第17話 娼館での身請け
城への雇い入れは、札付きにしている。
給金銅貨三枚で、皆、最初こそドン引きだが、理由を知れば納得してくれた。札がある限り城からは賃金支払いしなくてすむ。タダ働きなので、城としては大助かりだ。
「給料なしだってのに、みんな良く働くぜ」
そんな風に呟くものの、レヴィンは皆の札を外すべく画策している。そして札が取れたら一気に正規の給金を支払うつもりでいるようだった。現物支給した分は引かれるが、給金はきちんと払ってもらえる。
賃金額はしっかり執事のベビットが管理していた。
札付きの者たちは、貯金しているようなものだ。
「ああ、でも、だって、食事の心配も、住む場所も、心配しなくて良いの、最高ですよぉ」
リデルを含め皆、食事ができることだけで大感謝だった。
何しろ、セラルドの料理は絶品だ! 最近は、食材の仕入れも良くなってきているから、節約料理の他にも、色々出してくれている。
札付きの間は、給金など払うだけ無駄。必要ならレヴィンが代行で払う。魔道具を売ることで、かなり資金には余裕がでてきた。それに少なくとも秋には収穫があり、税収を得られる。
「お前の、復元は良い魔法だな。ボロ着が立派に甦るのは最高だぜ」
レヴィンは何気に着道楽っぽい。
ボロ着からの復活で、気に入れば身につけて悦に入っている。
実際、皆に評判の良いのも、衣装の貸し出しだった。
元々はボロ着というかゴミ寸前のものを二束三文で購入したのだが、リデルの魔法で新品に復元されている。返却されたら、また真っ新にするから他の者が着られる。色を変更したり、形や大きさの変更も何気に可能だった。
そうやって、どんどん札付きを雇えば、調停屋とネルタック男爵たち企んでいる者たちの収入源を絶てるかもしれない。
城の仕事は、実質給金なしだから、当面、食材だけ頑張ればいい。半年もすれば収穫。税率は低いが、豊作になれば税収は増える。収穫量があがるよう、リデルは最大限、領地の農地の世話をし続けていた。
「娼館に行きたい?」
あ、あ、そんな大きな声で……。
拾った札付きの使用人に対して訊き返したレヴィンの言葉に、リデルはハラハラして挙動不審だ。
公言するには、爆弾発言では?
最近拾ったばかりの札付きで、ジョウジャイという名の使用人だ。
「娼館か。金は渡すと溶けちまうからなぁ……。回数券、買うか?」
だが、レヴィンは咎めるつもりはなく、逆になんとかして娼館を利用できるように工夫することを考えている。
「いえ、そうではなく。俺の彼女も札付きにされて、しかもファヌのほうは娼館に売られてて……」
レヴィンが色々思案していると、使用人ジョウジャイは事情を語りだした。
え? 札付きが娼館に売られてる……って、札の徴収はどうなるの?
娼館で働く者は現金は手にできないはずだ。だが年季明けのために娼館側が積み立てしてくれている。だから、レヴィンがタダで雇うのと同じ事態になるはずだ。なのに、それを知って札付きを娼館に売ったということは、娼館から、謝礼名目で授受される金銭があるに違いない。
「なんだか、それは娼館もグルだろうなぁ。不正の匂いがぷんぷんしてるぜ」
タダ働きを延々続けて、しかも札から徴収されないから永遠に借金を背負ったまま。年季が明けて積み立て金を得たら、その瞬間にほぼ金は消える。その後は稼ぎを徴収され続ける人生に移行だ。
食事や住むところがある分、娼館にいたほうがマシに違いない。
「じゃあ、身請けしちまおうぜ? 札付きなんだったら、城で、お前と一緒にタダ働きさせろ」
身請けするのは大金だが、資金的には大丈夫だろう。それに、身請けに使った分は、この話を持ってきたジョウジャイの働きから天引きで返金することになった。
ハインドの街の娼館前へと、リデルはレヴィンと使用人を連れて転移する。
「リデルは、外で見張っててくれ。お前の姿は、できるだけ視えないようにな?」
「畏まりましたぁ!」
何を見張るのか良くわからないが、中に連れて行きたくないのだろう。
レヴィンに呼ばれればわかる。それにレヴィンのお抱え魔女だから、必要があれば自動的に領主権限でリデルを転移で呼び寄せできるはず。
心配するまでもなく、特に問題もなかったらしい。そう長くは待たされないうちに、ファヌというらしき女性連れでレヴィンとジョウジャイが戻ってきた。
美人だが、疲れ切った表情だ。
「急いで城に戻りましょう。ちょっと魔法が必要かもですねぇ」
リデルは慌てて声を掛けた。
レヴィンは頷き、至急戻ろうぜ、と言うので即座に四人まとめて城内へと転移する。
「どうして魔法が必要なんだ?」
城に戻ると、
ジョウジャイと、ぐったりしている買い取った恋人ファヌは長椅子に座らせてある。
「……これは、例の……霊薬、飲まされてますねぇ」
使用人たちから少し離れたところで、リデルは言いにくそうに囁く。
狂気の森で栽培した霊草から生成された霊薬を娼館で接客する娼婦たちに飲ませているようだ。たぶん、媚薬に近いような成分に調整されている。
「それはヤバそうだな。それで元気がない感じなんだな? 霊薬の影響……取り除けるのか?」
レヴィンは心配そうに訊いてくる。霊が、幽霊を連想させるのだろう。レヴィンからは、とても嫌そうな気配が漂っていた。
「ハインドの街で商売するのに、寂れたテシエンの森は打ってつけだったでしょうねぇぇ」
霊薬の影響を抜く方法を考えながら、時間稼ぎのようにリデルは呟いた。
「方法が思いつけないんだな? よし、分かった! 霊薬の影響を一気に浄化しろ!」
なんだか、レヴィンはリデルの心のなかをお見通しらしく、キッパリと命じてきた。命令されればリデルの魔法は完璧に作用すると、さすがにもう分かっている。
「ひゃぁぁぁぁ! 畏まりましたぁぁ!」
バレバレだったぁぁ~。
リデルは冷や汗な感覚のまま、魔法の杖たる箒を反射的に振り回す。リデルのなかから、なんらかの魔法が混じり合って良い感じの優しい光となり、ファヌへと降り注がれ続けた。
「あっ、ああ、なんて綺麗!」
ぐったりしていたファヌは、光を浴び続けるうちに明るい響きの声をあげ、取り巻いている光を見回す。
「効いてきたようだな。顔色も良くなっているぞ!」
光に包まれたファヌを眺めながら、レヴィンは満足そうな表情だ。
「はいぃぃっ! なんの魔法が混じったか、全く分かりませんでしたが、霊薬がどんどん抜けてます! もう少し!」
光の発動が終われば、たぶん、それで霊薬の浄化完了だ。
何もかも、レヴィンに頼ることになりそうなのが、ちょっと気掛かりだが魔法は完璧になる。
レヴィンは、とても的確にリデルの魔法を使ってくれてるのだろう。
「おっ、光が止まったな」
「はい。浄化完了です! 後は、ちゃんと食べて、グッスリ眠れば大丈夫ですよぉぉ」
後は、ファヌを身請けすることができたジョウジャイが世話をするだろう。
部屋の手配などは、レヴィンが執事のベビットに依頼している。
ホッとしたら、急に凄まじく空腹になってた。レヴィンは、察しているらしく、リデルを食堂へと誘った。
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