第16話 どちらが副産物か
領地から戻ってしばらく、昼はローズと過ごしたり侯爵夫人として勉強したりとそこそこ忙しい日が続いていた。
もっともまだまだ新米夫人なのでジルバやクレハたちが助けてくれる。
「奥様、工房から連絡が入りました。
こちらのお屋敷に向かっているそうです」
領地の工房に頼んでいたものが出来たらしく、なんと親方自ら王都まで持ってきてくれるんだとか。
遠くはないが近くはない距離をガラス製品を持って運ぶのはさぞ大変なことだろう。
「ジルバ、宿の手配と当面の滞在費やこちらに来るまでの旅費の精算をお願い」
ついでに親方には王都の流行を見て勉強して帰ってもらいましょう。
実は今回の計画、すでにヴィーには報告して予算も立てている。
ただ実際に試していないのでまだ成果が出るか不明だけれど。
「かしこまりました。
あと、庭師に薔薇の花びらも用意させますね」
ペコリとお辞儀しジルバが部屋から退出した。
「あんた、本当に侯爵夫人だったんだなぁ」
センスが良い家具が並ぶ応接室のソファに居心地の悪そうな親方が座る。
向かいは私、間にジルバが立ち、クレアとアリアが私の後ろに立つ。
「あら、疑ってらっしゃったの?」
「疑ってたわけじゃねぇが、そもそも侯爵夫人が街の小さなうちのような工房に来るなんて思いもしなかっただけでぇ」
ガシガシと髪をかく。
フランクな話し方だが、それを咎めるような者はいない。
「まぁそれは良い。
とりあえずご注文のものは作ってきたが、これは一体どう使うんだ?」
「それでは早速試してみましょう」
私が立つのと同時にジルバが薔薇の花びらを持ってきた。
作りたいのは薔薇の精油、そしてローズウォーターである。
私個人として使いたいのはローズウォーター。
何故ならこの世界、スキンケアは存在しない。
が、莉子としては塗りたい。
薔薇の産地であるマーガレット家、ここは作れるんでは?と思い至ったわけです。
本来なら反対だけれど副産物としての精油は石鹸の香り付けとして役に立つと思う。
石鹸は高級品だが実用的なものしかなく匂い付きなどない。
なので上手くいけばヒットするのでは?と思う。
「まさか奥様、その得体の知れないものをぬるわけではないですよね?」
実験は成功であるほんの少しの精油とローズウォーターの出来上がりである。
早速ローズウォーターを手の甲に塗って試そうとしたところクレハにとめられる。
「肌に塗るもので正しく使えばお肌の調子も良くなる水よ」
得体の知れないものではないよ?という意味を込めて伝えてみたけれど、クレハの表情は変わらない。
「肌に塗るものなのですね、では私ども侍女が責任を持って確認してからお使いくださいませ」
キランとクレハとアリアの目が光ったように見える。
「パッチテストもするし平気よ」
「パッチテストとはなんでございましょうか?」
グイグイやってるねクレハ!
結果を言うとクレハに押し切られ、侍女から選抜された5名が試してそれぞれ結果を報告してくれるらしいです。
それで安全を確保してからようやく私は使うことができるらしい。
そのやりとりを親方はちょっと、いやだいぶ苦笑いで、ジルバは貼り付けた笑みで見ていた。
助けてはくれないのね。
「奥様、厳選なる選考の上治験者を連れて参りました」
その日の夜には早々にクレハが4人の使用人を連れてきた。
「わたくしを含む5名でございます」
分かってはいたがクレハはやる気満々である。
パッチテストの仕方を教えて、その後に顔などになるようにも伝えてあの後追加で作ったローズウォーターをそれぞれに渡すと嬉々として持ち帰っていった。
その夜ジルバから話を聞いたヴィーにめちゃくちゃ慰められたのはあとの話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます