第14話 初めての戦闘

 匡正の魔石が提供してくれる改良魔法で甦った、魔法付きの宝飾品や調度類が高値で売れていた。

 レヴィンとリデルはふたりで、隣街であるハインドにある魔道具店や高級そうな骨董屋へと持ち込んでいる。

 どの店でも鑑定士が入手経路を訊き出そうと必死な形相になるが、レヴィンは情報は漏らさず、ただ自らの身分は明かしての取り引きをしていた。

 

「当面、資金の心配はしなくて良さそうだな」

 

 何軒か店を回った後でレヴィンは安堵の吐息と共に呟いた。リデルの荷物空間に入れて持ってきている魔道具を小出しに売っているが、莫大な資金になっている。宝飾品や小振りの調度類は、どれも鑑定士が驚愕きょうがくする魔道具らしかった。

 

「改良魔法が失敗しらずで嬉しいです!」

「ああ、マジで凄いぞ。本当に有能な魔女だったんだなぁ」

 

 有能じゃなくても全然構わないんだけど、と、レヴィンはボソッと言葉を足した。

 

「はぅ? それは、レヴィンさまを護れないから、ダメですよぉ」

「まぁな。オレは、全く戦闘要素を持ってねぇし」

「は? わたしも、戦闘経験ないですよぉ?」

「ん? でも、戦闘用の魔法は持ってるんだろう?」

 

 レヴィンは信じて疑ってはいないようだ。

 リデルは小さく、多分、と、呟いた。

 

「それなら大丈夫」

 

 極上の笑みを向けながら、レヴィンは囁く。

 そうこうしているうちに、例の問題ある森へと近づいてきていた。

 リデルは、森から厄介な存在が出て来にくいように、魔法を張りめぐらせたいと考えている。レヴィンは、森に棲んで霊草を育てる者たちは追い出したいようだ。

 

 執事のベビットは説得の自信がないらしく、レヴィンが自ら行くことにしていた。

 ただ、今日、決行ではなかったはずでは?

 リデルは森に近づきながら、だいぶ及び腰になっている。

 

 匡正の魔石を使った改良魔法は、失敗しないけれど他は変わらないはず。もっともレヴィンの命令があれば、ちゃんと発動するとは思う。

 

「森……行くのでしょうかぁ?」

 

 緊張感に耐え切れずに、リデルは訊いた。

 

「ああ、外から見たいだけだ。中には入らねぇよ」

「……良かった。外からでしたら、わたしも、ちょっと魔法を仕掛けておきたいですぅ」

「何の魔法だ?」

 

 レヴィンは少し怪訝けげんそうに訊く。

 

「森に棲む者たちが、出てこれないようにですねぇ、魔法の障壁を……」

「それは良いな! ぜひ、やってくれ!」

 

 レヴィンからの命令になったので、魔法の障壁はちゃんと機能しそうな気がする。

 森の領地部分を守る前に、街を守らねば。

 

 

 

 しかし障壁の魔法を掛ける前に、森から街への侵入者を見てしまった。

 仮面をかぶり、奇妙に派手というか鮮やかな彩りの衣装を着ている。

 

「別に、税を払ってくれるなら森に住んでいても構わないぜ?」

 

 レヴィンは彼等に向かい、『領主権限』を伴う声を掛けた。しかし残念ながら税を払ってくれるような者たちではなさそう、というか人かどうか怪しい。

 

『狂気の森は、我ら、堕落の騎士のもの!』

 

 くぐもった声が響く。やはり、人間の声には余り似ていない。半分、頭のなかに直接響くような嫌な声だ。

 それに騎士というより、外見的には道化師だ。背後には、大量の似たような衣装をまとう者たちが控えている。

 魔法を使う存在らしく、問答無用で火の矢に似た形状のものが飛んできた。

 

「打ち落とせ!」

「はい!」

 

 リデルは反射的にレヴィンの声に従って魔法の杖たる箒を振るい、火の矢は一瞬にして消滅した。何の魔法を発動させたのか分からないままだ。

 

「ひゃぁぁぁぁ! わたし、闘うのぉ?」

 

 次々に飛んでくる火の矢は、全部、消しながらレヴィンに訊いた。

 

「お前以外、誰が闘うっていうんだ?」

 

 リデルもレヴィンも何気に悠長だ。

 

「あ、はぁ、いゃ、確かに、戦闘の練習はした覚えがあります! 実戦経験は皆無ですがぁ~!」

 

 多分、と、小さく呟き足すのが癖になりそうだ。

 

「要するに、魔法は持ってるんだろう?」

 

 余裕ありげにレヴィンは訊く。

 

「はいぃ! 色々取り揃えられてるはずですぅぅ!」

 

 覚えてませんが、と、小さく呟き足した。

 

「よし、じゃあ、最も効果的な魔法をかけろ」

 

 レヴィンの命令は、良い感じでリデルの魔法感覚を掻き分ける。

 

「畏まりました!」

 

 レヴィンの意思の赴くままに、リデルは魔法の杖である箒を振りまわす。思い切り大量の魔法が箒から放たれていった。

 ばふん、と、魔法の光が炸裂し敵の集団を包み込む。

 

 なんか、効いたかも?

 リデルは、少し希望を感じかけた。

 しかし、魔法が掛かったはずが、道化師めいた集団はピンピンしている。ただ、クルッと皆方向を変え、別の敵集団へと向かって行った。

 

「同士討ちか! 凄いじゃないか!」

 

 レヴィンの絶賛する声に、安堵するより冷や汗だ。そんな魔法を持っていたとは……吃驚びっくりだ。

 だが、レヴィンが命じてくれれば、記憶になくても、魔法名や呪文を思い出せなくても……魔法が使える!

 

 もう、全部レヴィンに任せるほうがいいのかも?

 

「今のうちに、森の外側に障壁掛けます。そしたら、逃げましょう!」

 

 魔法が効いた道化師たちは、仲間たちに襲いかかり、どんどんと森の奥へと押して行く。

 同士討ちで刻が稼げている間に、リデルは障壁を森の手前側に仕掛けた。あらかじめレヴィンが命じてくれていたので、簡単に、しかも良い感じで魔法は効いたようだ。

 

「よし。逃げようぜ!」

「畏まりましたぁ~!」

 

 リデルは、ふたりの身体を魔法で包み、レヴィンの城へと転移で戻った。

 

 

 

「狂気の森、とか言ってましたねぇ」

 

 リデルは気味の悪い声を反芻はんすうするようにして呟く。

 城に入ると、かなり安堵感があった。呪いもあるが、城自体が魔法に包まれ堅固だ。レヴィンの領主権限により成り立っている感覚らしい。

 

「オレの森だぞ? そんな名前はダメだ」

 

 レヴィンは、ぷんぷん怒っている。

 たぶん、霊草の影響で、皆、狂気におかされているのだろう。そして、仮面の道化師たちは人間ではない。ただ人間ではないと言うと、レヴィンは幽霊だと考えそうなので、そこは伏せた。多分、死んで腐り行くものたちを使役している。

 

「騎士ってことは、親玉がいるんですよねぇ?」

 

 人間ではない者たちを、誰が操っているのだろうか。

 

「全く騎士っぽくはなかったが。魔法攻撃は厄介だな」

 

 レヴィンは思案気に呟く。

 

「あの騎士たちくらいなら、仕掛けた障壁から出てこれませんっ。ですが、親玉さんは、たぶん、出て来ること可能ですよぉ」

 

 少しだけ、刻は稼げる。そういう状況なのだろう。

 なにか、闘うための準備? が、必要かな? と、リデルは不明瞭に思案していた。

 

 

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