俺の息子、転生勇者らしい

ゆる弥

第1話 息子誕生

 今日俺には初めて子供が産まれる。


 まだ男か女かは分かっていない。

 息子だろうって?

 何故わかる?


 俺はどちらでもいいから子供が産まれるのが待ち遠しいのだ。

 朝から陣痛が来ていて治療院の人達が家の中を右往左往している。


 この男、見た目は顔が彫りが深くて厳つく、肌は黒々とした筋肉隆々の姿。短髪で横と後ろは刈り上げられていて、現代で言えば軍人の様な様相をしている。獣人かといつも間違われるのだ。


 時々「ダン! お湯持ってきて!」と何故か怒られている。部屋の前を右往左往しているからだろうか。


 ダンってのは俺の事。二十五で父親になる。世間からみたら遅いらしい。まぁ、冒険者やってりゃこんなもんだろう。子供が出来て引退したが、まだまだ戦える。


 治療院に幼馴染がいるから俺の扱いはそんな感じだ。

 

 ソニアとは子供が産まれたら顔を見て名前をつけようって話している。

 あぁ、ソニアってのは同い歳の俺の妻だ。


 もうかれこれ二時間くらいこうしてウロウロしている気がするんだが……。


「ありゃ!? 泣かないねぇ! こりゃ大変だ!」


 治療院のお婆さんが慌ててる。

 なに!?

 何が大変なんだ!?


「待って! この子、息してるわ!」


「なぁんだってぇ!? じゃあ、ただ……」


「「泣かないだけ?」」


「私、初めてだわ!」


「あたしゃ、五十年やってるが、初めてだよぉ?」


 何がどうなってんだ?

 子供は産まれたのか? 大丈夫なのか?


 カチャカチャと音が聞こえて少し静かになる。


「ソニア! おめでとう! 元気? な男の子よ! ダンも、もう入っていいわよ!」


 そうお声がかかった。

 俺は待ちきれずにちょっと覗いていたのはご愛嬌として欲しい。


 中に入ると汗だくのソニアと少し肌がまだ赤い赤ん坊がいた。口をパクパクさせて何やら目を見開いている。


「おぉぉぉぉぉ。男の子かぁぁぁぁ。可愛いなぁぁぁぁ」


 頬をツンツンさせるとすごく柔らかくて今にも壊れそうな危うさを感じる。


(乱暴に扱ったら割れてしまう豆腐のように丁寧に扱わないとな)


「ソニア。大変だったな。お疲れ様。そして、俺とソニアの子を産んでくれて、本当に有難う」


「ふふふっ。うん。無事に産めてよかったわ。可愛い子ね。さっき泣かなかったのよ? ジルさんでも初めてだったんだって!」


「だから驚いていたのか!」


 話をよく聞くと産まれたての赤ちゃんは泣くのが仕事で、産まれた直後は誰でも泣くらしい。ただ、俺達の子は泣かなかった。


(それって……凄いことだな! 俺達の子は天才かもしれない! 名前は天才に相応しい名前にしなければな!)


「えぇ。名前は? 顔を見てどう思った? ちなみに私は……優秀な子になると思ったわ」


「俺だって、天才だと思ったさ。それでだ、この国の王子様はレオ様で、あのお方は天才だと言われている。名前に使うことも公に許可を出しているくらいだ。そこで、俺は考えた! 俺の名前の一部を使って、レオンはどうだろう?」


 これは名案だろう?

 これ以上の名前はないと思うぜ?


「それじゃあ、私の名前が入っていないじゃない?」


 はっ!?

 盲点だった!

 どうする? ソ、ニ、アだろ?


 俺の後ろのンをとったのと同じく後ろのアを取ったらどうだ?

 アオン? ウルフの鳴き声みたいだな。

 いや、レアン……これだな。


「そりゃ、もちろんソニアを仲間外れにはしないさ。考えてあるよ?」


 実はダンは嘘をつくのが苦手で、この時頭を抱えたりオロオロしたりと隠せてはいないのだ。それをソニアは楽しそうに笑っている。本人は気付いていないので、そういうテイで見ててやって欲しい。


「レアンってのはどうだ? 両方入ってるし、天才っぽいだろう?」


「ふふふっ。そうね! これで、この子は天才になるわね!」


 よかった。ソニアも喜んでくれたみたいだ。

 あぁー焦ったぜぇ。俺の事しか考えてないのがバレたらまたドヤされかねない。


 ソニアはスラリとしてツヤツヤの白い肌。身長は少し高くエルフにいつも間違えられる。が人族ひとぞくだ。


「それじゃ、ダンはあっちにいって! ソニアはゆっくり休むから!」


 俺にそんな指示を出して邪険に扱うのは治療院でソニアと一緒に働いているアンだ。

 アンは俺とソニアと幼馴染でよく遊んだもんだ。


 この勝気な性格も昔からである。


「ダンや、爺さんに産まれたことを伝えてきておくれ」


 ジルさんがそういうのには逆らえない。なにせ、俺のことも取り上げてくれた婆ちゃんだ。

 そんなジルさんが爺さんと呼ぶのはこの辺のまとめ役をしてるガージさんだ。


「わかった! ソニアを宜しく!」


 家を出ると少し離れたガージさんの家に向かう。そこに向かう途中は出店通りを通るんだが……。


「おい! ダン! 産まれたか!?」


「今朝から陣痛きたんでしょう?」


 パン屋の夫婦に声を掛けられた。


「無事に産まれた。男の子だ」


 それを伝えると急に涙目になり、出店のカウンターに突っ伏した。


「あの……ダンが……子供をううぅっ」


 そんな反応する?

 どんだけ問題児だったんだよ俺は。


「あー。俺、ガージさんに報告に行くから、じゃあな」


 その店の後も色んな店から聞かれ、同じことを伝えて歩いた。


「あー疲れた。」


 コンコンッ


 扉をノックすると急に開いた。


「産まれたか!?」


「あっ、あぁ。男の子だ。無事に産まれた」


「そうか……ううぅぅっ。お前の子供を見れる日が来るとはのぉぉ」


 ガージさんが泣き崩れてしまった。

 嬉しいけど、みんながそんな反応だとなんか俺ってそんなに子供に興味無さそうだったかな?

 そんなことを思いながら帰路に着いたのであった。

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