第4話
一瞬の沈黙の後、美月は我に返ったように慌てふためく。
「あっ、えっと、違うの!え?違わないけど、あの」
「……俺も同じ気持ちですよ」
「え、え!」
美月が何か言っているようだが、昴は照れくさくなり、シャワーの水量を上げて自身の聴覚を遮る。今聞いたら、またしたくなる。
体の泡を落とし、湯船に浸かった。入れ違いで湯船から出ようとする美月の腰を掴み引き止めて同じ水温を共有する。昴の足の間に座る彼女は縮こまった姿勢で、見るからに緊張していることがうかがえる。
「松本さん、気持ち良さそうにしてましたもんね。そんなに良かった?またシたいぐらい?」
「……うるさい」
「俺もなんで、安心してくださいよ」
「うん……」
彼女の指に絡めると、弱い力で握り返された。このままふたりひとつになって、お湯に溶かされてしまいそうだ。
風呂から上がり床につく。幸いにも明日は休日だ。お互い初めてを重ね、体力は微塵も残っていない。美月はベッドで、昴はソファで気絶したように眠った。
翌朝、昴はキッチンからする優しい香りで目が覚めた。まだ重たい瞼を擦っていると、彼の服を着た小柄な美少女がこちらに目を向けて微笑む。
「起こしちゃったかな?ごめんね、勝手にご飯作ってる」
「おはようございます……すんません家主がこんな感じで。ご飯ありがとう……助かる……」
「ふふ、まだ眠たそうだね」
まだかかるから寝てていいよ、と美月に言われ、昴は言葉に甘えて毛布にもぐる。キッチンから聞こえてくる食器の重なる音が心地良い。カーテンの隙間から射し込む光の温もりを感じながら再び眠りについた。
「藍田くーん、ご飯できたよ……」
「ん……」
美月の声が耳元から聞こえる。一度大きく欠伸をして瞼を持ち上げると彼女がこちらの顔を覗き込んでいた。彼女は優しく微笑むと昴がくるまっている毛布を引っ張る。そのまま彼の身体から毛布を剥がし、畳み始めた。
「早く食べないと、冷めちゃうからね」
「母親かよ……」
行動から言動まで彼の母親そっくりで苦笑いしてしまう。美月にむっとした顔をされたので話を逸らした。
「ごめんごめん、母親とはセックスしないよな」
「……っ!!」
昨晩のことを反芻しているのだろう。顔を赤く染めてぷるぷると震えている様子に、昴は少し言い過ぎたかもと内省しつつ、それ以上に可愛くて仕方ないと思ってしまった。
皿が並ぶテーブルには小さめのおにぎりと味噌汁が並んでいる。
「大根とお豆腐、勝手に使っちゃったけど、大丈夫?」
「ありがたいっす、マジで。美味そ〜」
おにぎりの中身は昴の大好物、おかかマヨらしい。作り置きして冷蔵庫に入れていたものを使ったのだろう。優しい鰹節の香りが漂っている。
「いただきます!」
「どうぞ!」
まずは寝起きの喉を潤すため、味噌汁を口に運んだ。加熱されて柔らかくなった大根を咀嚼すると出汁の香りが広がった。味噌汁自体は薄口だが、具材の味をしっかり感じられて昴好みである。あまりの美味しさにかき込んでいると美月が笑い出した。
「そんな、かき込まなくたって、あはは」
大口を開けて笑う美月を見るのは初めてだったので、昴は手を止め珍しいものを見る目で眺めてしまった。その視線に気付いた彼女は笑うのをやめて昴の顔を不思議そうに覗き込む。
「あ、すんません。なんか珍しい顔だなって」
「んー確かに」
「……触れない方が、よかったっすか」
地雷を踏んでしまったかも、と昴は不安になる。人には聞かれたくない理由や感情は誰しも持っているものだ。ただ一晩、隣で過ごしただけの男に心の中を土足で踏まれるなどたまったものではないだろう。
そんな気持ちとは裏腹に美月は明るい顔で答える。
「特に理由、ないんだよねえ。そんな面白いなって思えることがないというか」
「そうすかね?俺の友達とかおもんない?」
「笑いのツボが人とズレてるのかも……」
美月はそう言いながらおにぎりを口に含んだ。昴からすれば小さいが、彼女の口にそれは大きそうに見える。
(この口に、俺のが……)
昨晩を思い出し、昴は一人気持ちを鎮めるのに必死になりながら残りの味噌汁を飲み干した。続いておにぎりに手を伸ばし口に放り込む。
「うっま!」
可愛い美月が作ったから、とか友人への優越感などの感情を抜きにしても信じられないほど美味しいものだった。先程の味噌汁もそうだったが、彼女はかなりの料理上手のようだ。数日間数時間程度では到底身につかないであろう技術力である。シンプルな料理こそ、作り手の腕が大切だ。
(頭も良くて、料理出来るとか……尊敬)
美月の方を見ると、返事をしたいのだろう。リスのように小さな口を必死に動かして咀嚼している。
「よかった〜お味噌汁を作るときのお出汁をちょっと混ぜたんだよ」
「なるほど」
なんとなく、いつも食べているものより味に深みが増した気がしたのはそのためだったのか。一人ふたつ用意されていたおにぎりのひとつを既に食べ終えてしまうほどには気に入った。ふたつめを口に運びながら、美月の皿にまだ残っているおにぎりに目を向けてしまう。その視線に気付いた彼女はまた笑いながら昴の皿におにぎりを乗せた。
「え、!すんません、いいんですか?」
「いいよ〜そんなに気に入って貰えると作る方は嬉しいよ!」
「お礼、というかお詫びに皿は洗うんで!マジで美味しいです。」
また食べたい、と言いかけたところで口を閉じた。ほぼ強制的に部屋に呼んでしまったのがきっかけなのに、少し失礼ではないかと思ったからだ。
(セックスだって、その場の雰囲気に飲まれて同意させたかもしれないし)
「食べたくなったらまた作るよ?遠慮しなくていいのに〜!」
「えっ」
「……それとも、私を食べたいの?」
彼女はやや挑発的な笑みを浮かべてこちらを見ている。初めて見る表情にどぎまぎしつつ、率直な考えを述べた。
「それは、どっちも……食べたいっす」
少なくとも昴は美月と身体的な相性はかなり良いと感じていたし、彼女の言い方を聞くに''また''は彼女の中でアリだと考えているようだ。風呂場での言葉は嘘ではないとも分かった。折角のチャンスを逃す訳にはいかない。
「っ……そういうことは、素直に言えるんだね」
「まぁ……そうっすね」
美月は自分からその話題を振ったとは思えないほど、赤面しながらもじもじしている。先程までの勢いはどこへ行ってしまったのだろう。しかしその姿も可愛らしい。
「そういえば、身体は大丈夫っすか?」
「……ちょっと腰痛いかな。激しくされちゃったからね」
「それは本当にすんません!」
「別に……気持ちよかった、し」
「良がってましたもんね」
昨晩の美月を反芻していると、本人も自身の行動を思い出したのだろう。茹でダコのように赤くなり、突然席を立った。
「……洗面所借りる!お皿洗っといてね」
「はーい」
本人には届かない場所を執拗に攻められ、気持ちよさのあまり潮まで吹くというのは、彼女にしてみればかなり恥ずかしいことだろう。人の気持ちには微妙に疎い昴でも流石に分かる。ただ、松本美月という美少女は昴の加虐心を煽るのだ。そのためつい彼女が恥ずかしがることを言いたくなってしまう。
食事は済んでいたので昴は二人分の食器をまとめキッチンの流しに持っていく。泡立てたスポンジで皿を洗っていると、後ろの戸が開き美月が出てきた。身支度を済ませた彼女は昨日昴と出会った時の服を着ている。以前からなんとなくの関わりはあったが、そのとき抱いていたイメージとは違う彼女。
「そろそろお暇しようかな、と」
「そうっすね。ありがとうございました、ご飯とか他のことも」
「いえいえ〜あんなに喜んでもらえるとは思わなくてびっくりしたよ」
「美味かったっす、マジで!……また、来て欲しいので、LINE交換しませんか?」
連絡先を聞くとき、ほぼ確実に交換してもらえるとは思っていたが緊張していた。元はと言えば昴の勢いで始めてしまった、人には言えないような繋がり。承諾はされても、快諾はされないだろう。そう、思っていた。
「もちろん、これからよろしくね」
彼女は微笑みながらスマホの画面を差し出した。慌てて昴もロックを解除してLINEを開く。QRコードを読み込もうとしたとき、美月の手に少し触れてしまった。
「あ、ごめん」
「……うん」
美月はこちらを見て少し驚いた顔をした後、目線を斜め下に向けてた。そんなに触れたことに驚いたのだろうか。故意ではなく事故であったが、気を付けようと心に留めた。
QRコードを読み込んだスマホには、彼女の名前が画面に表示される。アイコンは美月が猫と戯れている後ろ姿だ。本人もなんとなく猫っぽいし、人当たりの良さを端的に表したような写真だなと昴は思った。
「みづ……」
「友達からそう呼ばれてるし、変?」
「いや、そういう訳ではない」
普段、苗字にさん付けで呼び合う仲なので不思議な感覚がしたのだ。
「それじゃ、また明日学校で……」
「……うん」
帰り際。美月が名残惜しそうな顔で昴の顔をのぞき込む。その姿はまるで小動物みたいだ。あまりの愛おしさに頭を撫でながら彼女に告げる。
「どうしました?またいつでもヤれるじゃないですか。連絡先も交換したし」
「……今」
「え?」
「今、したいの……!」
そう言うと美月は昴の右手をつかみ、自身の鼠径部に擦り付け始めた。腰を前後に振りながら昴の指が彼女の好きなところに当たるように動く。服の上からなので濡れているかは分からないが興奮した彼女の表情から何となく察しがつく。乱れた呼吸と、へこへこと情けなく腰を振る姿は昴を煽っているように見えた。
「……腰痛いんじゃないんですか」
「う、うるさいっ……」
美月の手を振り解こうとしたが、かなり強く握られていて簡単に外せそうになかった。華奢な体躯のどこにそんな力が秘められているのだろう。
「いいから離せ!」
「うぁッ!」
昴はそれを逆手にとって掴まれた方の指で美月の秘部に強い刺激を与えた。一瞬美月の力が緩んだ隙に下着諸共ボトムスを脱がせる。
「糸引いてんじゃん。昨日ヤッたのに足りなかったか?」
昴は中に指入れず、溢れた蜜を美月の秘部周囲に塗りたくる。ぬちゃぬちゃと恥ずかしい音をわざと立てると狭い玄関に反響した。秘部周辺の肉を集め指でぐ、と摘むと彼女の呻く声が聞こえた。
「違うの、思い出しちゃって、またシたくて」
「それで帰る直前に人の指でオナニーし始めたんだ?」
「ん……」
何一つ間違っていない昴の指摘を受けて美月は俯いた。多分、勢いで起こした行動なのだろう。後先を全く考えているようには見えない行動を、彼女が取るとは思わなかったが。
「後ろ向いて」
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