第4話
ナオト「なっ...四!!お前なんで...!」
俺は、頭の中の霧が薄れ始めて、とっさに四の胸ぐらを掴んだ。
マサミチ「どうしてだい、神木くん...。全員が助かるかもしれなかったのに、なぜ君は、自分自身に投票を......。」
え...自分自身...?
いや、いや......その通りだ...。
投票の流れから考えれば、四が左隣の早坂さんに投票せずに、自分自身に投票した、ということくらい、誰でもわかった。
しかし...四がそれをする理由が、俺には分からなかった......。
ノエル「ということで、最多票は、神木 四くんでしたー!それでは、死んでいただきましょう!」
俺はもう、何も考えることができなくなった。
なんで四が...自分自身に......。意味が、いくら考えても分からない.....。
アズマ「...なぁ、直斗。」
ナオト「なんだよ...」
アズマ「俺には、これからやらなければいけないことが2つある。」
ナオト「......」
ほかの全員も、黙って彼の話を聞くしかなかった。
アズマ「まずひとつ。俺は、お前たちに、いや、お前に、だな。この投票の意味を話さなけりゃいけない。」
俺が黙っていても、お構いなしに四は続けた。
まるで、まるで......
『自分はもう長くない』とでも言うように。
アズマ「俺はさ、自分がバカだってことくらい分かってんだ。これからずっと、こんなバカげたゲームが続いてみろ。きっと俺には耐えられないし、ついていけない。遅かれ早かれ死ぬんだ。」
アズマ「だから俺は、みんなが生きるために...」
アズマ「いいや違うな。こいつが生きるために。俺はバカだ、大馬鹿者だ。自分に投票なんてしちまうぐらいだからよ。でもな。いつかどうせ死ぬことは分かってんだ。俺が生き残れることがないのは、何となくわかってんだ。」
アズマ「俺は、お前に賭けてんだよ、信じてんだよ。直斗。お前が、お前が!」
四は、泣いていた。だが、絶望の涙ではないことは、彼の真剣な表情から、すぐにでも分かってしまった。
四は、大きく息を吸った。
アズマ「お前が、そこのノエルってやつを、1発ぶん殴ってやるところをな!」
彼は、涙を流しながら、笑顔で親指を立てた。
ナオト「...でもよ...俺は結局、お前がいないと...」
アズマ「バカ言ってんじゃねぇ!お前は、1人でも生き残れる!1人でも度胸がある!それに、不安になったら、こんなにいい仲間が、いっぱいいるじゃねぇかよ!」
アズマ「なぁ、直斗。」
......そうだな...。
ナオト「ああ.....そうだよ、そうだ...お前の言う通りだよ、四。俺は、1人でも大丈夫、なんだよな...。」
アズマ「だからよ、お前。泣くのやめろよ。死ぬ時くらい、笑って見送って欲しいもんだぜ?」
四に言われて、初めて自分の頬に、涙を感じた。
泣いていることすら、気づかなかった。
アズマ「......な?わかったら、もう笑ってくれ。せめて今だけは、頼むぜ?」
肩を組まれた。
これが、これが最後になる...。
いや、そうじゃない。俺は...。
ナオト「俺は、前を向くよ。絶対に、生きて帰る。」
俺は、これで、いいんだ。
アズマ「おう!それでこそ、我が親友ってもんよ!」
ナオト「あぁ...ああ...!俺は...!お前の分まで、お前が羨ましがるくらい、生きてやるよ!」
アズマ「なぁ、こいつ、ほんとに良い奴だろ!お前ら!」
みんなが、何か言っていたような気がするが、俺は、四の声しか耳に入ってこなかった。
アズマ「んじゃ、直斗。ちょっと見ててくれ。」
ノエル「あのー、お涙頂戴のところ悪いんだけどさぁ、もういいかな〜。」
アズマ「あぁ、すまんな、もうひとつ、やらなければならないことが残ってんだ。それが終わったら、さっさと殺してくれよ。」
ノエル「まぁ、ひとつくらいならいいけど〜、早く終わしてよね〜?こっちはメインゲームにしたいんだからさぁ!」
アズマ「そう急かすなって。今、済ませてやるよ!」
その瞬間、四の拳が振りあがった。
アズマ「うぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!」
ドゴォォッッ!!!!
ノエル「ぐぅあぁあっ...!!」
そして、その拳は、ノエルの顔面を打ち抜いた。
アズマ「なぁ、痛いかノエル。」
ノエル「な...お前...!」
アズマ「痛いかと聞いているんだ!!!!」
ノエル「痛かった...痛い...痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!!!!!!!!!」
アズマ「そうだろ、痛いだろ。今のパンチにはな。直斗の苦しみと、俺の命の輝きを、めいっぱい詰め込んでやったんだ。重くて、当然だ。」
ナオト「四...お前...」
アズマ「なぁに、心配すんなって!死ぬより怖ぇことなんて、ねぇからよ!」
アズマ「それに、俺は、本当なら、もう2,3発は叩き込んでやりたいんだ。だがな。」
アズマ「それは、お前に託したぞ。」
アズマ「なにも、今じゃなくていい。生き残って生き残って、生き抜いた先で。あいつに1発、でかいのをお見舞してやれ!」
アズマ「俺とお前の、最後の約束だ。」
ナオト「...あぁ、任せてくれ...!」
俺と四は、互いの手を握りあった。
ノエル「もう、いい?早く殺したいんだけど...!」
アズマ「あぁ、もう、いいぞ。」
ノエル「...あっそ。じゃあ一応説明するけど。君たちに付けたその首輪。さっきのNG行動をしちゃったり、さっきみたいに死ぬのが決まったりすると、首輪の内側から頸動脈まで届く針が首に突き刺さって、そこから即死級の猛毒が......」
アズマ「あぁ、もうわかった。なんでもいいから、やってくれよ。」
四は、落ち着いていた。
俺たちはまだ、手を握りあっていた。
ノエル「ちっ...わかったよ。」
その瞬間、四の首輪から音がした。
ピー、ピー、ピー、ピー、ピー、ピー......
アズマ「......ぐっ...!」
ナオト「四っ!!」
アズマ「心配すんな。毒針が刺さっただけだ。それによ、苦しさよりも、幸せなんだよ。お前に最期をみとられて。」
ナオト「四....俺...」
俺はまた、泣きそうになったのを必死で堪えた。
アズマ「あぁ、すまんな。そのまま堪えてくれ。そんで、もう1回笑ってくれよ。」
ナオト「....ああ。」
俺は、笑って見せた。ぎこちない笑みだったと思う。
ナオト「俺。絶対生き残るから。」
笑顔で言った。
アズマ「あぁ。頼んだぜ。」
四も、笑っていた。
ナオト「任せろ...!」
アズマ「俺は、幸せもんだ......」
四の手が、急に重くなった。
まだ、暖かかった。
だが、それも、次第に、確実に...失われていった。
ノエル「あーあ、せいせいした!みんなもこうなりたくなかったら、オイラに手を出すのはやめといてね!」
今の俺には、何かを言うような気力は、とっくのとうになかった。
ノエル「なんかもう今日はめんどくさくなっちゃった!キミたち!明日の8時半には、メシを済ませてまたここに集合すること!じゃあ案内人!後は頼んだ!」
そう言うと、ノエルは階段を上って行ってしまった。
案内人「皆様、最初のゲーム、お疲れ様でした。お疲れのことと思いますので、女性は2階、男性は3階に個室をご用意しております。ネームプレートを参考にしてください。ご希望ならば、1階に大浴場がございます。よろしければ、ご利用くださいませ。また、同じく1階に食堂がございます。明日から3食、ご利用いただけます。」
案内人「ところで、そちらの神木さまのタブレット端末をご覧下さい。このように、持ち主が死亡したタブレット端末は即座に暗転し、ひとつの表示が浮かび上がります。」
俺は、言われるがままに、目の前の神木のタブレットに視線を落とした。
【NG行動:死の運命を迎える。】
案内人「その表示は、タブレットの持ち主のNG行動でございます。持ち主が死亡したタブレット端末には、自動的にNG行動が映し出されます。」
案内人「...それと、神木さまのご遺体はこちらで火葬しますので、回収致します。」
言い終わると、案内人は、四を抱えて部屋を出ていった。
俺は、石化が解けたように、泣き崩れてしまった。
夢じゃなかった。現実だった。
何もかも、ありえないことが起こって、
昨日まで楽しく喋っていた四も、もう二度と会えない。
絶望だった。死の間際に立たされた四でさえ、その目は希望に満ちていたのに、生かされた俺は...
四に言われたことを忘れたわけではないが、一瞬にして親友を失った悲しみに、耐えられるはずがなかった。
アカネ「...東雲くん、よく頑張ったわね。」
マサミチ「彼は、本当に勇敢な人だね...。僕なんかよりもよっぽど、向いているよ。」
レイナ「もし、あなたが彼に1票を入れたことを悔やんでいるのなら、その必要はありませんわ。わたくしたちも、他人に投票した身。それに、彼が自分に投票しなかったら今頃、わたくしたち全員が死んでいた可能性だってありますのよ。」
アンズ「そ...そうですよ、東雲さん!今、私たちは生きてます!それで、十分じゃないですか?」
他のみんなも、ほとんどが涙を流していた。
いきなり、車田さんが、俺を強く抱き締めてきた。
キョウスケ「なぁナオトっち...!ほんとにいい友人に恵まれたんだな...!俺、あのパンチ見て感動しちまったよ...。なぁ。」
キョウスケ「ナオトっち。あいつは、お前のそんな姿は望んでないはずだ!もちろん、今は泣いていい。当たり前だ、あんだけ辛いことがあったんだからな。でもよ、明日からは、切り替えていこうや!明日から俺たちは、アズマっちの望みを引き継がなきゃならねぇ。だからな、今日は、よく休め。そんで、明日からは、俺たちに任しとけ!いやでも元気づけてやるからよっ!」
車田さんに、背中を叩かれた。
そうだ、俺は。
俺は絶対に、ここから生きて帰らなきゃいけない。
あいつも、それを1番望んでいるはずだ。
俺は、全員との会話もほどほどに、階段を上り、自分の部屋へ向かった。
ベッドがひとつ、作業用のテーブルがひとつと、椅子が2つ。
俺は、すぐにベッドに横になった。
いやに寝心地のいいベッドに、気味の悪さを感じたが...
よほど疲れたのだろう。死ぬように寝入ってしまった。
[生存者、9名。]
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