第22話 完成した聖水

 私は完成した聖水をシュナさんと一緒に運びます。

 とりあえず私が一度服用しました。

 効果は覿面です。それは実証済みでした。


「良かったです。私が聖水を多分に服用した副作用を受けていて」


 私は自分に対して感謝しました。

 そのおかげでこの青紫色のもたらした病魔にすら適応できる。


 しかしながらシュナさんは少し表情を歪めます。

 何やら悲しそうな瞳を浮かべます。


「アクアス様、私やブレイズ様はずっとアクアス様の味方でございます」

「ありがとうございます」


 私は感謝しました。

 そしてその足で向かったのは、龍舞村。

 今は夜では有りましたが、それでも向かいます。何故なら、早く治してあげたいからです。


「期限はギリギリですね」

「青紫色の花のもたらす病魔。どれほどまでに手強いのでしょうか?」

「それは分かりませんが、私達のやっていたことは無駄ではありませんよ。これだけは断言できます。後は、私達の結果を信じるしか有りません」


 怜那さんはきっと今も苦しんでいるはずです。

 あの痣が汗により生まれるもの。

 つまりは塩分によって毒素が生まれる。ならば、毒素を取り除く、もちろん体内の塩分を奪うのではなく、この病魔の発端となった毒素にだけ作用する効果。そんな聖水へと改良したのです。


「とは言え飲み薬なのでしょうか? それとも撒き薬でしょうか?」

「おそらく飲み薬です。私の作る薬はどれもこれも飲み薬ですから」


 私とシュナさんは森の中を駆けます。

 それから怜那さんの家へと向かい、コンコンと扉を叩きました。


「すみません、怜那さんは居られますか?」

「アクアス様! は、はい。怜那!」


 家に向かうと、そこには怜那さんのお母様が居ました。

 如何やら突然の来訪に焦りと喜びが同時に湧き上がりました。


 私はシュナさんと一緒に家の中へと赴きます。

 そこに居たのは青紫色の痣が左半身を侵蝕している怜那さんの姿でした。


「ほら、怜那。アクアス様が来てくださりましたよ」

「ア、アクアス様?」


 怜那さんはゆっくり起きあがろうとしました。

 しかしながら、私は無理に起きあがろうとするのを制止させます。


「駄目ですよ、怜那さん。起きあがらないでください」

「は、はい」


 私は怜那さんの顔色を窺いました。

 やはり元気はありません。かなり病魔に侵されてしまっているようで、私は急いで対策を取ります。いいえ、処置と言っても差し支えありませんでした。


「怜那さん、ようやく聖水が完成しました。コレを飲んでください」

「は、はい。ううっ!」


 怜那さんはかなり酷い状態でした。

 塩分を吸われ、脱水症状を起こしています。


 しかも聖水の蓋を開けた途端、怜那さんの青紫色の痣が反応しました。

 まるで嫌悪しているみたいで、激しく怜那さんの体を伝って拒絶反応を見せてきます。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 怜那さんは絶叫します。

 頭が壊れそうになる中、私とシュナさんは問答無用です。

 これは病魔が見せる幻聴。怜那さんの体を貪り尽くそうとしている証拠でした。


「シュナさん!」

「はい、アクアス様」


 シュナさんは私の命令で怜那さんを優しく起こします。

 目が苦しそうです。汗がドンドン出ます。

 私は聖水の入った瓶を近付け、優しくて薄い唇に沿わせました。


「飲めますか?」

「は、はい。うっ、あっ、ゴクゴクゴク」


 私はゆっくりと飲んでもらいました。

 飲む姿もやはり苦しそうで、相当体力と魔力を持っていかれているようです。


 私はその姿が見るに耐えませんでしたが、それでも頑張って飲んでくれる玲奈さんに感謝します。


「無理しないでくださいね」


 私はそう声を掛けます。

 しかし玲奈さんは私を信じ、聖水を飲みます。

 すると体にできた青紫色の痣が悲鳴を上げます。


 青紫色の痣がドンドン変色しました。

 それは抵抗です。病魔が玲奈さんの体を伝い、私の作った聖水を飲ませまいとします。


 しかしそれは同時に病魔に有効である証拠です。

 玲奈さんは「がっ! うわぁ!」と咳き込みと発狂を混ぜたように喉を震わせましたが、それでも聖水を飲み干しました。


「ふはぁふはぁふはぁふはぁ」


 玲奈さんは汗をダラダラと流します。

 かなり疲れているようで、もう言葉を交わす余裕もありません。


「よく頑張ってくださいましたね、玲奈さん」


 私は玲奈さんの頭をソッと撫でました。

 すると玲奈さんのお母様が心配しています。

 そんなの当然です。


「あ、あの、アクアス様! 娘は、玲奈は……」

「後は玲奈さんの体力の問題です。しばらくうなされるかもしれませんが、頑張ってもらうしかありません」

「そんな!」


 お母様は凄く不安そうです。

 しかし玲奈さんは私の服の袖を浮かんだまま離そうとはせず、信頼してくれているように感じました。


 だからこそ、私はたった一言だけ。


「頑張ってくださいね、玲奈さん」


 と声を掛けるのが精一杯でした。

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