第37話 それぞれの10年

「お母様」


やってくるのは末の娘。


リチャードを産んだ後、年子でもう1人男の子を産んだ、さらにその次の年も妊娠し娘を産んだ。


この辺りで侍医からヴィーにストップ要請が出た。


流石に短期間での繰り返しの出産は私の身体に負担をかけたらしい。


侍医から説明を受けたヴィーの顔はとても青ざめていた。


あんな顔は初めて見たとジルバも言っていた。


しばらく出産や育児で出れていなかった社交は少しずつ再開した。


ローラの付き添いもあったし、ロッテやアンネが便宜を図ってくれた。


リチャードはある程度大きくなると、託児室での預かりとなり、使用人の子供と一緒に成長した。


勿論次期侯爵としての勉強は別である。


今ではローラから引き継ぎ子供達に勉強を教える事もある。


この託児所の評判を受け、領地のお屋敷にも設置した。


ジルバ曰く、侯爵家への求人倍率が跳ね上がったらしい。


リチャードの乳母としての役目を終えたイリスは専属針子として我が家に残ってくれた。


次男のチェスターはどちらかと言うとヴィーに似て剣に興味があるらしく、日々ヴィー親衛隊という名の元部下の方から訓練を受けている。


色合いとしてはヴィーの髪色に私の瞳の緑を受け継いだ。


次女ビクトリアはローラが大好き。


ローラと同じ服を着たがり、同じ髪型をしたがる。


髪色も瞳も私に似た女の子である。


この10年で我が家は6人家族となりとても賑やかになった。


「どうしたの?ビクトリア」


「叔母様がいらっしゃいました」


「ご無沙汰しております侯爵夫人」


ビクトリアの後についてきたのは、タイガーリリー商会のエレナ。


「まぁ、そんな呼び方は嫌だわ」


「失礼、義姉上。まだ慣れなくて」


エレナは数年前にランベルト殿と結婚した。


タイガーリリー商会がローズウォーターで大繁盛したという事もあるが、ランベルト殿がヴィーに爵位を返上したのだ。


見事そのままエレナを射止めたわけだけれども流石に領地の管理をしてくれているのに爵位がないのもまずいとマーガレット家で持っていた男爵位を与えた訳である。


ヴィーはきっと最初からこの結末もわかっていたに違いない。


「今回はどうしたの?」


エレナは王都のお店を従業員に任せ、普段は領地いる。


「側妃殿下から呼び出しを受けたんです」


「あぁ、多分第一王子殿下の婚約の件ではなくて?」


第一王子殿下は成人を迎えますます国政に手をつけているらしい。


そしてこの度他国の王女殿下と婚約した。


第二王子殿下はオスカーとローラの婚約発表後しばらく謹慎をされていたけれどその後何食わぬ顔で招待されていない側近のお茶会などに参加しては顰蹙を買ったらしい。


さらにそれに輪をかけたのは婚約者のカメリア侯爵令嬢との不仲説。


カメリア侯爵家と王妃殿下は否定しているが、殿下からのドレス1着もカメリア侯爵家に贈られることもなくエスコートなどもしないようだ。


貴族の男としては完全にナシな人である。


「あ、そうそう義兄上から義姉上への贈り物もありますよ、後で見てくださいね」


「奥様、またアメジストですかね?」


「アリア、パープルサファイアかもしれませんよ」


すっかり専属侍女が身についたアリアとミリアが言う。


彼女たちはマーガレット家の使用人とそれぞれ結婚をし、託児所を利用して続けてくれている。


「お二人とも残念、今回はパープルダイヤモンドです。探すのに苦労しましたわ」


「「どちらにせよ紫ですわね」」


2人の声が揃う。


「もう、紫の宝石は充分じゃないかしら?」


ここ10年増えに増えたのは紫の石のついた装飾品。


「相もかわらず独占欲がエグいですね♪」


「今度は赤系でお願いしましょう、旦那様の髪色ですから」


「ガーネットとか良いと思うんだけれど」


アリアとミリアの会話にエレナが乗っかる。


「エレナ、ペリドットのカフスボタンかピアスがあればお願い」


私がそう言うと3人がニンマリと笑う。


「なんだかんだ言っても」


「奥様も」


「すぐにご用意しますね!」


今日も屋敷は平和である。

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