第2話 助けて貰いました

「さてと、如何しましょうか?」


 私は街までやって来ました。

 フェルタ様のお屋敷からすぐの所ある街で、かなり賑わっています。

 実はこの街はフェルタ様が領主で、商業にかなり活気がありました。


 そのおかげもあって、私はこの街が好きです。

 だって聖水の材料や魔法薬に役立つものがたくさん売っているんです。私にとってはまさに巨大な市場だったのに、少しだけ寂しいです。


「でも仕方ありませんよね。お父様達が迎えを寄越してくれるのを待ちましょう」


 私はお父様が迎えを寄越してくれているので、しばらく街の中で待つことにしました。

 とは言え何故か私は人目を引いてしまいます。

 それもそのはずでした。一際大きなトランクを脇に抱えて、しかもボロボロの服で歩いているからです。


「そんなに変でしょうか?」


 私は首を捻ります。

 正直格好にはこれっぽっちも興味はなく、逆に皆さんの方が気になってしまいました。


「スカートが破れているだけなんですけど……はて?」


 気品などは微塵も無く、私には似合いません。

 人の目を引いても特に気にすることはなく、私は道の隅によりトランクの上に座って休もうとしました。

 すると当然私はナイフを持った男の人に絡まれてしまいました。


「おいそこの女。良い顔立ちしてるな。俺とお茶しねえか?」

「えーっと、しません。後、ナイフなんて持っているのは危ないと思いますよ?」


 私はきっぱり断ります。

 おまけにナイフを公衆の面前でチラつかせていることを注意します。

 ですが何か気に障ってしまったのでしょうか? 男の人はナイフを突き付けます。


「はぁ? てめぇ分かっているのか?」

「何かです?」

「チッ。あー、もううぜぇ。うぜぇ、うぜぇ。なんで分かんねぇのかね? てめぇの命は俺が握っているわけ、分かるだろ? なぁ、てめぇは俺に従っておけば良いんだよぉ!」


 ナイフを振り下ろされました。

 私は動くことができず、怯えることもせず、立ち尽くしてしまいました。


(あっ、私の人生はここまで……)


 そう思った瞬間、目の前に細い腕が伸びました。


「えっ?」


 細い腕は男の人のナイフを持った手を抑え込みます。

 そのまま私の前から距離を取らせ、振り返りざまに放り投げました。


「なにっ!?」


 男の人はナイフを手から離しました。

 それから地面に背中から叩き付けられてとっても痛そうに見えます。


「くっ、誰だ! 何しやがる!」

「何しやがるだって? ふぅ、そうだね放り投げさせてもらったよ。女性相手に暴力を振るうような相手をみすみす野放しにはできないからね」


 優しい口調の中にはしっかりとした芯がありました。私は呆然としていましたが、とりあえず助けてもらったことは変わりありません。


(だけど誰でしょうか?)


 私はこんな状況でも首を捻りました。

 私を助けてくれたのは、私と大差ない年頃の青年です。

 顔は見えませんが、赤茶けた髪色をしていて、細い腕にはしっかりと筋肉が付いています。ましてや格好も気を遣っていて、白を基調にし礼儀の正しさがまた取れます。まるで、騎士のようでした。


「あ、あの、貴方は?」


 私は尋ねます。しかし青年は私のことを見向きもしません。

 目の前の相手に集中し、一切目を逸らさないのです。

 目を逸らした隙が危険。それを教えてくれていて、手で合図をくれます。ハンドサインです。


(背中に隠れていてください?)


 私はそう読み解きました。

 これも本をたくさん読んできた成果でしょうか。


「は、はい」


 私はスッと背中に隠れました。

 すると青年は男の人に向かって言いました。


「さてと、それで如何するのかな?」

「正義のヒーロー気取りかよ。うぜぇ、うぜぇんだよ!」


 男の人はナイフを拾い上げました。

 それから青年に向かって振り上げるものの、青年は指を弾きました。


「ごめんね、少し眠っていてくれるかな?」


 小さな火種ができ、炎が生まれました。

 男の人の懐で爆発し、男の人の体が吹き飛びました。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 「本当にごめんね」と言い放ち、青年は男の人を吹き飛ばした。

 服がボロボロに破けると、男の人は気絶してしまった。


「ふぅ。魔法を使ってしまったけれど、これが一番怪我をさせないで済むからね」

「あ、あの……」

「大丈夫かな? 怪我とかしてない?」


 青年は振り返りました。

 赤茶けた青年の顔立ちは整っていて、所謂イケメンと言う分類に属していました。


 しかし私はそんな所には目も向けません。

 もっと気になっていたのは、指を鳴らした右手でした。赤い液体がポタポタと地面に垂れていて、あまりに痛々しく映るので、目を奪われてしまうのでした。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る