第5話 こうして結ばれました。
私は縁談を受けることにしました。
向こうもすんなりとことを進めてくれて、私はブレイズさんとお会いすることになりました。
「ブレイズ様。本日はこのような場を設けていただきありがとうございます」
「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。僕は貴女とこうしてまた会えただけで喜ばしい限りなんだから」
そこにいるブレイズさんは着飾っていました。
この間の歌詞のような風貌は残しつつも、より一層気品を感じられます。対して私は不格好。本当はこの場にいることすら烏滸がましいと思ってしまいました。
「あのブレイズ様」
「その様呼びは止めてくれるかな? 僕はブレイズであって、ここにいるのは公爵家の仮面を被った僕じゃないんだから」
ブレイズさんは公爵家の人間。すなわちこの国を動かす人間でした。
本人曰く、「自分は三男だから王位継承権は望み薄なんだよ」と言ってはくれますが、それでも目上であることは変わりありません。
「では、ブレイズさん。如何して私のような伯爵家の面汚しとの縁談を持ちかけてくださったのですか?」
いきなりの質問にブレイズさんはびっくりします。
しかしすぐさま表情を取り戻し、ゆっくり答える。
「面汚しじゃないよ。僕にとって、貴女以上に気品に溢れる女性を見たことがないんだ」
「それはブレイズさんの女性経験が少ないからでは?」
「ふふっ。そうとも言えるね。でも、こうしてまじまじと言ってくれる相手はそうはいない。それに、見ず知らずの僕の怪我を見て素早く治療する優しさ。そんな相手、権力争いに追われる貴族がその場しのぎのために得た技術では到底適わないことだと思うよ」
ブレイズさんは言葉が上手です。
しっかり選んで話しているように感じた私ですが、その目は本物です。
一体何故私と。一体何に私を。
頭の中がグルグルし始め混乱します。
「単刀直入に尋ねますが、ブレイズ様は私との結婚を」
「もちろん考えているよ。それにそのつまりだからね」
目の前に置かれたティーカップの中に注がれた紅茶を一口啜ります。
私は呆然としてしまう中、ブレイズ様はさらに続けます。
「もちろんすぐにとは言わないよ。断ってくれてもいい。だけどこの気持ちだけは本当なんだよ。改めて言わせてほしい。助けてくれてありがとう、貴女以上に気品に溢れた本物の貴族は居ないよ」
ブレイズさんは色んなところから棘や槍が飛んできそうでした。
しかし無頓着な私には単純に感謝として聴こえました。
「大変ありがたいお話ですが、やはり私では不釣り合いだと思います」
「確かに、側から見たらそうかもしれない。だけど僕は……」
「それに私は重大な欠陥を抱えているんですよ」
私はブレイズさんに自分の体のことを説明した。
私は生まれた時から、子供を孕れない体だと診断されています。
そのせいで、子孫繁栄とのちの後継者に対し躍起になっている貴族達から見れば、私など疎ましいだけでした。
ですから、公爵家に泥を塗る前に自ら退こうとしました。
しかしブレイズさんは私の手を取ります。
「そんなもの必要ないよ。どうせ僕には継承権はないからね」
「そうだとしても、他の兄弟の方々に……」
「そんなもの、世間が勝手に決めつけているだけだよ。僕はそんなもの、全て払い除けてきた。だからこうして騎士となり、この国のために尽くしているんだよ」
ブレイズさんは自分のことを少し話してくれました。
公爵家の三男として生まれ、ただ護られるだけでは駄目だと悟り、自らの意思で剣の道へと進んだ。そうして今ではこの国を守護する騎士団の一つ、第二騎士団の団長にまで上り詰めた。その功績も、一重に自分が他の兄弟達とは違うことを意味していた。
「僕は優秀でもなんでもない。それでも誰かを守りたいと言う気持ちは変わらない。だからこそ、僕は傷つくことを恐れない。そんな僕に、貴女は優しく手を差し伸べてくれた。それがとても嬉しかった。だからこそ、僕はこうして貴女の前に再び現れ、こうして礼を尽くしている」
ブレイズさんの演説は止まりません。
ストレートな気持ちをぶつけます。
「改めて言わせてもらいたい。僕と結婚を前提とした婚約を結んではいただけないでしょうか? 騎士として夫として、貴女の身を末長く護りたい所存でございます」
ブレイズさんは私に跪きました。
こんなおかしなことがあっていいのでしょうか? ここまでさせてしまっても、私は何も感じません。
だけど一つだけ分かることがありました。
この人は面白い。他の貴族とは何か違う。
それだけが私の心を突き動かしました。
「ブレイズさん、顔を上げてください」
私はブレイズさんの顔を見ました。
真剣そのものの目を眼下に浮かべ、私は正直な気持ちを伝えます。
それが愛の告白かどうかは分かりません。
ですが気持ちを受け取って貰えたことは確かなようで、私とブレイズさんは一年間交際を続け、そして形上での結婚を果たしたのでした。
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