第71話 ファーストきっす?

「うぴゃぁーーーっ!!」


 シュマブラで愚弟相手に大敗した俺。


 疲労困憊の先に手にしたテンションのままに階段を駆け上がる。


「うぴゃぴゃぴゃぴゃッ」


 自分でもよく分からない謎なテンション。


 力を使って疲れがあるというのに、階段を一段一段のぼる動作すら楽しくてしょうがない。


 己の底から溢れ出る愉悦。


 声を出さずにはいられない。


 喜ばずにはいられない。


「うぴゃーーッ!!」


 再び歓喜の雄たけび。


 踊り場を華麗に、且つ豪快にターン。


 理想と成りえる我が聖地(自室)を目指す。


―――ダダダダッ、ガッ、バタンッ!!。


「ぅびゃッ」


 最後の段差。

 それに足元をとられてこけた。


 顔面を床に強打する。

 しばらく悶絶。

 舌も噛んだ。

 いらひ。


「……うぅ、血の味…、まずぅ」


 鼻と唇から血が流れでる。


 口内に鉄の味が充満して不愉快だ。


 俺は袖で鼻血を拭い、舌をべぇっと出しながら立ち上がる。そして、目前のドアノブへと手を掛けた。


「うぴょーーーッ!!」


 隔離された防音室。


 誰だってマイルームへ足を踏み入れば、気分は上々。


 俺はより一層叫び散らかした。

 ついでに歓喜の舞と歌もお披露目しちゃう。


 歌って踊れるラッシュな俺。

 多分SKよりアイドルに向いてると思う。


 アイドルVTuber、豪神王ラッシュ。


 きっとその界隈で世界一も夢ではない。


 まぁ、アイドルなんて女々しいものに、男の中の漢である俺は興味なんてさらさらないが。


 ラッシュは着飾らず、ありのまま。


 カッコいい姿を晒すのみよ。


 っふ。


「にぇむれぇ~~♪、俺にょ娘ぇ~♪」


―――ガッ、バタンッ!!。


「うびゅッ」


 カッコよく歌いながら舞ってたら、足が絡んでこけた。


 床に顔面を強打。


 再びの衝撃で傷口が広がったのか、さっきよりも鼻と唇から血がダバー。


 思わず自室をでて、二階にあるトイレに駆け込み、手洗いをする場所で顔を洗う。


 早くしないとSKが戻ってきてしまう。


 そしたらラッシュな配信がままならない。


 ここで無駄な時間を消費している場合じゃないんだ、俺は。


 とまれぇ~、血~~。


「よひ…とまっら」


 顔をひたすら水でごしごし。

 

 鼻血が止まった(止まってない)ので部屋へと戻る。


 唇を切ってまだ血が滲むけど、痛む舌で舐めておけば問題ない。ペロペロペロ。


 というか最近よくこける。


 ラッシュな体の感覚が忘れられないのが原因かもしれない。


 この体は小柄が過ぎる。


 実に腹立たしい。


 早く成長期こい。


 男らしく成長して、こんな女々しさからはさっさと卒業だ。


「ふんッ」


 俺は鼻を鳴らして、ゲーミングチェアへと腰を下ろす。


 そして我が宿敵、つらぬきのソフトに冥土へのお土産を渡すため、PCの電源を入れた。


== 豪神王ラッシュ、配信スタート == 


「いら、しゅちゅじんじゃぁーーーッ!!」


 配信開始と同時に雄たけび(始まりの挨拶)。


 俺はゲーミングチェアの上で立ち上がり、右手に持ったマウスを天に掲げた。


【豪神王ラッシュ】

 チャンネル登録者数4.9万人。

 現在のライブ視聴者数19人。


≫初手からキチガ〇化は草なんよ。

≫やっときた。

≫うるせぇ。

≫みみないなった。

≫よぉバ美肉野郎。


 徐々に娘達が集う中、俺は宿敵の元へと駆ける。


『ここより先は弱き者の世界』

『この場は零度の世界』

『甘さはない』


 道中の雑魚を慣れた手つきで蹴散らし、つらぬきのソフトと対峙。


 夕食の前のような変な行動はなく、普通に戦闘。


 当然ながらにYOU DEIDである。


 あぅ?。


「…らっちゅ、ちんらった」


 一撃、首元に短槍。

 二撃、鳩尾に長剣。


 そして絶命するラッシュな俺。


 理想が死んでいく様はいつ見ても悲しい。


 SKのこともあってか、より一層、そう思う。


【豪神王ラッシュ】

 チャンネル登録者数4.9万人。

 現在のライブ視聴者数2900人。

 

≫らっちゅwwかわいいww。

≫ちんらったねよしよし。

≫また頑張ろうね。

≫SKは?はよ出せ?4ね?え?。

≫耳障り転生はよ。

≫[メッセージが削除されました]


「各なりゅうえは、神成る力の開放ッ!!、おもいちれぇえいッ!!」


 俺は死力を尽くして戦うことを決意。


 これ以上、悲しい思いをしない為に。


「おでは、負けるわけにはいかないんだはぁああッ!!」


「台詞はカッコいいのに声が可愛いの笑える…ふふっ」


「見えりゅ、めえりゅぞ!!、きちゃまの行動しゅべてッ!!」


「おぉ、今のよく避けれたな~」


「うぉうりぁッ!!、ちねぇえいッ!!、うぴゃぴゃほぉーーいッ!!」


「ふふっ、ふふ、なんだその掛け声、相変わらず美…じゃなくて、ラッシュは馬鹿丸出しだなぁ~」

 

 黒い靄、説教。


 恐れはあれど、俺は悲しみを糧に、それらを乗り越え時を司る。


 全てはあるべき理想がために。


 見える景色に意識を集中し、世を静定。


 我は豪神王ラッシュ成る者ぞ。


 そこをどけ、つらぬきのソフトよッ。


【豪神王ラッシュ】

 チャンネル登録者数4.9万人。

 現在のライブ視聴者数4100人。


≫ん?犯人声が二つ…SKか?。

≫SKきtらぁあッ。

≫ぬるっと登場してきたなw。

≫てかラッシュSK来たこと気づいて無くね?。

≫おいバ美肉野郎収益化申請したか?いつになったら金投げれんだよksがくったばすぞてめぇ。


 知っている、あれもこれも知っている。


 俺はすべてを知っている。


 だけれど俺の体力は消費する一方。


 過労死一歩手前。

 

 俺は疲労と共に這い寄ってきた眠気に耐えつつ、されどデスクの上に突っ伏した。


 目前に迫った勝利を手放すまいと、白目を剥きながら気合で意識を保つ。


「あーあ、死んじゃった。あともうちょっとだったのに何で急に操作止めちゃうんだ?」


「さおあおおあんdふぉあおえいのあ4」


「なにいってるかわからん、ハッキリ喋りなさいッ!!」


―――ぽかッ。


 不意にやってきた後頭部への軽い衝撃。


 俺は白目を剥きながらも顔を上げ、後ろを振り返る。


 気のせいか、SKがいた。


 ……。


 …あぅ?。


「うわ、どしたその鼻血ッ!!」


「うぷゅっ」


 いつの間にか背後にいたSK。


 ボケーっと眺めていたら、SKが俺の頭部をガシっと掴んで、まじまじと顔をみてきた。


 女々しい顔、そんながっつりとみないでくだたい。


 はずかちぃ。


 というかいつからそこに?。


 もしかしてさっきからずっといた?。


 なんか声が聞こえるなぁって思ってたけど気のせいじゃなかった?、え?。


「うわぁ、唇と舌ベロの方も切れてる、痛そう…」


「あぶあおばおっあぶふぇえ」


「じっとしてなさいッ!!」


「…あぶぅ」


 なんとか掴まれた頭部を自由にと藻掻いていたら怒られた。


 怒られたくないからじっとする。


 未だに姉面をするSKを仕方なく見返す。


 とても心配そうな顔。


 不意にそれが近づいてくる。


―――はむっ。


 唇の先に感じる柔らかい感触。


 次に訪れる、ぬるっと動く何か。


 ぬるっと動く何かは、口内をペロペロと進む。


 ………ん??。


「ん~、この辺かなぁこふぉふぉへんぁ?


「ん?…んぅ?、んへろぉ?」


 未知なる感覚。

 よく分からない。

 よく分からないけど、なんかすごい。


 俺は口内を動くナメクジさんの感触に全集中。


 なんだか体がぽかぽかしてきた。暖かい。


「ぷはぁーーっ、これでよしッ!!」


 頭部の拘束を解いてSK。


 最後に血が滲む唇を「ぺろん」と舐めて、俺の顔を布でフキフキしながらにっこりスマイル。


 無邪気な少女の笑顔。


 褒めてほしそうにこちらを見てる。


 いや、えっと、あの、その…これはいったいどいうことだってばよ?。


 眠気も疲労も一時的に吹っ飛ぶような彼女の突拍子もない行動。


 俺は「はぁ、はぁ」と粗く呼吸を繰り返し、頭の上に疑問符を浮かべる。


「昔、お隣のベッドの竹婆にきいたんだッ、傷口は舐めるとすぐ直るってさッ!!、あと、鼻の方は届かないからティッシュでも詰めとけな」

 

 説明を求む俺の視線から察してかSK。


 自信満々に竹婆が教えてくれたという民間療法を口にした。


 竹婆ってだれ…。


 俺はこの状況を引き起こしたであろう竹婆について考えつつ、SKから渡されたティッシュを丸めて鼻に詰めた。


【豪神王ラッシュ】

 チャンネル登録者数4.9万人。

 現在のライブ視聴者数1.2万人。


≫唇と舌に傷、民間療法…ふむ。

≫今ちゅっちゅした?。

≫んちゅぬちゅれろれろはぁはぁ。

≫未成年者への性的行為、ラッシュお前は終わりだ。

≫どっちも未成年だからせーふ。

≫ボイチェン外してもっかいやれ。


 視界の端に映るチャット欄。


 取り合えず配信を続行する気も体力も無いので、終わりとする。


「おつ……らっしゅ」」


【豪神王ラッシュ】

 チャンネル登録者数4.9万人。

 現在のライブ視聴者数1.8万人。


≫まてやw。

≫なにおわろうとしとんねん。

≫説明をもとむ。

≫ロリ百合展開ってことでOK?。


 たくさん集まってくれた娘達。


 それにバイバイしたあと、俺はSKを振り返る。


「ん?なんだ?」


 あっけらかんとした表情。


 まるでさっきのことが無かったかのようだ。


 こっちが幻覚を見ていたのではないかと錯覚するほどである。


「お、もう寝るか?」


 SKを警戒しつつ、俺はベッドにヨロヨロダイブ。横になる。


 ドッと疲れた。


 今はもう、ただ休みたい。


 にぇむい。


「Qwitterでマジマロの募集かけといたから、明日はちゃんとオフコラボ雑談配信しような!、へへへ」


 当然の様にベッドへ潜りこんで来てSK。


 距離をとろうとするも強制的に抱き枕にされた。


 密着状態。


 色々と思うところはあれど、疲労困憊な俺、すぐ寝付く。謎にSKに続いて。


 お休み世界、また明日。


「おねぇ……おっぱい……むにゃむにゃ」


「……」


 寝付いたあと。


 寝苦しさと妙な感覚に襲われ、目を覚ます。


「……みるく……むにゃむにゃ」


 背後から俺の胸元をもそもそとまさぐり、甘えた様な声で寝言を口にするSK。


 度重なるSKからのセクハラ。


 俺は胸元を両手でガードしつつ、眠りについた。


 …勘弁してくれ、マジで。


――後書き――


登場人物が多くなってきたのでちょい整理します。

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