星に願いを聞かせたか

そうざ

Did You Make a Wish upon a Star

 店の片隅に笹竹が生えてやがる――何だ、そうか。

 色取り取りの短冊。稚拙な文字が他意のない笑みを呼ぶ、未就学児の無邪気な夢飾りだ。

 ほとんどが『○○になりたい』だ。大人にそこまで指示をされているとは思わんが、子供の夢は大概こんな語り口なんだろうな。ちらほら混じってる『○○が欲しい』は、家庭の経済状況が表れてるのかも知れん。


『せんせいになりたい』

『はなやさんになりたい』

『やきゅうせんしゅになりたい』

 当然、職業が並ぶ。意外と俺の子供時代と大差ないな。


『ゆうちゆうばになりたい』

 それでもやっぱり時代性は反映されてる。


『ママになりたい』

 国の行く末を憂う子も居るらしい。それとも母子の一心同体願望か。


『はなやさんになりたい』

 それ、さっき読んだ。誰かさんと夢が被ってるよ、もっと個性を磨かなきゃ。


『しょうぼうしゃになりたい』

 七夕が終わるまでに『ゃ』を消すか『のりたい』に書き直しなさい。このままだと君の敬称は将来『台』になるぞ。


『おかしがほしい』

『おもちゃがほしい』

『おともだちがほしい』


 欲しい系は『おかねがほしい』に纏めてオッケー。大抵の事は金で片付くんだから。


 だけど、似通っていてもその子にとっては立派な夢だ。千差万別の必要はない。夢があるだけ良いじゃないか――。



「それじゃ、行くぞ」

 両脇から乗り込まれ、車内は忽ちぎゅうぎゅう詰めになった。

「短冊……書いた事ありますか?」

「タンザク? あぁ、七夕か。俺はガキん時からブレてないからなぁ」

「じゃあ、星に願いが届いた訳ですね」

「そういう事だな……あんたは書いた事あんの?」

 短冊なんて――記憶を手繰っても思い出せない。俺は夢なんか見た事があっただろうか。

「まさか、将来パトカーに乗りたいなんて書いた?」

 車内が苦笑で満たされた。

「駄目だよ、俺達みたいにちゃんとお巡りさんに成りたいって書かなきゃ」

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