涼宮ハルヒの弊害 ~SOS団HPを見た面々~

粟飯原勘一

プロローグ~第1話 ~異変~

 

 プロローグ ~異変~

 

 それが起こったのは、秋も深まったとある休日。

 その日起き上がって気づいた異変は、胸の辺りにある「それ」だった。

「…ん?」

 目を覚ましてベッドで起き上がると、何か違和感があった。

「…あ、れ…?」

 胸が、重い?

 むにむに。

「…なっ…なんじゃいこりゃぁ!!」

「祐麒?

 なにかあった…あれ?」

 その声に、出かける準備をしていたのか、俺が昨日の夜貸したジャンバーとジーパンを着た姉・祐巳が俺の部屋に入ってきた。

「えと…祐麒…だよね?」

「ああ、俺だ…なんかへんだよな?」

 思わず声に出して変な言葉を発してしまう。

 しかし祐巳もその意味がわかったようで、正直に答えてくれた。

「うん…。

 祐麒…あんた、女の子になってるよ?」

 そのとき俺は初めて知った。

 予想が当たっているのに、こんなに落胆することがあるってことに。

 

 一章 ~接触~

「…アンタ、男の子だったよね?

 最初から女の子じゃなかったよね?」

「…ああ、そうだ」

「でも…」

 結局、たいした買い物でもなかったようで、祐巳は俺の身に起こったことについて考えてくれるといってくれた。

 しかし事態は予想外に深刻だったようで、まさか両親に「祐麒は女の子」といわれてしまうとは思わなかった。

「「…どうしよう」」

 と、言葉が重なった。

 そして部屋の中に沈黙が流れる。

「祐麒…」

「…何?」

「…買い物、行ってみる?」

「…へ?」

 ふと思いついたような祐巳の声に俺は目が点になる。

「…いや、こんなことしてても仕方ないし…外へでもいったん出てみようかと思って。

 お父さんもお母さんも祐麒が女の子だと思ってるってことは、ほかの人もきっと祐麒のことを女の子だと思ってるよ」

「…人事だと思って…」

「いや、そうじゃなくてさ、ちょっと気晴らししたほうがいいんじゃないかって思って」

「…」

 時々、この愛らしい姉が、すごく頼りになる瞳をするときがある。

 今もそうだ。

「そうか…」

 TELLLLLL....

 それもそうだ、そう思って俺が返事を仕掛けると、電話が鳴った。

「あ、私でる。

 ハイ、福沢でございます…あ、ハイ、えと…古泉、さん?

 あ、祐麒ですか?

 少々お待ちください…祐麒、電話」

「誰から?」

「古泉さんって、女の人。

 知ってる?」

「いや?

 …ハイ、もしもし、変わりました、福沢祐麒です」

 そういって、俺は受話器を受け取る。

『あ、突然のお電話申し訳ありません。

 私、古泉いつきと申します。

 早速ですが…あの、最近あなたの身に、何か変わった出来事がおきませんでしたか?』

「へ?」

 俺は目がテンになった。

「え…ええ、少しだけ…」

『…どうやら、正解のようです。

 あっと失礼。

 …もしかすると、男性であったのが、女性になっているとか…』

「!

 ええ、そのとおりです!」

「祐麒?」

 俺が大きな声を出したので、祐巳が不思議そうな声を上げる。

『…わかりました、ではご面倒ですが、そうですね、これから30分後に三鷹の駅前に来ていただけませんでしょうか?

 お話したいことがあります』

「わかりました、30分後ですね?」

 そういって俺はメモに「三鷹駅30分後」と書く。

『それと…あなたの周りに、あなたが男性であったことを覚えてらっしゃる方は?』

「ええ、居ます。姉が」

『…では、出来ればお姉さまもご一緒に…30分後、お願いいたしますね』

 ガチャッ。

 電話の相手が切るのを待たず、俺は受話器を置く。

「祐巳、ちょっと一緒に来てくれ」

「ちょ、祐麒?」

 俺が祐巳の手を取り玄関から出ようとすると、どうしたの、と祐巳が不審な顔をする。

「さっきの電話。

 俺がこうなっちゃった事情をわかっている人からっぽいんだ」

「えっ?」

「で、30分後に三鷹駅、俺が男であったことを知っている人と一緒に着てほしい、らしい」

「…ふーん…まぁ、いいけど」

「助かる。

 じゃぁ…ちょっとまって、着替えるから」

 そういって俺は、普段着ているパーカーとジーンズに着替える。

「祐麒の服って、ユニセックス系のカジュアル、多いよね」

「そうかな?」

「もしかして、今みたいに女の子になっても大丈夫なように?」

「バカ言わないでくれ。

 趣味だよ、趣味」

 そんなバカな会話が心地いい。

「さぁ、行こうか、祐巳」

「うん!」

 そういって二人そろって三鷹駅に向かうことにした。

 

 三鷹駅に着いたのは約束の五分前。

「えっと…もう居るのかなぁ」

 日曜日の午前中、三鷹駅の改札前には結構な人がいた。

 でも、考えてみたら、相手の顔がわからない。

 そんなことに今になって気づく。

 ふと見れば、人を待っていそうなのは俺たちと、これまた二人連れの女性だけだ。

 一瞬その人たちかなとも思ったけど、彼女たちはじっと改札のほうを見ているかからおそらく違うと思う。

「あの…福沢祐麒さんですか?」

「あ、ハイ…えと、古泉、さんでしたっけ?」

 後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。

 振り返ると、女性ばかり四人組みがいた。

「ハイ、古泉です…えっと、こちらは…」

「あ、姉の福沢祐巳です。

 俺が男だって、知ってる…」

「…よろしく、古泉と申します。

 先ほどはぶしつけな電話を失礼しました」

 そういって彼女は頭を下げた。

「いえいえ…その、祐麒が女性になってしまったことで、何かご存知とか…」

「ええ…あ、こちらのご紹介を…。

 まず、こちらが、朝比奈みくるさん」

「どうも、はじめまして」

 ふわふわな感じのするやわらかな面持ちの女性が頭を下げる。

「それから、長門有希さん」

「…よろしく」

 無表情な女性が小さく頭を下げた。

「それから彼が…」

「よろしく、キョンとでも呼んでください」

 後ろに居た、この中でも一番目を引くポニーテールの女性が頭を下げた。

 三人に頭を下げながら、その瞬間、少し俺の頭で引っかかるものがあった。

「…あの、古泉さん、今、彼って…」

「あぁ、コレは失礼、いつものクセが出てしまいまして…ええ、実は彼と、それから私はあなたと同じ、もともとは男性のはずなんです」

「えぇ!?」

「…驚くのも無理はないでしょうけど、事実なので」

 キョン、と名乗った彼女がやれやれ、という顔でぼそりといった。

「あの、古泉くん…彼女たちも来ましたしそろそろ…」

「あ、そうですね…でも、もう一組…あぁ、きっとあの方でしょう」

 どうやら古泉さん、キョンさん、俺のほかに、女性になってしまった男性が居るようだ。

 そういって、俺たちと一緒に改札前で誰かを待っていた二人の女性を連れてきた。

「やはり彼女でした。

 えと、白鳥さんに蒼葉さんです」

「…どうもボクは白鳥隆士、彼女は蒼葉梢ちゃんです」

 そういって、二人は頭を下げた。

 古泉さんは俺たち二人を含めた6人の紹介をし、「では、とりあえずファーストフード店にでも入りましょう」と声をかけた。

 

 とりあえずこの界隈を知っている俺と祐巳が、駅前のファーストフード店・コッペリアに案内する。

 お昼前ということもあり、なんとか8人分の座席を確保し、俺がコーヒーを一口すすると、古泉さんが声を出す。

「さて…福沢さん、白鳥さん。

 あなた方をお呼びしたのはほかでもありません…あなた方、そしてわれわれ二人を襲ったこの変化はいったい何の要因なのか…。

 われわれ四人はその見当がついています。

 それをお話しするために、お二人の昨日の昨日の行動をお教え願えませんでしょうか。

 簡単で結構です、お願いします」

「…」

 そういわれ俺と白鳥さんが目を合わせる。

 俺が白鳥さんに「お願いします」と合図すると、彼女…いや、彼か…もそれがわかったようで「じゃぁ、ボクから」と声を出した。

 

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