第6話
「一週間ぶり〜」
「……っすね」
21時。美月が昴の家へ来た。手には近所のスーパーのレジ袋を提げている。袋から透けて見える限り、中身は酒類とつまみのようだ。宅飲み、というのが表向きの名目で、ふたりはこの後セックスをする。
「好感度また一からやり直しかな?とりあえず上がっていい?」
「ん、どぞ」
昴は緊張の余り美月の軽口に適当に反応を返すことしかできない。当たり前だ。前とほとんど同じ流れになることは想像できる。想像しただけで落ち着かない。昴はキッチンと食卓を無意味に行ったり来たりしていた。
意味不明な行動に察しがついたのだろう。美月はいたずらっぽく笑いながら昴の腕に手を回した。その表情から、小さく、しかし柔らかな膨らみを当てているのが故意であることは読み取れた。
「ちょっと松本さん……」
耳が赤くなっていることに感覚で気づいた昴は、美月を制止しようと声を出す。彼女はまた笑い更に膨らみを押しつけてきた。
「あれーどしたのかな?」
「……酒、飲みましょ」
そう告げると美月は昴の腕を解放し、ソファに座った。彼女の買ったつまみを机に並べ、冷蔵庫に入れていた胡瓜と竹輪のつまみを取り出し、それも並べた。見栄えはしないが、酒がすすむ一品である。実家でよく食べていたもので、二十歳になってからは酒と合うことを知った。通りで酒呑みの両親が好む訳だ。
「んまぁ。これいいね」
視線を上げると、美月が既に胡瓜と竹輪のつまみを頬張っているところだった。まだ乾杯すらしていない。学校での真面目で、しかし華やかなイメージとはかけ離れた彼女の行動に驚く。心を開いてくれたのだろうか。はたまたこいつになら雑な対応でもいいと思っているのか。後者のような気がしてならない。
意外と幼いところがあるのだな、と昴は笑った。
「美味いっすよね、それ」
とりあえず乾杯しようとビール缶を持ち上げ美月に近づけると、彼女も酒を手に取りビール缶に当てた。本日の彼女の酒は、林檎にジンジャーを効かせたリキュールだ。ピリッと香るジンジャーが林檎の甘酸っぱさを引き立て、一癖あるがハマる人はハマる、そんな酒である。昴も飲んだことがあるが、一時期はそれしか買わなくなるほどハマった。
「松本さん、その酒好きなんすか?」
「ん!最近のお気に入りなんだよねえ」
美月はアルコールに強い方ではなさそうだ。語尾の発音が普段より柔らかく聞こえる。まるで警戒心を感じられないその姿に、昴は心拍数が高まるのを感じた。目が合うと彼女は、へにゃりと笑った。顔がうっすらと赤く染っている。
机に酒を置いたのを見計らって昴は美月を膝の上に乗せた。一瞬驚いた顔でこちらを振り返ったが、すぐに身体をもたれかけて全てを委ねる。そのまま寝てしまいそうな顔をした彼女の頭を優しく撫でると、瞼をゆっくり開閉させた。髪の毛に触れていた手を耳に下ろし、耳の輪郭線を指でなぞる。そして指でなぞったのと同じように、舌でなぞる。先程の眠たそうな表情は、声を抑えられないことへの恥じらいに塗り変えられていた。
「きゅ、うに……んッ…ふっ…」
シースルーのシャツを脱がせ、凝ったデザインのキャミソールの上から腹を撫でた。指先をそっと滑らせ、偶に爪で優しく引っ掻くように。ピアノを弾く要領で、指の腹を使い臍とその周辺を押す。美月は必死に呼吸を整えようとしているが、不意に訪れる刺激に邪魔されていた。
膨らみギリギリまで指をキャミソールの中に入れる。ブラのパッドが内蔵されてるタイプのようで、ぐるりと一周平たいゴムが入っている。昴はゴムを持ち上げキャミソールと身体の間に隙間を作ると、人差し指で右の膨らみの下辺を優しく押した。
「あッ……はぁぁ…」
どうしたのかと耳元で囁くと身体が震えた。太腿を擦り合わせてもじもじしている美月の顔は紅潮し、流石に酒のせいだという言い訳では誤魔化せそうにない。昴はぴたりと密着した太腿の間に指を入れて足をこじ開ける。指先を内腿から付け根へと移動させ、そのままショーツの中をまさぐる。じっとりと湿った花園の入口を指で叩くと、彼女は昴の袖をぎゅっと掴みながら甲高い声をあげた。
「あぅッ……!」
指で入口を左右に広げると、愛液が絶えず溢れ出てくる。まるで昴に触れられることを歓迎しているようだ。入口と外側の小さな突起を重点的に弄ぶ。挿入しているときは勿論だが、昴は美月が乱れている姿を見るのも同じぐらい好きだ。どこを触られるのが好きなのか、感じるか、時間をかけて探った。
愛液を塗りつけた先端を指でしごくと我慢できないと言わんばかりに鳴く。奥まで入れた指で中を広げられることが好き。指の動きを速めると腰を振って喜ぶ。知らないことばかりの美月をいくらか知ることができた。
「あ、あッ…ん〜ッ!」
「またイった?」
かなりの時間、前戯に費やしていたようだ。時計を見ると針は零時を示している。長い間昴に触られ続け、全身が性感帯に成り果てた美月は耳を舐めるだけで絶頂した。腰がガクガクと揺れている。花園が熱く硬い肉棒を求めているのだろう。
美月を知り尽くしてしまいたい気持ちと、美月に入れたい気持ちを天秤にかけた。僅差で後者が選ばれたので、何度も絶頂を繰り返した彼女をベッドに寝そべさせる。疲れ果てているだろうに、彼女は自ら足を広げた。
花園の入口が待ちくたびれたと言わんばかりにヒクヒクと動いている。潤んだ瞳は昴の肉棒をまっすぐ見つめ、物欲しそうな視線を送っていた。
昴はコンドームを付けると、一気に挿入した。とろとろに溶けた花園は昴を簡単に飲み込んだ。途端に彼女は絶頂し、ぎゅっと昴を締めつける。しかし昴は動きを止めず、弾力ある肉壁にものを擦りつけた。じゅぽ、じゅぽ、と花園を掻き回す、いやらしい音を立てた。
「動かしちゃダメ……」
「だめじゃないだろ。これ好きでしょ」
「また、イぐ……ん〜ッ!」
昴が動く度に蜜はとめどなく溢れていた。昴は獣のように彼女の身体を食べ尽くす。狼に襲われた兎はひたすら快楽に溺れることしかできない。
「ん、ぅ……ッ…うぅ、あッ……」
美月が昴の身体に足を絡めたので、昴は奥に入れたまま動けなくなった。彼女の顔をちらりと覗くと、汗ばんだ肌は赤くなり、目を閉ざしている。まさに今、絶頂を迎えるようだ。花園の収縮は一段と激しく、絡めた足がなかったとしても肉棒を引き抜くことはできそうにない。
「イ、くッ……んんぁ……はぅッ」
「俺も……」
美月に精子を搾り取られた昴は花園から脱する。白濁液の詰まったコンドームはずっしりとしている。ゴムの口を縛るとベッドに横たわっている美月が上体を起こした。何やら珍しいものを見る目でコンドームを眺め、指でつついた。
「たぷたぷしてるねえ……」
「……っ、誰のせいだか」
目を逸らしつつ科白を吐くと美月は微笑みながら首を傾げる。まるで自分のせいではないですよ、と言わんばかりの表情だ。無自覚な少女にはお仕置が必要らしい。肩に噛みついて痕を残した。白い肌に落とされた一点の赤い印は、まるで薔薇のようだ。
「ん……前の消えたばっかりなのに〜」
口を尖らせながら彼女は困ったような声を出した。そして昴の腕にかぷりと噛みつき、痕をつけようと試みる。仕返しのつもりなのだろうか。昴からしてみればご褒美でしかないのだが。口を離し、噛んだ場所を確認しているが痕はどこにもない。こんな予定ではなかったという顔で昴に目を向ける。不満そうだ。
「コツがいるんすよ。湿らせた唇をこうやって肌に当てて……」
「んッ!?」
説明するふりをして今度は左胸に吸いつく。唇を離すと、緩やかな山の中腹に薔薇が咲いた。続けて山の麓、脇腹、腕と唇を移動させ薔薇を増やす。
「ほら、ついた」
「ひゃ……」
薔薇の大群を見て再度顔を赤らめた美月は、肌の熱を逃がそうと薄く小さな手を頬に当てている。思わず見とれていると彼女から睨まれた。しかし、とろけた目つきで睨まれても全く怖くない。可愛らしさが溢れている。
「これなら服で隠れるだろ?」
「……か、隠れればいいって訳じゃないし!」
「そうか。俺には嬉しそうに見えるけど」
「〜ッ!藍田くんのばか……」
耳まで赤くした美月は風呂場へ向かおうと立ち上がった。しかし、へたりと膝から崩れ落ちる。驚く昴の方を振り返り涙目で笑いながら言う。
「えへへ……腰、抜けちゃったあ……」
昴は美月を抱きかかえて脱衣場へ運ぶ。意外と太腿はむっちりしているのだな、と思いつつあまりの軽さに普段の食生活を心配した。友人に誘われて週に何度かジムに通っているから美月を軽く感じる、とは考えられないほどだ。よく思い出してみれば彼女が今日食べていたのは竹輪と胡瓜のつまみとサラミ数枚だけである。次会うときは稲荷寿司を口に詰め込もうと決めた。
美月を風呂の椅子に座らせた昴は髪の毛を濡らし、シャンプーを泡立てる。もこもこの泡に包まれた彼女は羊のようだ。昴は泡を手に取り、頭にふたつの泡の塊を乗せる。羊からシロクマに姿を変えた彼女は鏡越しに怪訝そうな視線を昴に送った。
「なにしてるの……」
「シロクマみづちゃん、可愛い〜」
「あほらしい……」
シロクマみづちゃんはべしゃりと耳を潰した。
「あ、シロクマが……」
「遊んでないで洗ってくださーい」
「風呂場に置いてくぞ」
「それは困る……」
昴はナチュラルに美月を名前で呼んだことに気づき、ひとり照れた。
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