第12話 ガラス工房

「昨日はありがとうございました」


朝、さらにくたびれた様なランベルト殿と会った。


仕事を増やしてしまった様で申し訳ない。


「私は今日、ランベルトと共に執務室にいるがどうする?」


「出来ることがあるならお手伝いしますし、必要ないならちょっと領地を見に行きたいかと」


実はマーガレット領、これと言った特産物がないのである。


もちろん広大な敷地に、豊かな大地なので飢えている訳ではない。


訳ではないが、目玉的なものがない。


あらかじめ見た資料によると薔薇が有名なので王都などに出荷されていたりもする。


なら、あれが作れないかと思ったわけである。




「ガラス工房でございますか?」


領館の執事長であるフィーノに尋ねる。


彼もまたヴィーの部下らしく、ヴィーの退官と共に侯爵家にやってきたらしい。


ランベルト殿は文官タイプで腕はあまりらしく、領館はその分戦える人が多めに配置されているようだ。


「ええ、できればこの領地の方の工房が良いのだけれど」


「王都のお店の支店などの方が大きいですが、それでも良いのでしょうか?」


「ええ、もちろん工房の大きさは気にしないわ」


不思議そうな顔をしながら教えてもらった工房に護衛とミリアと共に向かった。





「奥様かなりこじんまりとした工房ですが、本当にここでよろしいので?」


領地出身だと言う護衛が案内をしてくれる。


「問題ないわ」


そう言って扉を開ける。


少し大きめの住宅のような工房だ。


看板がなければお店だと言うこともわからないかもしれない。







「こう言うのを作って欲しいのだけれどできるかしら?」


簡単なイラストを見せる。


「なんでぇ、これは?」


見たこともないのだろう、不思議そうに工房の親方は紙を覗き込む。


不思議なイラストとは、水蒸気蒸留器である。


そう、薔薇が出荷出来るほどに数があるならローズウォーターが作れるのではないかと考えたのだ。


この世界に化粧水の概念はない。


試しに使ってみてはどうかと思ったのだ。


もちろん、薔薇の精油も石鹸に混ぜたり香水にしたりと色々な用途に使えるので領地の特産品としてのメインはそちらである。


ただ私本人が使うと言うところで言うとメインは精油を使った残りのローズウォーターである。


「こう言うのは大通りの店に頼んだ方が早いんじゃねえか?

うちなんかよりよ」


「大通りのお店は王都のお店の支店でしょう?」


「そうだ、だからこそいろんな注文に応えれるだろうよ」


「領地のものを作るのに、王都のお店にお金を落とすなんて嫌よ。

出来るの?出来ないの?」


上手くいけば継続してものを作れる筈だ。


なら王都のお店にやらすのは得策じゃない。


そもそも領地以外のお店にお金を落とすのはあまり意味がないわ。


「やってくれるなら試作品が出来たら侯爵家まで連絡を頂戴、キャロラインの依頼と言えば伝わるわ」


「あ、あんたが新しい侯爵夫人か!」


親方が目を見開いてこちらを見る。


身なりからそれなりには見られていたでしょうがキャロラインはお披露目をまだしていないから顔は知られてない。


「ええ、よろしくね?」


にっこり貴族スマイルで返した。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る