第11話 袖振りの呪い

「村長さん、これは如何言うことですか!」

「アクアス様、これには深い理由が」

「理由? 人が苦しむ理由を伝統なので片付けられては困りますよ」


 私は先手を打ちます。

 人を苦しませる理由が伝統などと言うつまらないものなら、即刻排除する。

 それがもしも人を殺めているのなら尚更です。


「村長さん、この舞で亡くなった方も居たんじゃないですか?」

「……アクアス様」

「如何なんですか?」

「はい。実際に亡くなった巫女もおります」

「やっぱり……それなら何で!」


 すると村長さんは口を噤みます。

 如何やらこの反応、私が先手を打って封じたものと同じようです。


「伝統……と言えばアクアス様はお叱りになるのでしょうな。ですが、これは……」

「呪いですよね。既に、このお祭りは枠を超えて呪いになってしまっているんですよね?」

「はい」


 それから村長さんは話してくれました。

 このお祭りの意味、このお祭りが呪いになった理由です。




「昔からこの村では龍神様を祀っておりました。一年の豊作と村人の健康を伝えるため篝火を灯し、白い衣を纏い、この神社で若い巫女達が舞を披露する。最初はなんて事のない習わしでしたよ」


 しかしある時、そのお祭りができなくなってしまった。

 当然の豪雨。雷鳴。いつもお祭りの時期にだけ鳴り響き、村人達は龍神様の怒りだと感じた。


 それでも舞を披露すると豪雨も雷鳴もピタリと収まった。

 けれどある時、舞を披露する巫女が体調を崩しできなくなってしまった。

 だから時期をずらすことにした。すると一面に青い花が咲いていた。


「この村では見たこともない青紫色をした綺麗な花。村人達はこの花の美しさに惹かれ、手染めをするための染色に使おうと思ったんよ」


 青紫色をした花はこの村では珍しく、すぐに惹かれてしまった。

 それで取り尽くし、染色液にして様々な衣類に試した。


 それからだった。

 青紫色をした装束を纏い舞を披露する。

 すると今まで、豪雨や雷鳴がしていたがピタリと止み、朝のように晴れ渡った。


 村人達はこれこそが龍神様が求めていたもの。

 この青紫色をした花は龍神様が村人達に伝えたかったことの代弁。そうだと思い、いつしかその花で染めた装束を身に纏い舞を披露することが、習わしとなった……のじゃが、そこからおかしなことが起こった。


 舞を披露した巫女はその二十日後には亡なってしまう。

 しかもそれが立て続けに起こり、不審に思った村人達は青紫色の装束を止めた。するとまたしても豪雨と雷鳴が鳴り響き、天候は荒れてその年は不作になってしまった。


 そんなことが昔起き、それ以来ずっとこの習わしを続けている。

 お祭りはいつしか表面上のものとなり、真実は呪いとなってしまった。



「と言うことがあったのです」

「何ですか、その話。あまりにも偶然が重なっただけですよね」


 私は即刻抗議を入れます。

 しかし村長さんは顔を顰めます。


 周りに居る大人の皆さんもそうでした。

 この偶然を呪いだと、本気で思っているみたいです。


「魔病以外に呪いなんてありません。偶然を戒めて、呪いに変えてしまっているだけですよ!」

「それはみんな分かっていることです」

「では如何して……」


 私は考えました。

 こんな病魔で人が死んでしまうなんてこと、あって良いはずがありません。


「すぐにお祭りを中止にするべきです!」

「それはできませんのじゃ。皆、このお祭りを楽しみにしていますから」

「でしたら舞を止めて……」


 それが一番いいはずです。

 そう思った私でしたが、倒れた少女が微かに私の服の袖を掴みました。

 ギュッと握って離してくれません。


「分かりました。それでは私が調査します」

「アクアス様!?」


 私は立ち上がりました。

 もう誰にも文句は言わせません。

 私は私がやりたいことをする。ただそれだけなんです。

 

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