第12話

(桐江 茜の部屋)





ナオト「...さっきは、ごめんなさい。」




アカネ「気にしないでいいのよ。」




アカネ「...そんなことより、もう7時半ね。先に食堂に行っていようかしら。」




ナオト「そう、ですね。」








(2F廊下)





ナオト「...今、何考えてるんですか。」




アカネ「え?」




ナオト「...」




アカネ「そうね。まぁ、是本さんが亡くなったアナウンスが流れたときは本当に絶望したわ。...でも、自殺と知って、正直もっと絶望した。」




ナオト「大事な人を、自殺で失ったんですか...?」




アカネ「そんなところよ。」




ナオト「...」




アカネ「それ以上のことは聞かないで。」




ナオト「はい。」




アカネ「賢明ね。」









(食堂前)






ナオト「誰もいないですね。」




アカネ「そうね。」




ナオト「...食べたいものとか決まってます?」




アカネ「食欲なんて湧くと思ってるの?」




ナオト「ですよね......」




アカネ「...ごめんなさい。きつく当たりすぎたわね。」




ナオト「いや、気にしてないですよ。」




アカネ「顔に出てるわよ。」




ナオト「...」







アカネ「あなたこそ、何か食べなくていいの?」




ナオト「いや、俺は別に...」




アカネ「明日は我が身よ。私があなたをうまく騙してタブレットを覗いて、密告するかもしれないわ。」




ナオト「桐江さんは、そんなことしませんよ。」




アカネ「...そうね、ごめんなさい。」




ナオト「?」




アカネ「なんでもないわ。冗談を言って和ませようとしただけよ。気にしないで。」




ナオト「はは...笑えないですって...」






アカネ「お茶でも入れようかしら。」




ナオト「ラベンダーのハーブティー?でお願いします。」




アカネ「分かったわ。」








......





実のところ、一番辛いのは桐江さんなのかもしれない。




最初に結託した仲もすぐに砕けて、


飯伏を密告すると決めても失敗に終わって、


是本さんを味方に連れ戻そうとしても目前で壊れてしまった。




きっともう、桐江さんの心は...




俺は、桐江さんのために何ができるのか、


これまでずっと考えてきた。




それでも、何一つ浮かばない自分の頭に、嫌気がさした。










アカネ「これは私のよ。普通のストレートティー。あなたのもすぐに持ってくるわ。」




ナオト「あ、はい。」








......










アカネ「はい、お待たせ。」





桐江さんが、お茶をいれてきてくれた。





ナオト「ありがとうございます。」




アカネ「飲みやすいはずよ。」




ナオト「......熱くない...」




アカネ「あなた、猫舌だったものね。」




ナオト「...桐江さん。」




アカネ「うん?」




ナオト「......なんでもないです。」




アカネ「死ぬ前に、言っておくのよ。」




ナオト「死にませんよ。」




アカネ「......」









アカネ「...生きて、ここから出たいかしら。」




ナオト「そんなの、当たり前じゃないですか。俺はあいつの分まで生きなきゃいけないんですよ。桐江さんと一緒に、ここから出ますよ。」




アカネ「ええ、そうね。」





ナオト「...俺、桐江さんに助けてもらってばっかで、桐江さんのために何かできた試しがなくて...。ごめんなさい、俺、そんな事ばかり考えて...。」




アカネ「...バカね。」




ナオト「え?」




アカネ「覚えてないのかしら。私は、あなたを信頼してるのよ。」




ナオト「...それは分かってます。でも、そういうことじゃないんです。なんというかこう、心の支え的な...上手く言えないですけど...」




アカネ「そんなこと気にしてるの?...まったく、東雲くんのくせに生意気ね。」




ナオト「ちょっと物言いきつくないですか...?」




アカネ「...ふふ、ごめんなさい。そんな心配をしてたのね。」




ナオト「...悪いですか。」




アカネ「ううん、悪いなんてことはないわ。ただ、私は、あなたとこうして話しているだけで、いくらでも気が楽になるのよ。」




ナオト「......」




アカネ「...そうね。8時までまだ少し時間があるわ。もし話題がないのなら、私の話を聞いてくれないかしら。」




ナオト「いくらでも聞きたいです。」





......





廊下から会話が聞こえる。





マリ「もー、杏珠ちゃんの乾かし方が雑なせいで髪の毛ぼさぼさだよ〜......」




アンズ「うぅ〜、わざとじゃないもん...」




マリ「いいよ、寝たらどうせ癖つくから...」




アンズ「そしたら髪とかしてあげるね!」




マリ「自分でやるから大丈夫!」








アカネ「...お子さまたちが来たみたいね。私の話は、また今度にするわ。」




ナオト「はは、そうですね。」














早坂さんと白雪さんが、近くに座った。




俺たちは、きっと最後の、束の間の休息を楽しんだ。















アンズ「うぁー、お腹いっぱいだぁ〜」




アカネ「あなた...よくまぁそんなに入るわね。」




アンズ「...明日死ぬのは、私かもしれませんからね。」




アカネ「そうね。」




マリ「杏珠ちゃん...そんなところだけ肝座ってるの笑えないよ......。」




アンズ「私だって怖いよ。」




マリ「うん、そう...だね。」








アカネ「...みんな食べ終わったのなら、戻りましょうか。」




ナオト「そうですね。」




マリ「じゃあ私たちは、先に行きますね!」




アンズ「眠くなるまでロビーでゆっくりしてまーす!」




アカネ「ええ、ご自由に。」







2人はロビーの方に歩いていった。










アカネ「...さて。私達も部屋へ行きましょう。」




ナオト「桐江さんの?」




アカネ「ええ、私の部屋がいいわね。」




ナオト「...?」




アカネ「なんとなく、よ。」








ロビーの方から、2人の会話が聞こえた。




気にせず、桐江さんの部屋へと向かった。









(桐江 茜の部屋)





アカネ「...さて、と。」




ナオト「はい。考えないといけませんね。」




アカネ「ええ、そうね。」




ナオト「もし全員のカード合計が15を超えている、すなわち密告が絶対だとすると、今まだ密告していないのは、俺と猪狩さん以外の4人ですね。」




アカネ「ええ。あなたと猪狩さんは、言ってしまえば、黙っていれば生き残れるわ。」




ナオト「問題は、そこじゃないです。」




アカネ「分かってるわ。」




アカネ「さっき言った2人が生き残ると仮定したとき、残りの4人のうち、誰か1人しか生き残れないことになるわね。きっとこれから、その奪い合いになるはずよ。」




ナオト「俺は......。」




アカネ「言っても、いいわよ。」




ナオト「俺は、桐江さんと生き残りたいです。」




アカネ「...そう言うと思ったわ。何か案があるとでも言うの?」




ナオト「忘れたんですか?どうして俺が密告を済ませることができたのか。」




アカネ「......あなた、自分が何を言っているか分かってる?」




ナオト「...はい、分かってますよ。でも、それでも俺は、桐江さんと」




アカネ「そのせいで早坂さんや白雪さんが死んでいく姿を、私は見たくないわ。」




ナオト「......」









<ジョーカーの能力が発動されました。>









アカネ「きっと、白雪さんね。」




ナオト「桐江さん...」




アカネ「あのね、東雲くん。」




ナオト「......」




アカネ「まだ、決まった訳ではないわ。」














<飯伏 蘭丸が、猪狩 紬希を密告しました。>















俺は、部屋のドアへ手をかけようと急いだ。





アカネ「...行かないで。」




ナオト「...え......?」






桐江さんが、俺を呼び止めた。





アカネ「いいわ、そのまま、私に背を向けていなさい。」




ナオト「どういう......」







桐江さんが、











後ろから、抱きしめてきた。









ナオト「桐江...さん...?」




アカネ「もう、いいじゃない...。」




ナオト「......」




アカネ「あなた、いつか言ってたわね。」




ナオト「え、何を...」




アカネ「...いいわ、少しこっちに来なさい。」









桐江さんが、ベッドに手を引いた。








アカネ「私の支えになりたいって。」




ナオト「言いましたね...。」




アカネ「いい?東雲くん、よく聞いて。」




アカネ「......まずは、あなたが。」




ナオト「僕が...?」




アカネ「あなたは、私のことよほど心配してるみたいだけど。私は、そんなあなたが心配なのよ。もう、私だけに気を遣うのはやめなさい。」




ナオト「......それは...。」




アカネ「何か言いたいことがあるなら、生きているうちに言っておきなさい。」




ナオト「...桐江さんは、こんなところで死ぬべき人じゃないですよ...。どうしても、これから先も、幸せになってほしいんです。」




アカネ「.......」




ナオト「...」




アカネ「...ねぇ。」




アカネ「今日は、一緒に寝てくれないかしら。話したいことがあるの。」




ナオト「...いいですよ。」










俺たちは、ベッドに横になった。





ナオト「......」




アカネ「緊張してるの?」




ナオト「まぁ...少し。」




アカネ「大丈夫よ、取って食べたりしないわ。」




ナオト「...はい。」






アカネ「...私の故郷は、とんだ僻地へきちだったわ。」




アカネ「町の唯一の学校も、小中合わせて7人しかいなくて、一番近い高校に行くのにも、バスで2時間近くかける必要があったの。」




アカネ「...少し自慢だけど、私は、周囲のみんなが認める優等生だった。担任は私に、町を出て寮に入って、都会の進学校に通うことを勧めたわ。」




アカネ「正直に言うと、故郷を離れるのは、少しだけ辛かったわ。...でも、泣かないと決めていた。私には目標があったの。」




アカネ「いつか、苦労して私を育ててくれた両親に楽をさせてあげるために、必死に勉強して、立派に働いて、たくさんお金を稼ぐんだ、...って。」




アカネ「私は都会の進学校でもトップクラスの成績を取り続けたわ。ある程度の免除は入った。でも、それでも出る学費と、その他の生活費を親に頼らざるを得なくなって、...私は焦りを感じ始めたの。」




アカネ「...そんな時、両親からひとつの留守電が入っていたの。たまには帰ってきなさいって。」




アカネ「私は嬉しくて、既に入れていた1週間分のシフトを取りやめて、急いで故郷に帰るための電車に乗ったわ。」





アカネ「でも、そこで私を待ち受けていたのは、残酷な現実だった。笑顔で待っていたはずの両親は、首を吊って死んでいたのよ。」




ナオト「それで、是本さんに...」




アカネ「ええ。」





アカネ「...両親が首を吊っている近くに、1枚のメモがあったわ。」




アカネ「私を遺して逝くことへの謝罪。実は多額の借金をしていたこと。」




アカネ「...そして、生命保険の連絡先。」




アカネ「あなたはまだ知らないかもしれないけど、大人の世界には、人の死と引き換えにお金が手に入る仕組みがあるのよ。」




ナオト「...まさか......」




アカネ「...ええ。」





アカネ「......ごめんなさい、こんな暗い話。」




ナオト「信頼してくれてるんですよね。」




アカネ「そうね。」





アカネ「東雲くん。」




ナオト「なんですか。」




アカネ「抱きしめて、くれるかしら。」





俺は、何も言わず桐江さんを抱きしめた。





アカネ「...ありがとう、嬉しいわ。」




ナオト「絶対に、一緒に生き残りますよ。」




アカネ「ええ。」




ナオト「幸せになって欲しいって言葉、嘘じゃないですから。」




アカネ「...照れくさいわね。もう、今日は寝ましょう。」




ナオト「はい、また明日。」

































気がついたら、目が覚めていた。




朝の5時だ。





泥のように寝入ってしまった。




隣には、まだ桐江さんが眠っている。










眠い目を擦り、部屋を見渡す。




机の上に、何か光るものが見えた。
















......桐江さんの、タブレットだ......。































【所持手札: 7,8,J】




【“NG行動”により死亡】




【NG行動 : 生存者が残り5人になり3時間経過後、「東雲 直斗」が生存している。】


















[生存者、4名。]

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