ファンタジーなんて信じない

司尾文也

プロローグ

 学校の怪談、あるいは七不思議、もしくはそれに準ずる都市伝説。そういう類の噂話が蔓延るのはどこの学校でも同じのようだ。


 十代後半という多感な年頃の少年少女たちが狭い空間に押し込められ、共同生活をさせられるのだから、噂が流行しやすいのも当然と言える。

 それはさながら病原菌のように拡散し、途中で変異を繰り返しながら、面白おかしく脚色されていく。


 言ってしまえば、これは娯楽なのだ。非日常的な現象を望む学生たちが企む現実へのささやかな抵抗と言うべきか。


 それはどうやら我が校も例外ではないようで、高校入学から一週間と経たない内に複数の噂を耳にした。


 うちの高校の生徒の中に、宇宙人が紛れ込んでいるだとか。


 人間と同じくらいの大きさの化け猫が、夜な夜な校舎を徘徊しているだとか。


 実に下らないものばかりだ。誰かが意図して作ったものではなく、集団が情報を共有する中で自然と生まれたものであろうとはいえ、あまりにもクオリティの低い怪談だと言わざるを得ない。

 こんなものを本気で信じている人なんて、一人もいないだろう。確かめるまでもなく明らかな作り話だ。


 もちろん、俺も信じていない。そんなファンタジー染みたことが現実に起こるわけがない。


 現実が嫌なら、自力でどうにかするしかないんだ。自分を変えることでしか、現実を変えることはできない。


 ……というわけで、俺もひとつ、忌々しい現実とやらを変えてやろうと思う。


 この十五年間、いまいちパッとしない人生を送ってきた俺ではあるが、高校生という青春の黄金期をこのまま無為に過ごすわけにもいかない。

 一体どうすれば、華々しい青春を送ることができるのか。ファンタジーになど頼らず、あくまでも現実的に、考えてみることにしよう。

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