異世界転生ブラック戦場
谷春 蓮
退・職
「ユウトさん・・・摩王軍の襲撃です」
その言葉とともに俺は、目を覚ました。
「またか・・・まだ1時間しか寝てないぞ」
「お前らでやっといてくれよ倒せるだろ」
「無理に決まってます!、魔王軍の幹部が全員でそろってるんですよ!俺僕たちだけじゃ幹部1人も倒せません!世界最強の傭兵って言われてるでしょ!、ユウトさん。行きますよ!」
そう中卒1年目だった俺は2年前、給料未払い、サービス残業、上司のミスは部下のせいにするブラック企業で働いていた俺は突如としてこの世界に呼び出された。
今思えば中卒で会社員を募集なんておかしいと思ったのだが・・・
この世界の人は呼び出された俺に対して英雄だとか勇者だとかちやほやし、いい気分になっていたがその先に待っていたのは、激戦区に行かされ魔王軍との毎日のように続く戦いだった。
魔王軍は幹部を筆頭に、攻撃を仕掛けてくる
世界最強の傭兵として国に雇われてる以上給料は出るが、金があっても時間がないので使えず、職場環境は前よりもひどい。
ここ最近は4時間以上寝たこともない。
以前あまりにも疲れがたまってぶっ倒れたことがあったが精神回復魔法と身体回復魔法を掛けられすぐ戦場に戻された。
「だぁぁぁ!!!!毎回毎回来やがってぶっ殺してやる!!」
今回の戦いも魔王の幹部を倒すことができず逃げられ、消耗するばかりだった。
「やっと少し休める・・・」
こんなブラックな職場で働いてる俺だが、新たに人が召喚されたと知り、そいつがここに来ればもう少しで楽になると信じ、毎日働いていた。
そんな休んでた俺の耳に傭兵仲間からの会話が入ってくる。
「新しく召喚された勇者様はいつこっちに来てくれるのかねぇ」
そうだ!その通り!前に召喚された勇者様がこんな状態だから来ない方が幸せだと思うが・・・何しろボロボロなので早く来てほしいと心から願う。
「あぁそのことを王都に住んでる知り合いに聞いたんだが王は勇者様を前線に送る気はないらしい。」
は?
「前線にはもう勇者様がいるだろ?だから戦力は足りてるとの判断だそうだ。」
「じゃあその勇者様はどこ行くんだよ?」
「王都で最終防衛ラインを守るらしい。つまり俺たちが負けない限り、雇われているので給料は出るが働いていないお飾り勇者ってことさ」
この瞬間、辞めよう・・・と俺は決意した。
おかしいだろ俺は転生した翌日から前線に送られ3年間休みなしで戦ったんだぞ?
金はたまるが時間がないので実質無意味。
俺は自分の強さはきちんと自覚しているつもりだ。
転生した影響かわからないが、高い魔法抵抗力・魔力の量・身体能力などといったことがとびぬけてるのは自分自身でも分かっているし、魔王が直接戦いに来たが激戦の末なんとか追っ払うことに成功している。
そんな人間この世界にいないのは分かっているしだからこそ前線に配属されるのは分かる。
しかし休みなしはあまりにもひど過ぎるだろう。
魔王軍幹部だって毎日襲撃にきているわけじゃない。
幹部が一人くらい来たとしても国の精鋭たちが集まれば撃退できるレベルだ。
だが防衛大臣は戦力が集中するのは危険だとして前線に兵をあまり送り込まない。
いくらなんでも集中してなさすぎるだろう。前線に国の精鋭たちは一人もいないぞ?
俺は軍に所属しているわけじゃないぞ?1個人が王に雇われているだけだ
なぜ休みがない?
そんな俺だが今までは変わりがいずに俺一人しかできない仕事だと思い、仕事を続けてきた。
ブラック企業にいた頃を思い出せ・・・人扱いされず「無能」だといわれてきたじゃないか・・・この職場は人扱いしてくれて頼られている・・・
だがこんな思いをしながら仕事をするのを今日で終わりだ。
次の勇者に託そう・・・俺の中で何かが切れた。
そう思い俺は辞表を部隊長のもとに届けに行った。
「だめだ」
やっぱりか・・・
隊長のくせして俺一人にいつもまかせっきりなお飾りがこういうときだけ責務を全うしやがる
「いや、やめます」
「ダメだと言っているだろう!ユウトがいなくなっただけで前線が崩壊する!」
「新しく来た勇者に来てもらえばいいじゃないですか」
「まだ経験不足だ!」
「俺はここの世界に来た翌日に戦場へ駆り出させました!」
俺のその一言が効いたのか隊長はうろたえると
「お前が別格過ぎたんだよユウト」
と、謎の言葉を投げかける
「知りません1か月後に辞めます、次の勇者の引きつぎはあなた方が行ってください」
「まてユウト!」
俺は隊長の言葉を無視して眠りについた、しかしいつものように4時間も眠れずすぐに起こされてしまった。
なんとか襲撃を乗りっ切った俺は傭兵仲間のケインに声をかける。
俺とケインはため口で話す中で、ケインは俺の休暇について隊長に直談判してくれたこともある、全部無駄に終わったわけだが・・・
「ケインお前明日休みだろ?頼みたいことがあるんだが」
そう他の傭兵には週2で休日があるのだ。
「いいけど・・・なんだ?女なら紹介できねぇぞ」
「今まで1度もそんなこと頼んでないだろ・・・まぁいい」
「金はやるから町から離れた、村が半径300m以内ぐらいにある、そこそこでかい庭付きの家が建てられるぐらい、むしろメインは庭だな、そのくらいの土地を買ってきてくれないか?」
「は?」
まぁそんな顔をするのも仕方ないだろう。
「とにかくこれを持って行ってくれれば俺名義で買えるから頼む、あとこれ銀行の口座番号と暗証番号、いくらでも使っていいから条件に合う土地を買ってきてくれ」
俺は勇者にしか与えられない身分証と、口座番号と暗証番号が書かれた紙をケインに渡した。
「いやいや、なんでだよ、理由を言ってくれよ!」
分かるさ急にこんなこと言われたら俺だって混乱する。
「俺、引退してスローライフ送ることにするから」
「はぁぁぁぁ!!!」
急にそんな大きい声を出すな、うるさいだろ
「大丈夫だ、魔力全部使って俺の分身おいていくから、分身だから少し弱くなるけど新しく勇者様が来てくれたら大丈夫だろ」
「それ、隊長には話したのか?」
「あぁもちろん話したさ、1か月後にやめますってな、ダメだって言われたけどそんなの知るか」
「はぁ・・・まったくお前は・・・まぁいい買ってきてやるよ」
あっさり了承してくれた。もっと嫌がるものだと思ったんだが・・・
「ありがとうな、頼むぞ」
ケインはやはり頼りになる。
そしていよいよ退職する日がやって来た。結局最後まで隊長は退職を認めてくれずほんとに退職する気がないと思っているようだがもういい、逃げ出そう。
戦場には俺の全魔力を使って召喚した分身がいる、恐らく1か月以上は持つだろう。
分身の戦闘力は本物の10分の9と少し弱くなってしまうし分身が切れるまでの1か月間俺は魔法を使えないが不便な生活も悪くない。
その間に次の勇者への引継ぎも済むだろう。
ケインも俺に合うぴったりな物件を探してくれた。
どうやら俺と同じことを考えた貴族がいるらしいが1か月足らずで売り払い、以降3年間買い手もつかずに家は誇りやクモの巣でひどく、庭、というか畑も雑草が伸び放題らしい、それが余計に俺をワクワクさせる。
「ありがとうございました!」
3年間働いた職場に軽く挨拶をすると、俺はその場を後にした。
「まずは掃除から始めなきゃだな!」
こうして俺のスローライフ生活が始まった。
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