異世界転々生(いせかいてんてんせい) 〜砂漠の中で賽を振り、桶屋が儲かる? 物語〜

ほぺ(なろうにも掲載中)

①プロローグ 〜桶の間に挟まる男〜

 真っ暗。真っ暗だ。


 俺の名前は今川義雄いまがわよしお。高校2年の17歳。

 

 学校の帰りに細い坂道を歩いていたら、酒作り用の大っきな桶が2つ転がって来た。

 避ける間もなく挟まれたかと思えば、真っ暗闇の中で横たわっていた。

 

 これが死後の世界なら、随分と味気ない。

 まぁでも、桶の狭間で亡くなるなんて、今川さん冥利に尽きますよ。


 な~んて、あはははは。


 ……

 …………

 ………………ふざっけんなっ!!!


 なんだよ!桶って!

 なんでだよ!桶って!

 

 何が楽しくて、桶なんかで死ななきゃならないんだよっ!!

 悔しさに歯を食いしばり、拳を振り上げる。


 ”ガンッ……ガコンッ!!”


 手が当たって、何かが動く音がした。光が差し込み、俺の手が見える。


「え………っ」


 恐る恐る”ふた”をずらすと、灰色の曇り空が見えた。身体を起こして周囲を見渡す。辺り一面は真っ白な砂。俺はどうやら棺桶に入っていたらしい。


 ざくり、ざくりと砂漠をさまよう。不思議と暑さはなかった。

 ……一体ここは何処なんだ。周囲には砂以外、何もない。このまま歩き続けたら、結局またお陀仏だろう。


 焦り始めたそのとき――――


「ようこそ、ヨシオ様」


 背後から声がして振り返ると、金髪の女性が立っていた。


うおっ……!?


 心の中で驚く。モデルかと思うほど美人だ。しかも、身に着けているものは服と言うには余りにも布地が少なく、そして、何故か湯桶を小脇に抱えていた。


 何というか、正常な思春期男子からすれば、刺激の強い光景であることは間違いなかった。


「ヨシオ様。聞こえておりますか?」

「あっ! は、はいっ……!」

「良かった。貴方を待って居ました」


 ……待ってた? こんな美人が俺を? 新手の詐欺か?


「貴方は桶の狭間で死にました」

「えっ! じゃ、じゃあやっぱりっ!!」

「しーっ。慌てないで」


 女性が人差し指を口に当てて、近づいて来た。


「貴方は確かに亡くなりました。でも、冥界へと連れて行かれる前に、私の『異世界召喚いせかいしょうかん※』のスキルで、貴方の魂を呼び寄せました」


 冥界? 異世界召喚? スキル?

 

 ……ゲームとか漫画で聞いたような言葉だ。この人の恰好といい、ほ、本当にこれ、現実なのか!?

 ま、まだ寝てるんじゃ無いだろうな。


 目を丸くする俺を見て、女性がクスリと笑った。


「私の名前はケオ。万物を司る女神※です」

「は、はい……。助けてくれて、ありがとうございます」

「良いのです、ヨシオ様」


 ケオと名乗る女神が微笑んだ。万物の女神とかいう大層な名前だったので、正直ビビッていた。

 だが、どうやら優しそうな人で良かった。


「そ、それで……前の世界に、えっと、日本に戻りたいんですけど……?」


 恐る恐る、ケオに尋ねる。あわよくば彼女の力で生き返らせてもらおうとも考えていた。

 

「ええ、可能です」

「ほ、本当ですかっ!?」

「しかし、そのためには条件があります」

「じょ……、条件っ!?」


 喜びも束の間、"条件"という言葉に冷や汗が流れる。


 な、何だろうか、万物の女神がわざわざ俺なんかを召喚した訳だし、どんな無理難題を突き付けられるのか、気が気で無かった。


「はい。桶を売るのです。その数100万個」


 ケオが湯桶をこちらへと向けて、言った。


 ……えーと。桶ね、桶。100万個。

 ……おけ? オケ!? oke? OK!!


「って、全然OKじゃねぇよ!!」

「ヒ、ヒャッ!?」


 ケオが大声に驚いたが、こちらはそれどころでは無かった。


 なんだよ!桶って!

 なんでだよ!桶って!


「ど、どういうことですかっ!?」

「かっ、簡単です。貴方の魂を呼び寄せるのに、私の力の大半を使いました。それを回復させるために桶を売る必要があるのです。桶を売ったお金イコール私の力。オーケー?」

「え、えぇえ………」


 胡散臭いのは格好だけではなかったようだ。


「売るって言ったって、こんな砂漠のど真ん中で、誰に売るんです?」

「問題ありません。この、異世界いせかいサイコロの力を使えば、ここから更に別の異世界へと転生することが可能なのです」

「そのサイコロを使って日本に戻れば……」

「アッ……。い、イヤ〜! 残念デスネ〜! サイコロで出る目の種類はほぼ無限。狙った目を出すには私の力が必要デシテぇ……」

「………」


 ……このまま彼女の、いや、この女を信じても良いのだろうか。



 ただ、こうしていきなり砂漠のど真ん中に連れて来られたのは紛れもない事実だ。


 というか、他に選択肢が無い。

 彼女の言う通りにしないと、永遠にこの砂漠に居続けることになる。


「……解りました。手伝いますよ」


 しぶしぶ頭を縦に振った。


「流石です! ヨシオ様! それでは早速」


 ケオが小躍りしながらサイコロを取り出した。

 形はいわゆる”6面ダイス”と同じだが、面に書かれた文字が次々と別のものへと変わっていた。


 ……なるほど、それで”無限”と言うわけだ。


 ケオがサイコロをポイと投げると、宙をくるくると回って、地面へポトンと落ちた。


 次の瞬間、出目を確認するまでもなく、俺とケオの身体が光に包まれた。

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