一度婚約破棄された「聖水」作りが得意な令嬢の結婚後
水定ゆう
聖水の価値
第1話 婚約破棄された日
「アクアス・シェイレン。今日限りでお前との婚約を解消させてもらうぞ!」
当然のこと、私は婚約していた伯爵貴族、フェルタ・メレオンズ様に婚約破棄されてしまいました。
「えっ、えっ!?」
当然私は驚いてしまいます。
一体なんで? 一体如何して? 何で私は婚約破棄されたのか、さっぱり分かりません。
しかしフェルタ様は怒っていました。
頬が真っ赤に染まり、膨らませています。
一体如何して? と、私は何度も思い首を捻りました。
「フェルタ様。婚約破棄なんて、そんな……」
「悪いがお前との婚約など元々考えてはいない。伯爵令嬢だから婚約したまでに過ぎない」
「そ、そんな……」
理不尽です。理不尽で仕方がありません。
私は胸の奥からムカムカが積み重なりますが、それでも相手からそう言われてしまった以上は従うしかありません。
「第一、聖水を作ることにしか興味のないで、子も身籠ることのできない女など、結婚したとしても何の役にもたたない」
私は痛い所を突かれてしまいました。
確かに私の性格も身体もフェルタ様の言う通りでした。何にも言い訳ができない私は黙ってしまいました。
「せ、聖水は便利ですよ?」
「ふん。1エルにもならないただの水だろう」
「そ、そんなことないですよ!」
私はついつい怒鳴ってしまいました。
しかしフェルタ様の言うことにも一理ありました。
確かに今の所、私の作る聖水には何の価値もないかもしれません。ですが効果は本物。それをただとしか見ていないからこそ、価値を推し量ることができない……などとは、言えるはずもありません。
「分かったなら荷物をまとめてとっととこの屋敷を去れ! もちろん、あんなゴミみたいな聖水の瓶も全て回収してな!」
フェルタ様の言葉はとっても強かったです。
私は言葉を失ってしまい、言うことを従う他ありません。ですから素直に振り返って、悔しさなんて綺麗さっぱり忘れてフェルタ様の前を後にします。
「えーっと、コレとコレ。それから……この服はもう要りませんね」
私はピンク色のドレスを引っ張り出しました。私には似合わないような綺麗な色の服です。
コレはフェルタ様がくれた服ですが、もう必要ありません。
「やっぱりこんな服、私には似合わないですよね」
もちろん最初から分かっていました。
だって私が今着ている服もパジャマで、私生活にほとんど興味がないことを物語っていました。
「思えばここお屋敷に来てから半年が経ちました。私には窮屈で、居場所がなくて、ずっとここで一人作業をして来た日々が愛おしく思えます」
私は馬鹿みたいなことを言ってしまった。
それを何となく自分で理解しつつも、それ以上思うことはありませんでした。
「まあ、だからなんだと言った話なんですけどね。あはは」
私は気色悪く一人、部屋の中で笑っていました。
まだやることは残っているので、早くやってしまいます。
「フェルタ様は私の持ち込んだものは全部持ち帰れと後から言っていたので、頑張って片付けないといけませんね」
私は部屋の隅を見ました。
そこには木で組まれた解体も楽々な研究卓が置いてありました。
大量の魔導書。
大量の薬品。
それから大量の液体の入った瓶が並べてあります。
ここにあるものは全て私の宝物。
私が幼少の頃より人生を賭けて築き上げたものでした。
「フェルタ様には理解してもらえませんでしたか。はぁー、残念です」
私は大きなため息を吐いてしまいました。
とはいえ理解してもらえないのも事実です。確かにフェルタ様曰く、ここにあるものは全てガラクタ。何の意味もありません。
すなわち私自身に価値がないのと同じです。
「私が伯爵令嬢でなければこんなことにはならなかったのでしょうが……政略結婚、失敗ですね」
私は天を仰いでしまいました。
元々結婚したかったわけではありませんでしたが、相手方が如何しても言うので婚約飲んだのが現状です。
用済みとなれば切り捨てられてもおかしくはありません。
それが貴族の間柄。薄っぺらい関係が丁度いいのでしょうね。
「いい人生経験になりました。フェルタ様には感謝しないといけませんね」
私はフェルタ様のことを恨んだら憎んだりはしません。
むしろ見つめ直す機会を与えてもらえただか幸運です。もちろん負け惜しみではありません。私に感性が足りないだけです。
「マリッジブルー? いいえ、結婚は婚約ごと無しになったんでしたね。まあ、切り替えましょうか」
私は卓を片付けました。
パンと折り畳むと簡単にコンパクトに纏まり、積んであった本や瓶、薬品の数々は汚さないように気を付けつつトランクの中に収納します。
「聖水……ごめんなさい。私にもっと力があれば、貴方を輝かせてあげられたのに」
私は自分の力の無さを恨みました。
それから荷物を片付け終えると、私は一言。
「さらば私の箱庭。私の窮屈な
それだけ言い終えるとスッキリしました。
体の中の煮凝りが溶けて無くなり、私はお屋敷を後にしました。
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