転生したら閨の中でした

月丸

第1話 私は誰だった?

記憶が走馬灯のように流れて、まるで映画のダイジェストを見ているようだった。


わたしは、そう。


長谷川莉子だったーー。


32歳のOLで今まで結婚はおろか付き合った人すらいなくて、家に帰っては乙女ゲームやラノベで恋愛を楽しんでた。


いわゆる喪女。


あれ?じゃあ今は?







「おい、大丈夫か?」


掛けられた声にゆっくり瞼を開ける。


「えっ・・・」


見えたのは肌色、ゆっくり焦点があっていく。


近い!!!


今までに経験したことがない距離に見知らぬ男の顔。


「気がついたか」


ああ、そうか。


わたしはキャロラインだ。


子爵家の娘で、17歳。


そしてこの人は。


「こう、しゃくさま」


マーガレット侯爵様、私の旦那様になった人だ。


そして、今はーーー。



「続けるぞ」


その声とともに遮られた視界と、身体を這う侯爵様の手が私は現実に引き戻す。


そうだ、今は初夜の真っ最中だった。













「私はこれから出仕する、何かあれば家令のジルバに言え」


ローブを羽織りながら話す侯爵様は、これから仕事に行くらしい。


文句の一つも言いたい、いや山ほど言いたい。


しかし何かをいう元気も、腕すら動かす事すらままならない身体をベットに沈めたまま目だけは侯爵様を見る。


「いって、らっしゃい、ませ」


出した声はいつものような声にはならず、掠れたものを出すのが精一杯だった。


瞼は泣きすぎたせいか重たい。


「・・・行ってくる」


そう言って部屋を出た侯爵様を見届けて、瞼を閉じてベットに身を沈めた。


前世の記憶を思い出して混乱している私を侯爵様は容赦なく翻弄した。


未知の経験に怖くて泣いても、止めてと懇願しても。


手酷くされる事は無かったけれど決して手は休める事はなく最後までーーー、いやそれどころか何度も何度も、泣いて懇願しても止めてはくれなかった。


昨日の夜から始まったソレが終わったのは次の日のすっかり日が高くなった昼だった。


「ひどい、人だわ」


目を閉じて記憶を整理する。


莉子だった記憶を思い出しても、キャロラインだった頃の記憶を無くしたわけではない。


思い出して混濁していたものが段々と整理され混ざり合ってくる。


今世のキャロラインはそれはそれはクズだった。


子爵家に生まれ、人より恵まれた容姿で両親から甘やかされたこともあり随分と傲慢な態度も取っていた。


ドレスと宝石が大好きで、気に入らないことがあるとメイドに当たり散らし。


お茶会や夜会が大好きで、ちやほやしてくれる男性を見つけては話しかけていた。


莉子の頃には全くもって縁のないような人物だった。


そしてキャロラインは贅沢をさせてくれる結婚相手としてマーガレット侯爵様の後妻に入る事にした。


もっとも夜会で馴れ馴れしく声をかけたキャロラインを毛虫の如く嫌そうな顔をされたが。


なぜかその後に後妻の話が来て今に至る。


侯爵様は2年前に先妻をなくされ、4歳になる一人娘のアウローラ様と2人で暮らしている。


もっとも侯爵様は宰相であらせられるから、多忙で家にあまり帰らないと聞く。


だからこそキャロラインは侯爵様に目をつけたのだ。


先妻の娘などさっさと追いやって、侯爵様との間に跡取りを設ければ自分の立場は安泰だし、跡取りさえ産めば義務は果たしたとばかりに愛人を見つけて侯爵夫人として楽しく暮らすつもりだった。


我ながら本当にクズである。


そして悲しいかな、そんなクズが今世の自分である。


「っ!痛い」


少し身体を動かしただけで痛む身体にまた涙が滲む。


今世の記憶があるのだ。


貴族の結婚がどういうものかもちろん理解しているし、跡取りを産む事を期待されて嫁いだ身としては昨夜の行為は想定内の事だった。


けれども、1回だけならまだしも夜通しましてや翌日の昼までとは想定外だった。



記憶が戻ってすぐだったこともあり、あの時の私はキャロラインではなく完全に莉子だった。


きっと貴族の娘らしからぬ行動も言動もしたであろうわたしに侯爵様決して咎めはしなかった。


懇願しても途中で止めてはくれなかったが、痛いと溢せば大丈夫かと気を遣ってはくれたし、動けない私も抱き上げて身体も清めてくれた。



思わぬ長湯から寝室へ戻ればいつの間にか綺麗になっていたリネンたちに赤面したが。


侯爵家の使用人って物凄く優秀なんだなと気が遠くなった。


この先どの顔見せて過ごせば良いのか。


ああでも今はただただ。


「眠い」


だって子爵家のキャロラインの部屋のベットだって、もちろん莉子の頃だって比べ物にならないくらいにはこのベット寝心地が良いのである。


意識が遠のくのをゆっくり感じた。















「起きたか」


目が覚めたら夜だった。


掛けられた声に反射的に顔を向ければビシッと服を着こなした侯爵様。


表情筋が動かないせいでいかつく見えるけれど、顔は整っているしバリトンボイスは前世の莉子的にはヒットである。


キャロラインの好みでは無かったけれど。


「そのままで良い」


慌ててベットから起きようとするのを遮られそっと背中と膝の下手が差し入れられる。


「えっ!やだ!侯爵様」


少しの浮遊間の後抱き上げられたと気付いて慌てて身体を動かすも、びくともしない。


「暴れるな」


そのままソファに座らされる。


テーブルにはフルーツやスコーンなどの軽食がいつの間にか置かれていた。


そう言えば昨日の晩から何も食べていないことに気づく。


「食べろ」


そう言われておずおずと手を伸ばした。


温かい紅茶に口をつければ自分の喉が思ったよりも乾いていることに気がつく。


「美味しい」


今まで飲んだ中で一番美味しい。


茶葉も入れるメイドの腕も良いのだろうな。


温かいスコーンはほんのり甘い。


すでに夕食を食べたのか侯爵様は向かいに座り紅茶だけを飲んでいた。


悔しいくらいに綺麗な所作に、恥ずかしくなる。


「どうした?」


ぼーっと見ていた私に侯爵様が声をかける。


言葉は多くないがちゃんと答えてくれるあたり律儀な人かもしれない。


思えば前世を思い出す前に夜会で話しかけた際も、とても嫌そうではあるけれど無視とかはされなかった気がする。


「ありがとう、ございました」


軽食とは言えなかなかのボリュームだった。


すっかりお腹は満たされたし、会話はないものの居心地が悪いものでは無かった。


そもそも私は食べるのに夢中だったけど、今までのキャロラインなら決してこんな時に静かに食べるなんて選択はしなかっただろう。


前世との記憶が混ざった今はどちらかといえば莉子の感覚が強いのでもはや以前のキャロラインに戻るのは無理だけれど。


「明日は朝から出仕しないといけない」


「そうですか、大変ですね」


宰相という地位はなかなかに忙しいらしい。


式も披露宴もないサインだけの再婚とはいえ、結婚して翌日の昼から仕事だものね。


「だからもう寝る」


「おやすみなさいませ」


そう言って席をたった侯爵様を部屋から見送ろうと私も立ち上がろうとすると、素早く横に来た侯爵様に抱き抱えられる。


「侯爵様!歩けますから」


だからもう部屋に帰って、そっとしておいて欲しいと思いながら降りようとするもあいも変わらずびくりともしない。


そのまま再びベットに降ろされ、上にのしかかられる。


あれ?


「一緒に決まっている、新婚だからな」


ニヤリととてもとても悪どい笑顔で侯爵様は楽しそうに笑いましたとさ。




























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