが、一時間経っても二時間経っても意識が戻る様子がなかったので、ビックリした店員が救急車を手配したのだ。

 病院に行くと、その人は記憶を失っているということが判明したのと同時に、

「これは警察にも連絡しなければ」

 ということで、病院から警察に通報された。

 警察からやってきたのは、病院としても馴染みのある浅川刑事だった。

「どういうことですか、先生」

 と浅川は訊いたが、この先生というのは、川越博士というK大学病院でも権威と言われる博士号を持った先生だった。

 特に精神科や循環器関係に関しては日本を代表する医者ということで、テレビに出たりすることもあったりした。

「浅川さん、この患者は記憶を失っているだけではなく、身体から薬物反応がありましたよ。ただ、法律に引っかかるほどの量ではないんだけど、気を失ったことに対して影響があったと思うんですよ。ただ、今回気を失ったのは、あくまでも薬物だけが原因だとは言えないでしょうね」

 と言っていた。

「というと、どういうことですか?」

 と訊いた浅川刑事に対して、

「薬物はあくまでも促進剤のようなものだと思うんです、確かにこの薬物は『麻薬及び向精神薬取締法』で指定されているものではありますが、この薬物で記憶を失わせる効果があるとは言えないんですよ。あくまでも媒体という感じですね」

 と川越博士は言った。

「とにかく、この人は意識が戻ったらこちらに引き渡していただけますか?」

 というと、

「もちろんです。ですが、果たして取り調べができるかどうか疑問ですよ。何しろ記憶がないわけですからね」

「ん? 彼は一度意識を取り戻したんですか?」

「ええ、そうじゃないと、記憶を失っているかどうかなど分かるはずもないからですね」

 この二人の会話は、それなりに問題を提起していたが、浅川刑事は、この話にどんな問題があるかということをその時はまだ分からなかった。

 意識としては、

「漠然としてだが、何か大きな問題がある」

 ということは分かっていたのだった。


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