第15話 レヴィンと幽霊
リデルには砕けた口調で喋っているレヴィンだが、他の者に応じるときは、なんとも領主らしき威厳もあるし、所作も気品があって美しい。
ああ、レヴィンさま、ステキ……。
遠目で
生まれついての貴族のようだ、と、リデルは感心している。
婚約してからのほうが恋心が止まらなくて苦しかった。手も繋げないし、抱きつくこともできない。
寝ぼけてうっかり抱きつきそうなのを、リデルは必死で制していた。
「武器、作ったほうがよくねぇか? 魔法の武器」
森で使った魔法は凄かったぞ、と、絶賛しながらレヴィンは提案する。
「あゎゎ、そういえば、武器や防具は造ってないですねぇ! まず、失敗させて、匡正の魔石で改良すれば、なにか造れるかもです」
戦える人材も必要かもしれない。領民を守る必要もでてきそうだ。
どちらにしろ、それなら武器も防具も必須だろう。
「色々造ろうぜ! お前の魔法は面白いよ」
かなり、気に入っているらしき気配でレヴィンは微笑む。
ひゃぁぁ、ダメです、その笑顔~!
リデルは眼鏡を掛けていて良かったと思う。もう婚約しているというのに、トキメキが止まらなくなっていた。
「森には、親玉がいますよぉ。あの騎士たちは、人じゃありませんでした。使い魔みたいなものです。たくさん量産してるみたいですぅ」
森の話になると、レヴィンも難しい表情だ。
「どんな奴か、魔法で調べられないか? まったく。勝手に、森に名前付けやがって」
狂気の森と呼んでいた。霊草を造るからだろう。レヴィンはプンプン怒っている。
「森のなかは魔法が届きにくいのですが、映してみます!」
レヴィンの命令ならいける!
「親玉らしき、こいつか?」
明らかに、森の手前で出くわした者たちとは気配が違う。ザコ感がないというか、体格がよくガッシリした感じだ。背も高い。レヴィンは何故か、その姿を視て首を傾げている。
「仮面をつけていて、顔はわからないですねぇ。司祭? 霊薬を造る司祭なんて、闇に堕ちてますよぉ」
衣装から察するに、神殿などの司祭だろう。森の奥には神殿らしき小さな建物と霊草の畑。呪いを好む霊草のために、呪いの弱い光を当てている。
闇に落ちた司祭から視線が向けられた気がして、リデルは慌てて映像を切った。
「気づかれましたかねぇ?」
リデルは心配声で呟くが、レヴィンは余り気にしていない。
「どうせ知ってるだろう。魔法を使うようだからな。…………霊草ってのは、幽霊の草なのか?」
レヴィンは、
ずっと幽霊を気にしている。苦手なのだろうか? 訊いてはいけないような、訊いたほうがいいような。
「草の幽霊……というわけではないですぅ。霊験ある草とでもいいますか。霊力があるといいますか。ただ、大抵は、悪用されますですよぉ」
「ふぅ。良かった。幽霊じゃないんだな?」
「レヴィンさま、幽霊が、お苦手で?」
リデルは、どさくさに紛れるように、小声で訊いた。
「小さい頃に、何かあったらしいが記憶が飛んでる。怖すぎたらしい」
ふぅ、と、小さく息をつき、レヴィンは観念したように呟く。
「はぁ。別に幽霊、悪いものばかりじゃないですよぉ?」
「そうなんだろうな。頭では分かるぞ?」
「精霊に近いのもいますしぃ?」
「違いが良くわからんが、精霊や妖精は平気だ」
「透明なのが苦手なんですかねぇ? あ、では、レヴィンさまには、幽霊除け掛けておきますね!」
レヴィンは幽霊が苦手らしいが、理由を忘れてしまっているらしいから、ちょっと厄介かもしれない。
リデルは、幽霊系の魔法――霊体になったり、霊体を操ったり――が使えるのだが、口にはしなかった。
便利なんだけど、レヴィンさまがお嫌いでは使えないですよぅ。
心のなかで呟いた。
「助かる。この幽霊嫌いというか、怖いせいで、何かと厄介ごとに巻き込まれて困ってはいるんだ」
娼館に売られそうになったのも、元はと言えば、と、ボソボソ呟いているので、ちょっと察した。
領主となったからには、厄介ごとは困るだろう。
それでも、幽霊対策されたと分かるようで、少しホッとした表情だ。
「敵方に、知られないようにしましょうぅ。幽霊を
「接点ないだろう?」
「何か送り込んでくるかもですぅ? シグに見回りさせますぅ」
幽霊自体が探りにくるかも、とは、さすがに言葉にできなかった。その可能性は、とても高いように思う。霊草や霊薬を好むなら、幽霊も使うだろう。
「魔法の武器、造ってみます! まず、失敗しないとですね!」
自信を込めてリデルが宣言すると、レヴィンは笑う。
「一気に、まともな武器ってわけにはいかないのか?」
念のため、という感じで訊いている。
「あ~えーと、レヴィン様が強く命じてくだされば、成功するかも?」
ふるふるっと首を横に振りながらリデルは応える。それでも、造る品が希望通りになるかは未知数だ。
「どの道、不確かなら、一度失敗して魔石で成功させるほうが確実だな」
納得したようにレヴィンは頷いて、何やら愉しそうだ。
それでは、と、リデルは魔法の武器を造ってみる。
コツンと音がして、枯れた花の飾られた歪んだ花瓶らしきが現れた。
「はぇぇ! これで、ちゃんと武器になるのぉぉ?」
リデルは渋々ながら失敗魔法の経験を稼ぐ。そして枯れた花入りの花瓶を手にし、匡正の魔石を使ってみた。
ぱあああっ、と、光が品を包み
「それが、魔法の武器なのか? 腕輪……豪華な宝飾品にしか見えねぇな」
とても、綺麗な腕輪だ。中央には美しい宝石が輝く繊細な金細工で、綺麗な宝石も
「腕輪をはめた腕を突き出して敵に向け攻撃を意識するだけで、攻撃魔法による焔の矢が大量に飛んで行きます!」
除霊の効果もあるが、それは黙っておこう、と、リデルは考えた。
「オレでも使えるのか?」
宝飾品としての魅力に惹かれたのか、魔法の効力に惹かれたのか、若干、微妙な気配をさせながらレヴィンは訊く。きっと、レヴィンに良く似合う。
「勿論です! レヴィンさまには、領主特権がありますから、領地侵害の相手には威力を増しますよぉぉ」
御守り効果も付いてます! 着けてみてくださいませぇ! と、リデルは声を上げながら、レヴィンの右手首に転移で腕輪をはめてみる。
「おっ、良い感じだ! 試してみたいが、城内はまずいよな?」
「あ、ぜひ、外。だだっ広い場所がいいですよぉ」
外まで歩くのが待ち切れなさそうな気配なので、リデルはふたりで転移する。
城の敷地の、空き地だ。
「じゃあ、試してみるか!」
レヴィンは腕を突き出し、何もない空間へと思い切り矢を放つ。焔の矢は驚くほど遠くまで飛び、城壁に激突したようだった。
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