第2話 ラノベの世界かよ

「奥様、メイド長のクレハでございます。

ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」


翌朝早く、ベットから起き上がれないわたしを表情は変わらないものの楽しそうに見ながら侯爵様は出仕して行った。


日が高くなってから入ってきた妙齢のお仕着せをきた女性が名乗りを上げた。


思わずシーツを肩まで被るよね。


ガウンは羽織ってるんだけどさ。


「キャロラインですわ」


上半身を起こして挨拶をする。


昨日も全く容赦してくれない侯爵様に翻弄された私はまたしてもベットにダウンしていた。


一昨日は結婚誓約書にサインさせられ家令のジルバだけ紹介してもらって、そのあとはたくさんのメイドに服を脱がされ磨かれランジェリーを着せれ寝室に放り込まれた。


なのできちんと挨拶はしていなかった。


昨日も侯爵様が出て行ってからはほぼ寝てたからそっとしていてくれたんだろう。






「こちらはアリアとミリア、奥様専属の侍女でございます。何かあればこの2人にお申し付け下さいませ」


クレハの言葉に2人は静かに頭を下げる。


実はキャロライン、侍女を連れてきていないのだ。


侯爵家より連れてこないようにと厳命されたのである。


まぁたしかに子爵家の侍女では侯爵家ではやっていけそうにもないし、恐らくあまり信用の置けないものを屋敷に置いておきたくないのではないかと思う。


「アリアにミリアですね、これからよろしく頼みます」


私の回答に2人はびっくりした顔をした。


クレハだけは片眉を上げただけに留めたので、経験の差かしら。


一昨日キャロラインを見ているなら、たしかにこんな反応も致し方ない。


「昨日はごめんなさいね、随分な態度を取ったと反省しているわ」


「奥様、私どもには謝罪は不要です」


「ひどい態度を取ったと思っているわ」


「奥様、侯爵夫人たるもの使用人に簡単に謝るものではございません」


「・・・そうね、でも本当にごめんなさい」


出来るなら使用人とは良好な関係を築いていきたいと思っているが、難しいかもしれないと思う。


「・・・奥様、本日はどのように過ごされますか?」


これ以上言ってもしょうがないと思ったのかクレハは話題を変えてくれた。


「あまり体調が良くないので出来れば部屋ですごいしたいと思っているわ」


「かしこまりました」


それではとクレハは退出した。








「奥様、お手持ちのドレスには首の隠れるものがございませんで」


着替えを持ってくるように頼んだ困ったようにアリアが告げた。


実はキャロライン、自分の服を全く覚えていないのである。


多分何着持っているかも知らない。


許されるだけ仕立てては飽きたら捨てていた。


「別に首の出るものでも構わないのだけれど?」


なぜに首の隠れるもの限定なのだろう?


「お、奥様、こちらを」


ミリアがそっと手鏡を渡してくれる。


中に映るのは緩やかにカーブした金髪の髪に水色の瞳。


そして、首の上から下までの鬱血痕。


「何これ!?」


なんてこと!使用人とはいえこんな姿で人前に出るなんて!!!


「ショールをはおられますか?」


お願いします、迅速に、早急に!


恥ずかしすぎて泣ける。


思わずシーツを頭から被った私は悪くないと思う。







「なぜ怒ってるんだ?」


夜遅くに帰ってきた侯爵様に思わずジト目で見てしまうのは致し方ないと思う。


今日はもう湯浴みをしたのかローブ姿だった。


「痕!こんなにいっぱいでものすごく恥ずかしかったんですよ」


「ああ、それか」


それがどうしたと言わんばかりにソファに座る。


「首を隠せるドレスがなくて、一日中ショールを巻いて過ごしたんですよ。本当に恥ずかしかったんですから」


初めがそうだったからか、侯爵様の前ではどうしても莉子として接してしまう。


侯爵様もそんな態度を咎めたりはしない。


「分かった、明日仕立て屋を呼んでおく」


だから良いだろうとまた抱き抱えられる。


侯爵様に抱き上げられるのにすこし慣れてしまった。


びっくりするし恥ずかしくて顔は赤くなってしまう。


でも抵抗しても結局下ろしてはもらえない。


「ドレスを欲しいわけじゃなくて」


痕を付けないでと言ってるのだけれど。


きっとそれは聞いてもらえないんだろうなぁ。


「侯爵様!」


ベットの上に降ろされた途端に首元に降ってくる唇に思わず身体に力が入る。


「今日はしない、一緒に寝るだけだ」


そう言って抱え込まれてしまう。


覚えさせられた侯爵様の温もりに瞼を閉じた。











夢を見た。


莉子の頃にハマっていた乙女ゲーム。


『花束は君のために』


タイトルに因んで、花の苗字の攻略対象と恋に落ちる男爵令嬢のお話である。


確かヒロインのデフォルト名は、ダミア・スターチス。


攻略対象は王太子のアルバート・ネメシア。


騎士団長の息子のベルン・ディアスキア。


王太子の側近であるオスカー・アロンソア。


教師のワイス・ヘミメリス。


確か私はアルバートとオスカーのルートが好きで良くやってた。


アルバートのルートには彼の婚約者の侯爵令嬢が悪役令嬢として出てきてて。


確か名前はーーー。



アウローラ、マーガレット?


赤茶の髪に、紫色の瞳。


確か宰相の娘という設定だった。


幼い頃に実の母を亡くし、父親は忙しくてろくに家に戻らず、継母には疎まれ異母弟ばかりを優遇されて居場所がないアウローラ。


幼くして出会った王太子のアルバートに一目惚れしたものの高飛車な態度に2人はうまくいかず、挙句ヒロインに嫌がらせをしたとして処刑される令嬢である。


宰相である実の父親も、ましてや継母もアウローラを切り捨ててしまう。


宰相職の侯爵様。


嫁ぎ先のマーガレット家。


王家のネメシア、同じ侯爵家のアロンソワ、伯爵のディアスキア、子爵家のヘミメリス。


そしてスターチス男爵家。


聞き覚えのある家名ばかり。


私の名前はキャロライン。


マーガレット家に嫁いだ後妻。


つまり、侯爵様の娘が悪役令嬢で、その悪役令嬢に意地悪するのが私であるーー。






どこのラノベだろう。


乙女ゲームの世界に転生するなんて。


















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